伝説の北京五輪「金」から13年、エース健在
今夏の東京五輪に出場するソフトボールの女子日本代表15人が3月23日発表され、前回実施された2008年北京五輪で悲願の金メダルに輝いた38歳の鉄腕エース、上野由岐子(ビックカメラ高崎)らが順当に選ばれた。最大にして最強のライバルはパワーと技術を兼備した米国。「宿敵打倒」へ「守り重視」の選考で象徴される顔触れを探った。
日本を熱狂させた伝説の北京から13年。準決勝からの2日間で3連投し、計413球の熱投で金字塔を打ち立てた「上野の413球」は今でもスポーツ界の名場面として語り草になっている。
3度目の大舞台に挑むベテラン右腕は2019年に試合で打球が直撃して左顎を骨折し、緊急手術をして約4カ月間も実戦から離れたが、球速は国内トップクラスの120キロ近くと今も健在だ。多彩な変化球を織り交ぜた投球術も円熟の域に達しており「上野の1球」から東京五輪が事実上、幕を開ける可能性もある。
開幕戦は福島、決勝は横浜スタジアム
2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロは五輪実施競技から外れたが、ソフトボールは東京五輪で3大会ぶりに復帰した。五輪開幕2日前の7月21日、全競技を通じて最初に福島県営あづま球場で日本は難敵オーストラリアと開幕戦を戦う。
大会は米国、カナダ、イタリア、メキシコを含めた6カ国で総当たりの1次リーグを実施。取りこぼしは命取りになるシステムであり、1、2位が7月27日に横浜スタジアムでの決勝に進む。
「ソフト界のイチロー」山田恵里主将と峰幸代捕手の北京経験者
15人の日本代表メンバーで、上野とともに北京五輪を経験したのは「ソフトボール界のイチロー」とも呼ばれる主将の山田恵里外野手(デンソー)と捕手の峰幸代(トヨタ自動車)の3人。日本女子リーグで歴代最多安打記録を更新中の37歳、山田は「史上最高の打者」と評価も高く、ここ一番で頼もしい存在だ。
中学まで軟式野球に打ち込み、神奈川・厚木商高でソフトボールに転向。24歳で主将を務めた北京五輪では米国との決勝でソロ本塁打を放ち、歴史的な勝利に貢献した。
33歳の峰捕手は、北京五輪でエース上野の女房役として、さらに打撃面でも日本の屋台骨を支えて活躍。所属チームでは米国のモニカ・アボット投手と長年コンビを組んでおり、今回は無言のけん制にもなりそうだ。一度は引退しながら代表に戻ってきたのは大きい。
宇津木麗華監督は「北京を経験したメンバーは若い選手たちに『金メダルを取ったら人生が変わる』とよく話をしてくれている」と彼女たちの経験の力に期待する。
投手陣は「二刀流」藤田倭と最年少後藤希友ら3人
投手陣は上野のほか、投打の「二刀流」で注目される30歳の藤田倭(ビックカメラ高崎)、最年少の20歳左腕、後藤希友(トヨタ自動車)も入り、過去最少の3人体制という布陣となった。
宇津木監督は夏場の連戦や将来へ向けた経験も考慮し、上野と藤田を「二枚看板」として全幅の信頼を置き、速球派でテンポが良い成長株の後藤は制球力や守備力も評価して1次リーグでの1イニングやワンポイントの起用を想定している。
北京五輪では2日間で3試合を上野が孤軍奮闘で投げ抜いたが、尊敬する上野の背中を追う藤田の成長でベテランの負担を軽減できるのは大きい。
守り重視、捕手3人体制も異例
捕手の3人体制も異例だ。正捕手の我妻悠香(ビックカメラ高崎)に加え、斬新な配球でリードする清原奈侑(日立)と北京経験者の峰を選出。「守り重視」の布陣といえるが、タイプが異なる捕手の存在はバッテリー強化で相乗効果も生み、打撃面での期待もありそうだ。
内野守備は伝統的に鍛錬されており、外野も強肩の原田のどか(太陽誘電)、俊足で守備範囲の広い山田、山崎早紀(トヨタ自動車)と手堅く、米国にも引けを取らない。
「打倒米国」へ課題は打線の爆発力
2018年、世界選手権で2大会ぶり4度目の優勝を狙った日本は決勝で宿敵米国にタイブレークの延長十回、6―7で逆転サヨナラ負けを喫し、2大会連続準優勝に終わった。
当時はエース上野が世界屈指の実力を示した一方、2番手以降の投手層の不安が浮き彫りになった。東京五輪で金メダルを争う米国は計5人の投手を小刻みに継投。北京代表組のキャット・オスターマンやアボットらベテラン左腕も健在だ。
「打倒米国」へ目下の課題は、米国の投手陣を攻略する打線の爆発力だろう。主砲の山本優(ビックカメラ高崎)、強打の山崎、「二刀流」藤田とそろう右の長距離打者に加え、俊足巧打のベテラン山田の存在が融合すれば米国にとっても脅威となる。小技も交えた日本らしいソフトボールを展開できれば、3大会ぶりの連覇も見えてきそうだ。
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