J最大予算のクラブ、まさかの船出
Jリーグ最大の人件費予算を誇る、言わずと知れたスター軍団・ヴィッセル神戸が岐路に立っている。昨シーズンのJ1リーグで3位のチームだが、今シーズンは開幕後7試合を戦って未だ未勝利のクラブワースト記録を更新中。アジアチャンピオンズリーグとの兼ね合いで他14チームより2試合多いが、順位はJ2降格の危機がちらつく16位と低迷している。
東京ヴェルディをコンプライアンス上の問題で解任された永井秀樹氏を新たにスポーツダイレクターに就任させたり、ここにきて3カ月間の短期契約でロシアのロストフから元日本代表MF橋本拳人を獲得するなどピッチ外でも話題に事欠かない。なぜ今シーズン開幕から不調で監督交代となってしまったのか。ピッチ内で起きていた現象を考察し、まとめていく。
貧弱だった歯車
ヴィッセル神戸はJ1リーグで7試合終えて得点3失点9。しかし、それ以外のデータでは決して悪くない数値を残している。チャンス構築率はリーグで2位、1試合平均シュート数も3位で、守備のデータもおおむねリーグ中位だ。今シーズンの試合を全てチェックしてわかったのは、ヴィッセルの不調はデータでは現れづらいものだったということだ。
まず考慮するべきなのは、シーズンスタートからいきなりの過密日程だったことだ。ACL本戦及びプレーオフの日程を消化するため中2日や中3日で1カ月の間に8連戦。増え続けるケガ人。三浦淳寛前監督やスタッフ、選手たちが、一度狂った歯車を修正するにはあまりにも難しい条件だったのは間違いない。
ただ、試合を観てみると、その歯車は「そもそもあったのか」と感じてしまうほどのパフォーマンスだった。
低迷を呼んだ「配置」のミス
今季の苦戦している要因として、2つの不備を挙げられると思う。
1つめの不備は「配置」だ。今シーズンの三浦前監督は使い慣れた4-3-1-2と、イニエスタらトップ下タイプの選手を置かない時の4-4-2という2つのフォーメーションを採用。配置の不備は、より両サイドバックが重要な4-3-1-2の時に多く現れていた。
開幕戦の名古屋グランパス戦と第2戦の浦和レッズ戦で特に顕著だったのは、大外に立つ選手がいない問題だ。特に酒井高徳がカウンターのケアのためか中央突破のためか、かなり中に入ってきて、その時に大外に立ってパスを引き出す選手がいなかったことで攻撃が中央偏重になるシーンが目立った。
酒井高徳は開幕戦は左、第2戦は右で先発したが、その2試合ともサイドが違うのに同じ問題が起こっていて攻撃の停滞を招いていた。
彼が中に入るのであればツートップかインサイドハーフの山口蛍らが外に流れるべきだが、そういった動きは少なく、相手としては守備時に広がらなくてよくなっていた。
さらに「人が集まりすぎる」というのもヴィッセル神戸の特徴だ。これは森保ジャパンとも酷似している課題で、人が集まれば集まるほど相手もついてくるため、技術や戦術を発揮するために必要なスペースを自分たちで消してしまうことに繋がっている。
しかもJ1だとここに屈強な相手が集まってくる。グランパスでは稲垣やレオ・シルバ、第6戦で完敗した鹿島アントラーズには樋口やピトゥカら守備範囲の広い選手たちがいて、ことごとく奪われカウンターを受けた。
失点9という重い数字
2つめの不備はやはり「守備の修正力」だろう。積み重なった失点数9はJ1ワーストタイ。他より2試合多いとはいえ、点が取れない状況で失点も減らないというのは厳しい。
最初の2、3試合は飛び出す選手についていけず数的同数、もしくは数的不利を許してしまうシーンが散見した。名古屋戦1失点目が典型的で、2列目から飛び出した名古屋の稲垣を扇原もサンペールもケアできず、最終ラインのサポートをできなかった。
さらに第5戦のサンフレッチェ広島との試合。広島はスキッベ新監督が入国制限による遅れからようやく合流しての初指揮で混乱もあったのだろう、プレッシングがめちゃくちゃで、ヴィッセルは生まれたスペースから効果的にカウンターを重ね、前半だけで枠内シュートを6本も放った。
しかし、後半は何もさせてもらえず。相手の切り替えの速さに苦しみ、ヴィッセルの4バックに対して広島はウイングバックが上がってスリートップと合わせて5枚張り付く形に。試合終了間際に槙野智章を投入し、5バックにして迎え撃ったが時すでに遅し。三浦前監督はこの対応が遅れてしまい、選手と監督両方に試合中の修正力不足を感じさせた。
未知数の冒険 リュイス新監督へ
ここで勝たなければチームが完全に崩壊しうる重要な一戦、ACLプレーオフで激闘の末メルボルン・ビクトリーに4-3で打ち勝ち、今季公式戦初勝利。しかし肝心のリーグ戦では清水エスパルス戦で引き分けに終わり、3月20日、クラブは三浦前監督の退任を発表。内部昇格で新しくリュイス監督と共にシーズンを戦うことになった。
戦術的な粗が目立ったものの、三浦前監督は若手を覚醒させるなど功績も大きく、貴重な人材を失った。その群を抜いた資金力ゆえに厳しい目で見られることの多いヴィッセル神戸だが、元は何度も降格の危機をはねのけてきた粘り強いクラブでサポーターも熱狂的。まだまだ未知数な部分が多い若き新監督と共に、再び立ち上がれるだろうか。
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