6月に柴田峡監督を解任
6月21日、J2松本山雅に激震が走った。昨年途中からチームを率いて立て直しに成功した指揮官、柴田峡監督を解任。2年連続となる監督のシーズン途中での解任だった。
2012年から8年間にわたる反町康治氏の指揮のもと、後発の地方クラブながら地元の熱烈なファン・サポーター、パートナー企業の応援を受け、日本屈指のホームスタジアム・アルウィンの後押しを背にJ1に2度昇格するなど大躍進した「奇跡のクラブ」に今、何が起こっているのだろうか?
6月21日、J2松本山雅に激震が走った。昨年途中からチームを率いて立て直しに成功した指揮官、柴田峡監督を解任。2年連続となる監督のシーズン途中での解任だった。
2012年から8年間にわたる反町康治氏の指揮のもと、後発の地方クラブながら地元の熱烈なファン・サポーター、パートナー企業の応援を受け、日本屈指のホームスタジアム・アルウィンの後押しを背にJ1に2度昇格するなど大躍進した「奇跡のクラブ」に今、何が起こっているのだろうか?
2019シーズン、J1に挑戦したが残留は叶わず降格が決まった後、8年にわたる長期政権を築いた反町康治監督が勇退。「プロとしての心構えから教えた」と話すほど未熟だったチームを鍛え上げ、2度のJ1挑戦に導いた最大の功労者がクラブを去った。
反町氏の退任後、クラブは新しい指揮官に布啓一郎氏を招聘。ザスパクサツ群馬をJ2昇格させた監督を引き抜いた形だった。
反町氏退任後の松本山雅をどう発展させていくか。神田社長は、「能動的」「攻撃的」なサッカーをしつつ「育成」基盤を強くしていくということをテーマとして掲げた。「育成」基盤の発展を掲げると同時に飯田真輝、宮阪政樹、岩上祐三、パウリーニョら反町時代で主力として活躍したベテランを放出。田中隼磨、橋内優也らは残ったが、チームは大きく様変わりした。
そしてシーズン開幕節、布監督のチームはサイドをうまく使った攻撃を披露し躍動。しかし緊急事態宣言発令による中断期間にペースを崩し、一気に失速した。
反町時代には考えられないような大敗や無気力試合を連発。要因は人心掌握だろう。「監督が何をやりたいかがわからない」という声は漏れたが、選手から監督をサポートするような声は一切見当たらなかった。反町時代の山雅を観てきたサポーターは失望し困惑していた。
前半戦を終え20位、低迷を重く見たクラブは2020年9月25日に布監督の解任を発表。選手の人心掌握と崩壊していた守備の構築を託されたのが、クラブで編成部長を務めていた柴田峡氏だった。
シーズン途中での監督交代は松本山雅にとって初めての事。奇しくも2018年の日本代表と同じ流れになった(W杯直前、ハリルホジッチ監督を解任し技術委員長だった西野朗氏を監督へ)。
神田社長は当初、「柴田はあくまで暫定」「柴田のベストは現場を少し離れたところから見るポジション」と述べ、新しい監督探しをしていく上での「繋ぎ」であることを公言していた。
しかしコロナ禍で監督探しは難航。なかなか後任を見つけられず、柴田監督がチームを立て直し、後半戦だけの成績で言うと22チーム中3番目の勝ち点を稼いでいたことも踏まえ、2020シーズンの最後まで指揮を執った。さらに2021シーズンも続投することが決まった。
そして今季、チームは昨年の主軸だったセルジーニョ、杉本太郎、藤田息吹、塚川孝輝、高橋諒らを引き抜きや契約満了で放出。21人の新加入選手を迎え、35人の大所帯で新チームをスタートさせた。しかしこれは無理矢理すぎた刷新だった。
昨シーズン開幕当初のチーム人員は29人。途中、佐藤和弘と前貴之の加入、そして柴田監督と西ヶ谷コーチのトップチーム昇格があり、シーズン終了後に計上された人件費は約12億円だった。
それが今季は35人の人員でスタートしたにもかかわらず、開幕前のサポーターWEBミーティングによると人件費は約9億円に抑えられている。選手は6人増えているのに人件費は3億円ほど下がっているのだ。もちろんクラブ全体の計上のためチーム外での人員増減はあったのかもしれないが、大きな変化だったのは間違いない。
それはピッチ上で結果として現れる。開幕前のキャンプでケガ人が増えてしまい、チーム戦術を浸透させるためのボールを使った練習が少なくなり、バランスを崩した。結果、柴田監督曰く「84点取る」ための「攻撃的かつ能動的」な新システム4-4-2の浸透に失敗。84点取ると宣言した割には選手のポジショニングや技術が向上せず、シーズンが開幕してからも低空飛行を続け、逆天王山の第9節愛媛FC戦で惨敗した。
それからの山雅は「気持ち」「気合」という言葉がメディアやサポーターから前面に押し出されるようになった。当たり前だが負けてもいいと思って戦う選手などおらず、実際筆者の目から見ても選手や監督の気持ちは折れていなかった。
柴田監督としては、思っていた以上に35人という多さに比べて質が伴っていない選手が多く、去年立て直しの原動力だった守備戦術という強みがなくなってしまったのが誤算だっただろう。19節大宮アルディージャ戦をもって解任となった。
監督をシーズン途中で代えるというのは決して悪い影響ばかりではない。しかし、コスト面では監督2人分の給料を払わなくてはいけなくなるし、戦術面でもシーズン開幕当初に積み上げてきたものを崩して、また再建するプロセスが発生する。
反町康治氏が去って以降、松本山雅が2季連続で低迷しているのは確実に、クラブが現場のマネジメントを見誤ったからだ。「攻撃的」「能動的」なスタイルへの挑戦と、急成長するJリーグ全体のレベルや移籍市場に適応する力が不足していたのかもしれない。
しかし、この試練を乗り越えた時にこそクラブは本当の意味で逞しくなるはずだ。現在22チーム中16位の山雅は、新監督に名波浩氏を招聘。ネームバリューもカリスマ性も十分の指揮官がやってきた。
さらに夏の移籍市場でセルジーニョを復帰させ、横浜FCからストライカー伊藤翔を獲得。過剰な人員を抱えるセンターフォワードとボランチを整理できていないことには不安が残るが、必要不可欠だった攻撃的MFのポジションにセルジーニョが帰還したことは好材料だ。4チームが降格する厳しいシーズンを乗り切るため、クラブも必死にもがいている。
8月9日、長かったオリンピック中断期間が明け、リーグ戦が再開する。稀代のモチベーターのもとで松本山雅はJリーグの「奇跡」であり続けられるか。
【関連記事】
・J2の泥沼にはまる東京V、千葉、京都の名門3チーム「苦闘の歴史」
・岐路に立つ名門・東京ヴェルディは育成と結果の狭間で苦境を乗り越えられるか?
・変化と進化のJ2 2021シーズンを牽引しそうな5人のキーマン