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Jリーグ鹿島の「欧州路線」頓挫…岩政大樹新監督に課せられた使命

2022 8/14 06:00椎葉洋平
現役時代の岩政大樹,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

レネ・ヴァイラー氏との契約解除に見る鹿島らしくないブレ

第24節・サンフレッチェ広島戦に0-2で敗れた翌日の8月7日、鹿島アントラーズはレネ・ヴァイラー監督との契約解除を発表した。直近のリーグ戦5試合で3分2敗と勝ちがなく、第13節終了時点に首位にいたチームは、5位に順位を落としていた。

鹿島アントラーズといえば、国内3大タイトル(J1リーグ、Jリーグカップ、天皇杯)を計19回制している「常勝軍団」。また2018年には、アジアNo.1クラブを決めるAFCチャンピオンズリーグでも優勝している。次に3大タイトル獲得数の多いガンバ大阪が8回であることからも、アントラーズの19回がいかに多いかわかるだろう。

そんなアントラーズにとって、首位と勝ち点差8の4位は納得できない、という考えは不思議ではない。ところがクラブからレネ・ヴァイラー氏との契約解除が発表されると、サポーターからはクラブへの批判的な声が相次いだ。

クラブにとって、今季は大きな転換期の始まりとなるはずだった。歴代の外国籍監督も外国籍選手もほぼブラジル人のみだったクラブにとって、史上初の欧州(スイス)出身の監督となったのが今季から就任したレネ・ヴァイラー氏だったのだ。

ブラジル人でありながら欧州のトレンドに長けた人物を探すなかで見付けたとはいえ、対外的にはイメージを大きく変える決断。ところがその試みは、わずか半年足らずで頓挫することとなった。

国内3冠を5年間獲得できていない焦りと認識のズレ

半年ほどというあまりに早い決断に加えてもう1つ、サポーターから不満の声が噴出した理由がある。そもそもクラブが望む結果にふさわしいだけの戦力を用意できているのか、という疑問だ。

今季に向けての移籍市場で、アントラーズは昨季の主力のうちCBの犬飼智也と町田浩樹、左SBの永戸勝也、CHのレオ・シルバが他クラブへ移籍。CBにはキム・ミンテを、CHには樋口雄太を獲得して手当てし、さらにFWには鈴木優磨を獲得して攻撃陣のスケールアップはできたものの、戦力アップできたとは言い難い。

またこの夏の移籍市場においても、7月1日に当時得点ランキングトップにいた上田綺世がサークル・ブルージュ(ベルギー)へ移籍という大きなダメージを負ったにもかかわらず、ヴァイラー氏の教え子のFWブレッシング・エレケの獲得が発表されたのは一か月後の8月1日。さらにヴァイラー氏が解任された8月7日時点で、エレケはチームに合流していないというちぐはぐっぷりだった。

近年のアントラーズは、移籍市場においてこういった「後手を踏む」立ち回りが多く、その影響もあってかここ5年は3大タイトルを1つも獲得できていない。トップチームの人件費を削減するためであれば仕方ないが、そうではない。昨年は前年比3億円以上増加し、28億6800万円でリーグ5位。

決して潤沢な資金力ではないものの、コロナ禍で多くのクラブが緊縮財政を選択するなか、懸命に増やそうとしていることが伝わる。ところが傍からみれば戦力がアップしているようにはみえない。こういった認識の違いが生まれ、クラブとサポーターの間にズレが生じているのではないだろうか。

岩政大樹新監督次第でクラブの行く末が大きく左右

ヴァイラー氏との契約を解除した翌8日、新監督に岩政大樹コーチが就任することが発表された。

岩政新監督は2004年、東京学芸大学卒業後にアントラーズに入団し、2013年まで所属。高さと強さを兼ね備えたCBとしてJ1で290試合に出場するなど、まさに「常勝軍団」だったアントラーズを支えたレジェンドの1人である。現役引退後は社会人のクラブや大学のサッカー部で指導者としての経験を積み、今季からアントラーズのトップチームコーチに就任していた。

「アントラーズとはかくあるべき」をよく知る人物なのは間違いなく、再び常勝軍団と胸を張って言えるチームとなる可能性はある。

ただ、プロクラブでの監督経験はなく、いきなり勝利が義務付けられたチームを率いる難しさを乗り越えねばならない。岩政新監督はおそらく選手の立ち位置を意識し、攻守を一体化するサッカーを目指すだろう。しかし結果を残しながら戦術を浸透させるという両立は、経験豊富な監督であっても難易度が高い。

今季、欧州路線へと舵を切ったアントラーズ。早くもそのプランは頓挫し、クラブのレジェンドが新たな船頭に任命された。岩政新監督のもと久しぶりのタイトル獲得なるか、はたまた徐々に沈む船を立て直せず、現在も理想とはほど遠い時を過ごす一部のクラブのようになってしまうのか。アントラーズが再び黄金期を迎えるためには、岩政新監督をはじめ同じ船に乗る全員が勝利のためにベストを尽くさねばならない。

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