近年は外国籍FW勢が「夏男」を襲名
暑さのピークを迎える8月にも、YBCルヴァンカップやACLを挟む過密日程が組まれているJ1リーグ戦。容赦なく4試合(一部チームは5試合)が行われ、選手たちは猛暑という難敵とも戦わなければならず、体力面においてシーズンで一番辛い時期を迎える…。
しかしながら、なかには暑さへの耐性が高く、真夏に輝く選手がいる。それが顕著になるのが、8月のJ1月間MVPだろう。この個人表彰制度ができた13年から昨年までの“夏男”を、下記の表にまとめてみた。
過去の夏男9人中、7人をFWが占める。月間MVP全体を見ても、ゴールやアシストという結果が数字で表れる分、評価されやすいFWが選ばれる傾向は強い。歴代受賞者全78人中45人、57.7%がFWだった。8月の受賞者は、その傾向がより色濃く出ているわけだ。
近年は、外国籍ゴールゲッターたちが真夏にゴールの花火を乱れ打ち、文句なしに栄誉を手にしている印象が強い。18年8月月間MVPのジョー(名古屋グランパス)は、8月に1試合の出場停止がありながらも2度のハットトリックを含む、5試合10ゴールの猛威を振るった。
同じく20年のオルンガ(柏レイソル)は、8月の6試合で6発の花火を連射。身体能力の高さだけでなく、DFを出し抜くインテリジェンスに富んだゴールの数々で、勢いはノンストップ状態だった。なお、オルンガはその年の年間MVPにも輝いている。
昨季の夏男となった横浜F・マリノスのレオ・セアラは、硬軟自在の得点パターンでハットトリック1つを含む6ゴール(7試合出場)と爆発。さらに3つのアシストも挙げ、8月に5勝1分け1敗の快進撃を見せたトリコロール軍団を牽引した。
優勝チームから8月月間MVPは生まれない?
身長190㎝オーバーのジョー、オルンガの巨漢FWに挟まれる形で、19年8月の月間MVPに選出されたのが、168㎝の小兵サイドアタッカー・柏好文(サンフレッチェ広島)だ。
8月は全5試合にフル出場。「ボールキープによるPA進入数ランキング」では、チャナティップ(北海道コンサドーレ札幌)に次いで惜しくも2位だったものの、キレキレのドリブルで左サイドを制圧。3勝2分けで負け知らずだった広島の8月攻勢に貢献している。また、この間に2得点を記録、23節FC東京戦での強引な突破からの貴重な決勝弾も評価を高めた要素となったに違いない。
柏と同タイプの齋藤学(横浜FM)も15年夏は身体のキレが抜群で、全4戦にフル出場し、3ゴール2アシストを叩き出した。切れ味鋭いサイドアタッカーは、酷暑でDFの消耗が早い夏に輝けるのかもしれない。
17年以前では、鹿島アントラーズから金崎夢生、柴崎岳、大迫勇也の日本代表経験者3人が夏男になっている。特に、柴崎は14年8月のキリンチャレンジカップ、大迫は13年7月の東アジアカップにそれぞれ臨む日本代表に初選出され、ブレイクの萌芽期に月間MVPを受賞していた。
調べて意外だったのは、9人の夏男の中に、誰一人としてそのシーズンの終わりにリーグ制覇を経験していないこと。最高位は金崎とレオ・セアラの2位で、柴崎の3位、長沢駿(ガンバ大阪)の4位と続き、一番下がジョーの15位だった。あくまでも過去のデータではあるが、チームが優勝する上では夏男は不要といえる…。
夏男候補は外国籍ストライカー3人と鳥栖の岩崎悠人
さて、ここで過去の夏男を参考に独断と偏見で、8月の月間MVP候補6名を挙げたい。その最低条件に据えたのは「勝利」。過去の事例を見ても、個とチームの成績が比例して上がるケースがほとんどだからだ。
とはいえ、8月はまだリーグ戦1試合を終えたばかり(アビスパ福岡-ガンバ大阪はコロナの影響で試合中止)。不公平を承知の上で、あえて24節で白星を挙げた8チームから選ぶことにした。
次に前述の過去の傾向から、近年受賞者の多い「外国籍リアルストライカー」、柏や齋藤に似た「ドリブラー系サイドプレーヤー」、そして、鹿島時代の大迫や柴崎のような「日本代表の新鋭」の条件に当てはまる選手を探ってみた。
「外国籍リアルストライカー」では、昨季得点王のレアンドロ・ダミアン(川崎フロンターレ)をまず挙げたい。24節の横浜FMとの黄金カードで、右からの難しいワンバウンドクロスに頭で合わせたファインゴールは、点取り屋の本領。今季は5得点に留まっているがポテンシャルは折り紙付き。首位・横浜FMを破った勢いで、チームもダミアンも真夏のペースアップが考えられる。
そのほか、前節に各1点を挙げた清水エスパルスのチアゴ・サンタナとセレッソ大阪のアダム・タガートも推したい。サンタナは7月に4得点2アシストを挙げているため、先月の月間MVPになってもおかしくない。好調を維持し7月末から2戦連続ゴール中、得点ランクも計9点で3位に浮上、頭での4得点はリーグ最多となる。チームも前節にFC東京を敵地で撃破し、最下位から15位へ脱出。サンタナが先陣を切り、真夏の反攻に出る。
オーストラリア代表のタガートは、ここまで先発5戦・4得点と印象こそ薄いが、8月3日のルヴァンカップ準々決勝第1戦・対川崎F、24節・ヴィッセル神戸戦で2戦連続ゴール。共にボックス内で仕留めた冷静なフィニッシュワークは出色、リーグ戦7戦無敗・3位浮上のチームの後ろ盾も得て、夏男に名乗りを上げるではないか。
「ドリブラー系サイドアタッカー」と「日本代表の新鋭」の両条件に該当するのが、鳥栖の左翼FW岩崎悠人。直近の2試合は身体がキレッキレ、23節の清水戦では走行距離、スプリント共にチームNo.1の数字を叩き出し、大胆な反転ボレーをネットに突き刺した。
24節のジュビロ磐田戦ではスプリントのみチーム1位に。無得点ながら、計4本のシュート、後半に好機をつくった2人抜きドリブルなどで大暴れ。先月のE-1選手権ではA代表に初選出されるもアピール不足に終わったが、再開後のJ1で溜飲を下げたに違いない。
川崎Fジェジエウ、名古屋の永井謙佑もノミネート
3つの条件に当てはまらないが、24節に強烈なインパクトを放った2人もノミネートしよう。1人目は川崎FのCBジェジエウだ。リーグ戦復帰2戦目となった神奈川ダービーでは好守備を連発し、横浜FMの猛攻を1失点で凌ぐ。そして90+9分、自らのヘッド弾により死闘に終止符を打った。重傷から戻って来た守備の大黒柱が3連覇を狙うチームの救世主になれば、DF初の夏男もありえる。
2人目は、名古屋グランパスへ5年半ぶりに復帰したFW永井謙佑である。前節は浦和レッズを相手に、最前線に張って1ゴール2アシストと全得点に絡む大車輪の活躍を見せた。2点目、3点目を導いたショートカウンターの起点は、いずれも永井の狙いすましたボールカットだった。ただ速いだけではない“賢いスピードスター”も、現時点での有力候補だ。
前節8月6日、7日の8試合の中で最高気温はC大阪vs神戸の30.7℃、平均は28.05℃だった。ナイトゲームとはいえ、うだるような暑さがまだまだ続く。シーズンの中でも特別な8月の月間MVPを予想してみると、“熱闘Jリーグ”がより楽しめる。
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