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J3松本山雅は志を捨てた?名波浩監督の戦い方に賛否両論

2022 9/3 07:00KENTA
名波浩監督,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

攻撃サッカーを評価された名波監督

昨シーズン、J2最下位でフィニッシュした松本山雅。J1を戦っていた2019年から2年後の屈辱的なJ3降格からおよそ10か月が経った。

1年でのJ3突破&J2復帰を目指している今シーズンは第22節が終わった現在、昇格圏の2位鹿児島ユナイテッドと同勝ち点の3位という好位置につける。しかし、サポーターは今シーズンの名波浩監督(49)の戦い方を巡り、肯定派と否定派に二分されている。

昨シーズン終了直後、山雅のフロントは「攻撃的」「若手の育成に長けている」という理由で名波浩監督の継続を決めた。「攻撃的」とはどういうことなのか?と問われれば、少なくともかつてフロントが説明していたように「反町監督時代の受動的なスタイルではなく、自分たちで能動的に試合を動かしボールを保持して攻撃する」という答えに、山雅では定義づけられるだろう。

ではJ2からレベルの落ちるJ3で今、山雅はどんなサッカーをしているのか。

進化を感じさせたシーズンイン

今シーズン開幕直後は「攻撃的」なフットボールへの希望を感じさせる滑り出しだった。

キャンプでは新型コロナ陽性者が多く出てしまい、練習試合が満足にこなせなかった不安もあった中で、その分フィットネスの仕上がりを進められたことが功を奏して選手の動きはキレキレ。開幕節のカマタマーレ讃岐戦では要所で相手に競り勝ち、劇的勝利を収めた。

また、戦術面でチャレンジングな姿も見られた。本職ボランチの佐藤和弘を左サイドハーフ、ダブルボランチには米原とパウリーニョを置く4-4-2から試合に入り、そこから攻撃時に選手の配置が換わる可変システムを採用。

米原がセンターバック間に落ちて3バックを作り、右サイドバック前貴之がパウリーニョの脇へ上がり、佐藤和弘は中へ入ってインサイドハーフのようにプレー。大外は左サイドバックの下川が上がり、並びとしては3-1-4-2のように変形する。

もちろん安定感はまだまだ。可変した直後の縦パスをひっかけられてカウンターを受け失点するなど危険なミスも散見されたが、第5節テゲバジャーロ宮崎戦あたりまでは能動的に試合を進めていた。

シーズン途中から受動的なサッカーに

しかし、第6節岐阜戦あるいは第7節沼津戦あたりから激変。ボール保持を捨て相手のミスを待ってスペースにアタッカーを走らせるという、2019シーズン中盤戦までに反町監督がJ1で採用し、フロントが卒業するべきものだと宣言した、あの受動的なサッカーに一気に方針転換したのだ。その後の山雅は現在に至るまで1点差を守り勝つ戦いで勝ち点を積み重ねている。

実は山雅には「攻撃的」「能動的」にいく上で決定的な戦術的不備があり、昨シーズン、名波監督が就任してからあまり変わっていないというのが筆者の考えだ。それは選手間の距離。名波山雅は自陣深くからビルドアップするときに、味方と味方の距離をすごく近づける。おそらくミスが出て奪われてしまった後にすぐ奪い返すという意図だろう。

しかし、ボールを保持しようとするチーム、保持が上手くいっているチームが、自陣で味方同士の距離を近づけている光景は他に見たことがない。サッカーの理論上、相手はプレスをかけてくる場合に局地的に数的同数を作るため、味方同士が近づくと相手も付いてきてしまうので技術を発揮するスペースを無くしてしまうからだ。

つまり名波山雅はスペースを作って行う「前進」ではなく、本来なら相手の数が多い敵陣でやるべき「突破」を自陣深い位置でやってしまっている。もちろんすべての突破が成功しないわけではないが、この大きな間違いをずっと修正できず相手に自陣で捕まり続けるから、結局縦に放り込んで逃げる。

それが続き、とうとうボール保持を諦めて受動的なサッカーに逆戻り。はたしてこれは本当に今いる選手たちを最も活かす方法なのだろうか。

分断されるサポーターたち

ただ、J3だとこれで勝てているのも紛れもない事実だ。確実にJ2と比べてJ3はレベルが落ちる。守備時の強度、技術の正確性、選手の戦術理解度、攻撃の迫力や再現性などほとんどすべてJ2の方が格段に上だ。

加えて、J3は自分たちでボールを持とうというスタイルのチームが多く、選手の質も相まってミスが起こりやすい構造になっており、今の山雅の受動的なスタイルは相性がいい。第6節FC岐阜戦まで無失点が一度もなかった中、この戦い方に変えて失点率が一気に減ったことも大きいだろう(第5節まで:1試合平均1.4失点、第6節から第22節まで:1試合平均0.67失点)。

高卒2年目の横山歩夢は名波監督の下で覚醒した。圧倒的なスピードと巧みなドリブル、駆け引きの上手さで山雅の縦ポン戦術を成立させている。U19日本代表のエースにまでのし上がった。大卒1年目の菊井悠介は攻撃時の創造性で替えの利かない存在として君臨しているし、下川陽太と外山凌という両ウイングバックの躍動は素晴らしい。

名波監督は人心掌握に長けているようでチームには一体感があるし、2年以内に必ず昇格しなければならない現状を考えると仕方ない、よくやっているというサポーターも多い。

同時に、山雅が見せる腰の引けたスタイルと、かつてのフロントの発言との整合性に疑念を抱くサポーターも一定以上存在する。筆者の知り合いのスポンサー企業の社長さんも「今の山雅の試合はエンターテインメントとして何も面白くない」と話していたし、今年のJ3の中では圧倒的なチーム人件費を誇る山雅がこんなサッカーをやっていていいのかと考える自分もいる。J3を突破することはできたとしてもJ2では全く歯が立たず負け続けるイメージが頭から離れないサポーターも多いだろう。

本当にクラブ力が試されるのはこれからだ

結局のところ、名波監督がどんなサッカーを目指しているのか、松本山雅が見せたいものは何なのか、すごくわかりづらいままフワッと勝負のシーズン終盤戦に突入する。このままだと名波監督は森保一2世という評価をされてしまうだろう。ではクラブ、サポーターとしてどのようにチームを支えるべきなのだろうか。

やはり名波監督には、ボール保持時のポジショニングや技術を教えられる助っ人指導者が必要だと思う。今からでも12試合残っているので遅くはない。このまま不確実なミス待ちサッカーをしているだけでは終盤戦の難局を乗り越えることは厳しいだろうし、「攻撃的」なスタイルを目指すというかつての発言とも整合性が取れない。

山雅最大の強みは日本屈指のスタジアムとサポーターだ。J3ではかつてないほどの脅威になれるはず。可能な限りスタジアムで声援を送り、相手チームにプレッシャーを与え、全てを肯定ないし否定するのではなく、それぞれがチームの現状を考え発信することが「能動的」なクラブへの道だと筆者は思う。

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