白い巨人の新指揮官はユースを率いたクラブOB
ヨーロッパ王者のレアル・マドリーは出だしこそ良かったものの、無得点記録の更新、ライバルFCバルセロナとの“クラシコ”での大敗と、シーズン前半戦で躓いてしまった。クラシコで大敗を喫したことでジューレン・ロペテギ監督を解任し、暫定的に下部組織を率いるクラブOBサンティアゴ・ソラーリを指揮官に据えた。
ジネディーヌ・ジダンやルイス・フィーゴらとともに「銀河系軍団」でプレーした彼は、現役引退後マドリーで指導者としてのキャリアをスタート。ユースでの指揮を経てトップチーム指揮官に昇進と、まさにジダンと同じ道をたどってきているソラーリ。マドリーのフロントも、ジダンが紡いだ物語の再来を期待しているのだろうか。
渡り歩いた現役時代
サンティアゴ・ソラーリは、リオネル・メッシと同じアルゼンチンのロサリオ出身。またメッシ同様イタリアにルーツを持つアルゼンチン人だ。
1996年にリーベル・プレートでプロデビュー。その後1998年にスペインのアトレティコ・マドリーに移籍するも、クラブの2部降格を機に宿敵レアル・マドリーに移籍した。
銀河系軍団と呼ばれた当時のマドリーでは控えめな存在だったが、サイドや中盤の広いポジションでプレーできるユーティリティ性とセクシーなルックスで、プレーと人気両面でクラブの力となった。5年間の在籍中、2度のリーガ優勝と1度のチャンピオンズリーグ優勝を経験。
その後イタリアのインテルナツィオナーレ・ミラノに移籍し、セリエA3連覇にも貢献した。インテル退団後いくつかのクラブをわたり、2011年にウルグアイでキャリアに幕を下ろした。
監督としてはマドリー一筋
複数のクラブで成功を収めてきたソラーリだが、指揮官としてはマドリー一筋だ。
2013年、マドリーのユースで指導者としてのキャリアをスタートさせた。2015シーズンには当時レアル・マドリー・カスティージャ(Bチーム)を率いていたジダンがトップチームの監督に就任したことにより、フベニールA(ユースの最年長チーム)の監督がカスティージャの監督へ、空席となったフベニールAの指揮官にソラーリが就任した。
そして、前任のカスティージャ監督退任を受け、2016シーズンからカスティージャの監督を務めてきたのだ。この間、ヴィニシウス・ジュニオールやセルヒオ・レギロン、フェデリコ・バルベルデといった、現在トップチームで出場機会を掴みつつある若手の指導にあたってきた。
ジダンとはカテゴリ別の監督として連絡を密にとっていたと言われ、カスティージャの若手の様子を伝え、また戦術面でも意見を共有してきたという。
チームをよく知る男
ジダンとソラーリはともにOBとしてクラブに戻り、ユースやカスティージャの監督からトップクラブの監督に昇格したという共通点がある。しかも監督としてはマドリー一筋。そのため、ジダン同様ソラーリもフロレンティーノ・ペレス会長を中心とするフロント陣、そして選手たちとの関係は良好だ。
また世界最大級のビッグクラブならではの特殊なクラブの内情も理解している。マドリーでは、戦術と同等かそれ以上に、選手とフロント双方との関係構築が重要だ。ラファエル・ベニテスやジョゼ・モウリーニョ、そしてジダンを見ればわかるだろう。
ソラーリが暫定指揮官に就いて4試合に過ぎないが、チームは全勝。見事正式に指揮官就任を勝ち取った。ソラーリはこの間、ジダン時代のシンプルでダイレクトなサッカーに回帰した。
またレギュラー陣と若手をバランスよく起用している。ギャレス・ベイルを長年クリスティアーノ・ロナウドに譲っていた本来の左サイドに配置した。これによりベイルはここ数シーズン失っていた縦への推進力を取り戻した。
ベイルを明確にウィンガーとして起用したことで、ベンゼマもセンターフォワードとしての役割に専念できるようになった。これが奏功し、序盤ですでに公式戦得点数を2ケタにのせている。
またロペテギが起用を渋っていたヴィニシウスにプレー機会を与え、ルーカス・バスケスとのローテーションを採用。さらに、マルセロを負傷で欠く左サイドバックにレギロンを抜擢することで、ジダンが行ったマルコ・アセンシオ、カゼミーロの起用に似た刺激となっており、チームは上向き始めている。
選手からの信頼は厚い
ジダンとソラーリの違いをあげるなら、カリスマ性だ。ジダンはクラブレジェンド、そしてサッカー界の伝説ともいえる選手だった。そのカリスマ性によって、ロナウドやベイル、セルヒオ・ラモスといった個性の強いスター選手たちを束ね、かつモチベーターとして士気を高めることができた。ジダンはサッカー界において特異な存在であり、この点でソラーリは比肩するとは言い難い。
そのかわり、ソラーリはより物腰穏やかで冷静さが特徴。共通するのは選手からの信頼が厚い点だ。若手、ベテランと冷静に対話でき、チームの内情も把握している。わずかな時間でマドリーに落ち着きを与え、重圧から解放した。このチームに必要なのは、結局彼らのような男なのだろう。