電撃残留した“新潟の至宝”本間至恩
昇格する徳島ヴォルティスへの完全移籍が秒読みと見られていたが、急遽電撃残留となったJ2最強のドリブラーがアルビレックス新潟の本間至恩だ。
地元新潟県出身でアルビレックスの下部組織育ち。デビュー戦で劇的ゴールを決めて以来サポーターに愛され続ける“至宝”。加速力と細かいタッチなのに緩急の大きい独特なドリブルを武器にしていた彼は、2020シーズン転機を迎えた。
新監督のアルベルトは攻守両面でチームに連携を植え付け、本間は試合から消える時間帯が減り、なおかつ試合途中から中央にポジションを移すオプションを手にしてその攻撃性能を遺憾なく発揮するようになった。
ドリブルポイントはJ2全選手中1位をたたき出したが、それ以上にラストパスや味方を活かし、味方に活かされるプレーが増えた印象だ。アタッカーが多数抜けた穴を埋め、チームをJ1へ導くパフォーマンスを発揮できるだろうか。
万能型MFが恩師を追ってJ2へ・長谷川アーリアジャスール
J2にいてはいけないはずの実力者がやってきた。町田ゼルビアに新加入した長谷川アーリアジャスールは、日本代表招集歴もあるミッドフィルダーだ。
攻撃的な役割ならどのポジションでもプレーできるほど器用で、優れた体格とスピードも併せ持つテクニシャン。J1で250試合以上に出場し活躍していたが、昨年はケガの影響もあり出場はゼロ。FC東京時代から恩師と慕うポポビッチ監督を追って町田ゼルビアに加入した。
町田は昨季、走力と切り替えの速さが生命線のポポビッチ監督のスタイルが、過密日程の影響などで機能不全に陥り試合中の修正ができず苦戦した。そこで、鄭大世やドゥドゥなど攻撃陣の補強に大きく動いた。後ろと前線を中継できる長谷川がハマれば、一気に昇格候補に躍り出る可能性もある。
知将との出会いが進化の兆し・小松蓮
降格がないシーズンだったとはいえ最下位に沈んだレノファ山口は新監督に渡邉晋を迎えた。J1ベガルタ仙台を2014年から2019年まで指揮した知将だ。渡邉監督は「2年でJ1へ行く」と宣言し、「相手を困らせる立ち位置を取る」という自己流の「ポジショナルプレー」を実践していくことを表明した。
そのスタイルにピッタリ合致するかもしれないのがストライカーの小松蓮だ。J2で2シーズン合計59試合に出場し8ゴールの彼はまだ無名かもしれないが、2019シーズンに在籍したツエーゲン金沢時代にはU22日本代表にも選ばれ、昨季のレノファ山口でも印象的なプレーを見せていた。
オフザボールの動きが抜群。相手ディフェンダーの視野から消えたり裏に抜けて味方のパスを引き出したり、守備時はパスコースを限定しながら猛烈にプレスをかけていったり。そして左利き。全盛期の佐藤寿人を思い起こさせた。
渡邉監督の指導でチーム全体にチャンスが増えれば、かつての仙台での石原直樹や西村拓真のように一気に得点を量産するかもしれない。
特大の才能 ジュビロ復活のカギを握る男・伊藤洋輝
長谷川アーリアジャス―ルと同じくジュビロ磐田の伊藤洋輝も「J2にいてはいけないはずの選手」、J1へ行くべき選手だ。各年代の日本代表に選ばれている逸材で、188㎝の長身と確かな足元の技術を持つ左利きのセンターバック。もともとはボランチの選手だったがコンバートされ、強烈な存在感を放つ存在になった。
3センターバックの左で出場した際に圧倒的なパフォーマンスを披露。守備では屈強な相手からボールを奪い続け、守備ポイントや奪取ポイントで上位に君臨する。
最大の特徴は正確なロングキックだ。左から対角線に放たれたボールが右サイドで高い位置を取ったサイドアタッカーの足元にピタリと収まるシーンは何度も見られた。これをされてしまうと相手はプレッシングの意味を失ってしまう。
パスポイントと攻撃ポイントではJ2全選手中7位だった。まだ21歳の大器がジュビロ磐田復活のカギを握る。
日本屈指の指導者が再びJへ 優勝候補・京都サンガの曺貴裁監督
今季のJ2で最も注目を集めるのは曺貴裁(チョウ・キジェ)新監督が就任した京都サンガだろう。湘南ベルマーレを強豪へとのし上げた曺監督の手腕の評価は高く、彼の下で覚醒した選手は数知れず。間違いなく日本屈指のサッカー指導者だ。
J1で13位に入った2018シーズンは平均縦幅27.3mというコンパクトな布陣から繰り出す強烈なプレッシングと、奪ってからの切り替えの速さを活かした高速ショートカウンターが持ち味だった。同時に自分たちがボールを保持するときも、縦へのパスコースを複数用意し、どんどん前へパスを打ち込んでいく攻撃もできる。J1では決して潤沢ではない資金力以上の成績を収めていた。
そんな曺監督を招聘した京都サンガはそのスタイルを体現する松田天馬を湘南ベルマーレから獲得。攻撃的なポジションをどこでもこなすアタッカーは加入初年度でキャプテンにも任命され、期待を一身に背負う。
コロナ禍で厳しい状況ながら、大きな変化と進化の兆しを見せる今季のJ2。レベルも年々上がっており、何が起こるか全く読めない“沼”から今年も目が離せない。
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