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“バルサ化”目指したヴィッセル神戸、現実は“マンU化”J1残留への秘策は?

2022 8/13 06:00桜井恒ニ
ヴィッセル神戸の大迫勇也,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

最下位低迷…監督交代繰り返して戦術が成熟しない神戸

一時は復調の兆しを見せたものの、再び最下位に逆戻りしたヴィッセル神戸。スペイン・バルセロナで活躍し、世界的名手として知られるアンドレス・イニエスタ、日本代表経験のある大迫勇也、武藤嘉紀、山口蛍、酒井高徳、槙野智章ら知名度が高い選手が多数在籍し、リーグ優勝すら狙える陣容に見える。にもかかわらず勝てない。

象徴的だったのが、セレッソ大阪と激突した8月6日のJ1リーグ第24節だ。左SBの酒井高徳がビルドアップで詰まって致命的なバックパスを犯したことをきっかけに1失点、サイドでフリーになった鈴木徳真にシュートを決められて2失点。後半87分のFKでは、マークを振り切った加藤陸次樹にヘディングシュートを決められて3失点。逆に奪った得点は0点。完敗だ。

神戸は今季だけで監督が三浦淳寛、リュイス・プラナグマ・ラモス、ミゲル・アンヘル・ロティーナと3人退き、現在は4人目の吉田孝行が指揮を執る。かつてはイニエスタを筆頭に“バルサ化”を目指した神戸だが、監督交代を行ううちにそのビジョンは薄れ、未成熟な戦術が選手個々の不安増長・連携ミスにもつながっているように見える。

相性が悪い大迫とイニエスタ、どちらか1人を選ぶべき?

神戸は楽天の国内クラブ有数の資金力にものを言わせて、多くの有力選手を獲得してきた。選手の総年俸はJ1でも群を抜く高さだ。

2021年、事実上エースだった古橋亨梧がセルティックへ移籍し、守備の要だったトーマス・フェルマーレンも抜けた。その穴を埋めるべく獲得したFWの大迫はリーグ戦で4得点、DFの槙野はベンチを温める機会が多い。

8月にフラメンゴから獲得したDFマテウス・トゥーレルをすぐに前述のセレッソ戦で先発起用したが、調整不足で足を引っ張った感が否めない。同じく7月に新加入した小林祐希も、中盤の底でボールを奪われて致命的なピンチを招くなど、ややほろ苦い内容だった。

サッカーは、GKを除く20人の選手(10対10)がピッチ上で複雑に動くスポーツだ。監督の戦術はもちろん、選手間の連携や相性も大切だ。

現時点の結果論に過ぎないが、ポストプレイを得意とする大迫と一発で決定的なスルーパスを出せるイニエスタの相性があまり良くなさそうに見える。大迫は前線と中盤の間で一度ボールを受けて起点になって……と1クッション置いた攻め上がりをする分、大迫からボールを受け取っても、イニエスタの出したいタイミング・コースにFWが誰もまだ到着していないし、フィーリングを共有していない(かつては古橋やダビド・ビジャがいた)。

また、大迫がポストプレイを実行すると、イニエスタがゴールを狙う機会が増える。しかし本来パサーであるイニエスタにストライカー並みの得点を求めるのは酷な話だ。とはいえ逆に、裏抜けが古橋ほど得意ではない大迫に裏抜けのプレイを求めるのも酷な話だ。つまり2人の相性が良くない。

大迫に合わせるなら、フォーメーションはセレッソ戦の4-3-3のまま、イニエスタを先発から外し、攻守に奔走できるフレッシュな若手選手を投入するのも手だ。

イニエスタに合わせるなら、大迫を先発から外して中盤を厚くし(4-4-2、4-5-1、3-5-2など)、イニエスタの守備負担を減らしたい。そこにもし、全治8ヵ月のセルジ・サンペールが今季終盤に戻ってこられたら、J1残留に向けて勢いが増すかもしれない。

マンUと神戸の共通点とは?

遠く英プレミアリーグでも神戸に似たクラブがある。それは名門マンチェスター・ユナイテッド(以下、マンU)だ。クリスティアーノ・ロナウドやジェイドン・サンチョ、ハリー・マグワイアなど高額年俸の選手を複数抱える陣容ながら、8月7日のプレミアリーグ第1節ブライトン戦で1-2の敗北を喫した。

前半のうちに2点を奪われ、調整遅れのロナウドが後半にピッチ入りして反撃を試みたものの追いつけなかった。

マンUで目立ったのは個々のミスや連携のぎこちなさだ。なんでもないボールの処理を誤ってボールを失ったり、ビルドアップに失敗したりしてブライトンに決定的なチャンスを作られてしまった。選手間で声を掛け合えば処理できる難しくない連携がうまくいかなかった。

マンUはロナウドの移籍話やクラブの不振が取り沙汰され、ピッチ外が騒がしい。7月31日の親善試合では、試合終了前にロナウドら複数の選手が会場を後にしたという報道も。振る舞いを見るだけでも、明らかに一枚岩になっていない。前述のミスもあまりに軽率で、選手たちがどこかプレイに100%集中できていない印象が強かった。

神戸も監督更迭を含めてピッチ外の雑音が多い。たとえばセレッソ戦の2失点目は、近くにいたイニエスタらがボール近くまで詰め寄らないのを確認して、鈴木はプレッシャーのない、どフリーの状態で足を振り抜いた。下位から脱出しようという必死感が伝わらず、どこか悠長にプレイする様を見ていると「本当に100%の力を振り絞ってプレイしているのか?」と問いたくなる。

アジアNo.1を目指すクラブの方向性に賛同して加入したはずのイニエスタが、このままでは自身のキャリア初の2部(J2)降格を味わう危機にさらされている。残り試合でタレント集団が一枚岩になり、残留を果たせるか。神戸の戦いぶりは国内だけでなく、海外からも注視されている。

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