エース上野由岐子の剛速球は体感160キロ以上?
東京五輪で7月24日の開会式に先立ち、2日前に福島県で競技開始のトップバッターを担うのがソフトボールだ。野球と似ているようで違う独特のルールは意外と知られていない。
日本が悲願の金メダルを獲得した2008年北京五輪以来、3大会ぶりに五輪種目へ復帰するソフトボール。日本女子の絶対的なエース、37歳の上野由岐子(ビックカメラ高崎)は球速110~120キロ前後の剛速球と豊富な球種を操る変化球が今も健在だ。北京五輪で準決勝から2日間で3連投した「上野の413球」は伝説の名場面として人々の記憶に残る。
ソフトボールではピッチャーズサークルから本塁までの距離が13.11メートルと野球の18.44メートルに比べ約3分の2しかなく、ボールの体感速度は、野球における160キロ以上にも匹敵するといわれる。打者の手元で浮き上がるライズボールやストンと落ちるドロップボールを組み合わせ、緩急の駆け引きも大きな魅力だ。
8回以降はタイブレーカー
ソフトボールは、五輪では1996年アトランタ大会から女子のみで正式種目に採用され、2008年北京五輪まで実施。東京五輪で3大会ぶりに五輪種目へ復帰する。使用球の大きさが円周12インチ(30.2~30.8センチ)で、国際試合では黄色いボールが使われることや、本塁から外野フェンスまでの距離がすべて一定で、右中間と左中間の膨らみがないフィールドのサイズなどが野球と大きく異なる。大きなボールを細くて短いバットで打つため、打球がそれほど遠くまで飛ばないのも特色だ。
各9人(後述するDPを使うと10人)の2チームが攻撃と守備を交互に行うが、競技場がコンパクトなためプレーがスピーディーで、スリリングなゲーム展開になるのも醍醐味。試合は7回までで、同点の場合は延長戦に入る。勝敗を早く決するため、8回以降は前回の最後に打撃を完了した選手を二塁ランナーとして置き、無死二塁からプレーを始めるタイブレーカーのルールが採用される。
投球間隔が20秒をオーバーすると「1ボール」
試合のスピードアップを図るため、ピッチャーの投球にかかる時間を1球ごとに本塁付近に置かれた「20秒計」で計測。時間をオーバーすると、打者に1ボールが宣告される。打者も投球間のサイン確認や素振りをするときに打席に片足を置いておく必要があり、違反すると1ストライクが宣告される。
DP(指名選手・DESIGNATED PLAYER)
プロ野球パ・リーグのDH(指名打者)に近いルール。基本的に打撃専門の選手だが、守備にもつけるのが特徴だ。DPを採用する場合、その人数は常時1名限定で、試合開始から終了まで継続が必要。10人で試合を行うことになる。
リエントリー(再出場)
先発した選手は交代された後でも一度に限り、再度出場できる独特なルールがある。ただし自分の元の打順を引き継いだプレーヤーと交代しなければならない。
一塁はダブルベース
野球のベースは全て1つだが、ソフトボールでは一塁ベースが二つある。塁間が18.29メートルと短いので、一塁での一塁手と打者走者のクロスプレーの危険性が高くなる。そこで両者の接触を避けるため、一塁ベースのみ二つ用意。白色をフェア地域、オレンジ色をファウル地域に置き、例えば内野ゴロの場合、原則として守備者は白色を使い、打者走者はオレンジ色を走り抜けるといった使い方で対応するルールになっている。
離塁アウト
投手の手からボールが離れるまで、走者は塁を離れることを禁止、違反するとアウトになるルール。野球のような「リード」が認められておらず、投手のモーションを盗んだ盗塁はソフトボールでは起こりえない。
故意四球
敬遠を宣言し、1球も投げずに打者を一塁へ歩かせられるのが「故意四球」だ。ソフトボールでは既に実施されてきたが、米大リーグでは2017年、日本のプロ野球では2018年から申告敬遠が導入された。
最強・米国がライバル、メキシコも成長
日本にとって最大のライバルは、ソフトボール発祥の地・米国。日本が悲願の金メダルに輝く2008年北京大会まで、米国は五輪正式採用の1996年アトランタ、2000年シドニー、2004年アテネと3連覇を果たした。ほか、近年米国からの選手が移入しているメキシコも、急速に戦力を強化させている。欧州も戦力を上げており、東京大会はダークホースが出てくる可能性もある。
「女イチロー」山田恵里が健在、二刀流の藤田倭も成長
過去4大会の五輪では出場枠は8チームだったが、東京大会では出場枠は6へと減っている。
過去の五輪における日本の成績は、アトランタ4位、シドニー銀、アテネ銅、北京で金。現役時代は名選手だった宇津木麗華監督の下、天才打者で「女イチロー」とも呼ばれる主将の山田恵里(日立)も健在。投打の「二刀流」藤田倭(太陽誘電)らも成長しており、打倒米国へ「ワンチーム」で強化を進めている。
エース上野は競技開始の初戦、7月22日が38歳の誕生日でもある。「運命的。年齢を感じさせない、まだまだできると思ってもらえるプレーを見せたい」と意欲をみなぎらせている。