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J1アシスト王は誰に?トップ鈴木優磨をクロス職人・水沼宏太ら6人が追う

2022 7/30 06:00小林智明
鹿島アントラーズの鈴木優磨,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

アシストの嗅覚も持つ鹿島の「金狼」

一般的に、ゴールを決めたプレーヤーにラストパスを送った選手に与えられるのが「アシスト」。ただ、サッカー界ではアシストの定義が統一されておらず、またどこまでがアシストなのかという線引きも難しいため、Jリーグでは公式記録として発表していない。

そのため、公式に「アシスト王」の称号を得られず、得点王に比べれば注目度は低い。それでもアシストランキングを見てみると、今をときめく日本人選手の名が並ぶ。

しかもFWだけでなく、ウイング、ボランチまでそろうのが、得点王争いとは異なる面白さ。そこで、アシストランク上位の顔触れを紹介し、非公式ではあるがタイトル争いの行方を探る。

J1アシストランキング


現在1位は8アシストを稼ぎ、鹿島アントラーズの攻撃を牽引する鈴木優磨だ。得点ランクも6位(7得点)、1試合平均チャンスクリエイト数(PA内でのスルーパスとクロスの各成功、ラストパスの合計値を出場数で割った数値)は2.4と、こちらも4位につける。

メディアからは「Jリーグ復帰後の鈴木は、チャンスメイクもできるようになった」と称賛されることが多いが、それは勘違いだろう。ベルギーリーグ移籍前の18年シーズンも10アシストを記録し、1位の柏木陽介(浦和レッズ)の13アシストに次ぐ2位だったからだ。金髪のゴールハンターは冷静さも兼ね備え、より得点効率の高いプレーを選択ができるのが強みといえる。

しかしながら、上田綺世の海外移籍が懸念材料となるのは自明の理。得点ランク1位の元相棒が決めた10得点のうち、鈴木は3点のお膳立てをしていた。その数字以上に上田とはサッカー感が共鳴し、相乗効果で互いにゴールを量産できたに違いない。そんなバディを失った影響は小さくないと思われる。

日本代表の「オールドルーキー」が絶好調

鈴木を2アシスト差で追うのが、横浜F・マリノスの水沼宏太だ。終えたばかりのE-1選手権で32歳にしてA代表デビューを飾ったウインガーは、今季5得点もマークし、勢いに乗る。水沼の代名詞といえば「高精度クロス」だが、繰り出す回数も1試合平均4.3回(リーグ3位)と多く、それがアシスト数に比例している。

水沼は昨季が9、一昨季が10のアシスト記録を残すも、2年連続でランキング2位。21年は山根視来、20年は三笘薫と王者・川崎フロンターレの両雄が稼いだ12の数字に及ばず、1位の座を明け渡した。ただ、それ以上に悔しかったのはその間、チームでレギュラーの座を勝ち取れなかったことに違いない。特に21年の先発出場はわずか1試合だけである。

だからこそ好調を維持し、先発に定着した今季はアシスト王に輝く絶好のチャンス。チームは首位を走り、総得点も48点でリーグトップという好条件も後押しする。

唯一、不安要素を挙げるとすれば、E-1選手権での疲れを引きずる可能性があること。香港戦と韓国戦の2試合に先発、ワールドカップの日本代表入りを狙い、貪欲にアピールした代償として心身の激しい消耗が考えられる。それが今後のパフォーマンスにどう影響するかが、“三度目の正直”実現への鍵になりそうだ。

広島の「ワンダーボーイ」と「心臓」

ランキング3位は、5人による団子状態。そのなかには水沼と同じくE-1選手権・日本代表組が3人含まれており、うち2人はサンフレッチェ広島の満田誠と野津田岳人になる。

満田は、今季J1のサプライズといえるシャドーストライカー。無名の大卒ルーキーながら5得点5アシストをマークし、一気に日本代表まで上り詰めた。プレーはとにかく積極性が高く、1試合平均シュート数2.7本はリーグ5位の数字。けれども、猪突猛進なだけでなく、周りが見えてスキルも高いから味方へのお膳立てもできる。

ボランチの野津田は、チーム内1位の走行距離(1試合平均10.9㎞)を下支えに、攻守に大車輪の活躍で「広島の心臓」と呼べる存在に。1試合平均3.7回とリーグ1位を誇るタックルでボールを刈り取ったと思えば、ボックス付近まで侵入し、ハイスペックの左足で好機をつくる。1試合平均敵陣パス数33回(リーグ7位)、平均チャンスクリエイト数2.0(同8位)も、アシストの多さに結びつく。

過去10年のデータを調べたところ、優勝チームからは21年の山根、20年の三笘、17年の中村憲剛(共に川崎F)、14年の遠藤保仁(ガンバ大阪)と4人のアシスト王が生まれた。しかし、それ以外の6シーズンは4位以下のチームからアシスト王が出ている。広島は現在6位、満田と野津田がこの個人タイトルを手にしても不思議ではない。

川崎Fの「新14番」がアシスト王を継承?

もう一人の“E-1戦士”は川崎Fの攻撃のタクトを振るう脇坂泰斗。平均チャンスクリエイト数は2.2で5位にいる。脇坂は今季より中村から背番号14を譲り受けているが、その大先輩は12年と17年の2度、アシスト王に輝いた。後継者として、このタイトルも欲しいと思うのではないか。

ランク3位からの逆転を狙うには、昨季得点王レアンドロ・ダミアンの復調が条件になるはず。エースは今季ここまで4得点と鎮火気味…、フィニッシャーが再び爆発しなければ、脇坂のゴール前への好配球もただのパスで終わってしまう。

新天地で開花する2人の「ユウタ」

残る2人は、移籍1年目ながらチームに順応した鹿島の樋口雄太と、清水エスパルスの神谷優太。樋口は前所属のサガン鳥栖では、2列目を本職とし、スタミナ豊富な攻撃的MFだった。鹿島ではボランチの位置で新境地を開き、覚醒中。運動量は変わらずチーム内走行距離1位の1試合平均10.1㎞を走り、オフェンスにもタイミングよく顔を出す。問題は前述の鈴木と同じく、チームとして“上田ロス”を払拭することに尽きる。

柏レイソルから清水に加入した神谷は一時期スタメンを外れたが、新指揮官ゼ・リカルド監督の就任後は2トップの一角に定着。DFの裏を突く動き出しが良く、得点ランク6位の相棒、チアゴ・サンタナを生かす裏方役に徹する。ただし、夏の移籍市場で清水は前セレッソ大阪の乾貴士、元日本代表の北川航也らの実績あるアタッカーを獲得。まずは彼らとのポジション争いに勝たなければいけない。

過去10年のアシスト王たちの記録のなかで、アシスト数が最も低かったのは19年の永戸勝也(ベガルタ仙台)の10で、逆に一番高かったのが14年の遠藤の14だった。今季も10~14が栄冠を得るボーダーラインになるだろう。

ここで触れた7人のうち、何人がそこまで到達でき、最終的に誰がアシスト王の称号を獲得するのか。得点王争以上に混戦模様のアシストランキングも面白い。

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