伝説の413球から13年…39歳で再び頂点
4試合で計389球―。東京五輪のソフトボールで日本のエース上野由岐子(ビックカメラ高崎)が13年という長く苦しい道を経て、前回実施された2008年北京五輪以来の金メダルに輝いた。
2日間で計413球を投げ抜き「伝説」を残した北京五輪のマウンドとは違い、剛速球だけに頼らず勝負どころでドロップ(落ちる変化球)を駆使した熟練の投球術。制球力を磨いた新たなスタイルが輝きを放った。心技体ともに進化した右腕が、再び仲間と歓喜の瞬間を迎え、人さし指を夜空に突き立てた。
7月27日に行われた決勝の相手は、北京と同じ宿命のライバル米国。「投げられなくなるまで絶対に投げてやる」と覚悟を決めて先発した39歳の右腕は、チーム最年少の20歳、後藤希友(トヨタ自動車)に途中でマウンドを譲ったが、最終回の7回に再登板。最後の打者は尊敬する宇津木麗華監督直伝という内角をえぐるシュートで捕邪飛に打ち取った。
120キロの剛速球から変化球で勝負するスタイルに
かつては「オリエンタル・エクスプレス」と呼ばれ、球速120キロ近いスピードで打者を豪快にねじ伏せ、三振を量産したスタイルから進化した姿があった。今大会は緻密に計算した投球を駆使し、内外角に変化球を出し入れして三振を取ることにこだわらなかった。
ソフトボールは縦の変化で勝負するライズボールとドロップがある。腕を大きく回すウインドミル投法から球をリリースさせる直前に腰のあたりに当てて上向きに強い回転を与え、打者の手元でホップするのがライズボール。鋭い球なら約30~40センチほど浮き上がるように見えるといわれる。
この逆で落ちる変化球がドロップ。これはひざ元から地面すれすれにフォークボールのように落ちる。上野は決勝での米国戦でもワンバウンドするようなドロップがさえた。
球速30キロ差のチェンジアップも
さらに武器となるのはチェンジアップ。ストレートと同じフォームから掌で押し出すように投げる効果的な球種だ。速球とは30キロほども球速差があり、タイミングを狂わされると、バットは面白いように空を切る。
野球より短い13.11メートルのバッテリー間で、速球の体感スピードは160キロ近いとされるソフトボール。チェンジアップはそんな上野の投球術を支える球種でもある。
北京五輪以降は2大会で五輪競技から外れ、一時はモチベーション低下で「燃え尽き症候群」と言うほど苦しい時期もあった。そんな苦境を乗り越え、後輩にバトンを託す足掛かりも築いた金メダル。上野は「感無量です」と輝くばかりの笑顔を見せた。
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