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15試合16ゴールの「災厄」 柏レイソル・オルンガの得点力の秘密

2020 9/19 06:00KENTA
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柏レイソルの「怪物」

J1リーグがシーズンの半分を終えようとしている現在に至っても、ケニア人ストライカーの勢いが止まりそうにない。今シーズンJ1に昇格した柏レイソルのマイケル・オルンガだ。

ここまで15試合に出場し、16ゴールを量産。中断期間明けの3試合(第2~4節)こそゴールがなく、第4節川崎フロンターレ戦は前半で試合から退いたが、第5節の湘南戦で2ゴールをあげ突如爆発。そこから7試合連続ゴールという驚きの大活躍を見せ、第12節大分トリニータ戦以外出場したすべての試合で得点をあげている。

SNS上では、対戦相手のサポーターから敬意をこめて「災厄」「怪物」と恐れられるストライカーのこの爆発的な得点力の秘密は何なのだろうか。また、どうすれば彼を抑えることができるのだろうか。

試合内容とデータ分析を通して探っていく。

圧倒的なデータ

オルンガが見せる素晴らしいパフォーマンスは、データ上にも表れている。15試合(1304分間)に出場し放ったシュートは71本、そのうち16ゴールを決めており、シュート成功率は22.5%。これはJ1で断トツの1位だ。また、昨シーズンはJ2の30試合で158本シュートを打ち27ゴール、成功率は17.1%だった。着実に進化しているのがわかる。

ゴールポイントも49.41ポイントの1位で、2位の三苫薫(川崎フロンターレ)が26.78ポイントと、その差は圧倒的だ。そして、パスレシーブポイントもJ1全選手中で7位。試合を通してチームのパスワークに絡んでいるのだろう。

京都サンガ相手に1試合8ゴールと、強烈なインパクトを残した昨シーズンのJ2最終節。これにより固め打ちの印象が強かったが、今シーズンはどんな相手に対してもコンスタントにゴールを決めており、安定した活躍が目立つ。

試合で見せた意外な実情

オルンガは、かつてガンバ大阪で「浪速の黒豹」と呼ばれ、1997年に28試合25得点で得点王に輝いたパトリック・エムボマ(元カメルーン代表FW)と重なるポイントが多い。

アフリカ出身、左利き、スピードとフィジカルを活かした数々の規格外なプレーはもちろん、先天的な身体能力に頼らない頭脳プレーにも長けている。サッカーIQの高さを感じさせるオルンガのプレーも、どこかエムボマを彷彿とさせる。

今シーズンの柏レイソルは攻撃時にボランチの片方がディフェンスラインまで降り、3-3-1-3気味に変形することが多く、フィニッシュのパターンが豊富だ。その最前線に君臨しているオルンガは、チームメイトのサポートから多くのシュートチャンスを得ている。

特に彼が素晴らしいのは、シュートを打つ場面での多彩な動きだ。第11節ヴィッセル神戸戦のゴールは、相手ディフェンダーの視野が向いていないスペースへ入りパスを受けてのものだった。また、競り合い時には、先にディフェンダーに体を当てて相手の体勢を崩してからポストプレーを行っていた。

第13節鹿島アントラーズ戦では、冷静にコースを狙って2ゴール。シュートの際の足の振りが速いため、ブロックされづらい。第16節サガン鳥栖戦ではクロスボールが流れたところに詰めて1得点と、ゴールへの嗅覚も備えている。

柏レイソルと江坂任

オルンガが得点を量産できているのは、柏レイソルだからこそともいえる。ネルシーニョ監督は細かく、ビルドアップの組織を構築したりするタイプではない。強力な人材がいる場合、その選手の能力を活かすためのチームマネジメントに長けたタイプだ。

MF江坂任の存在も大きい。パスレシーブランキングでJ1全選手中4位とオルンガよりも上位にいる彼は、レイソルの攻撃のキーマンでパスポイントでも8位につけている。試合中も頻繁にオルンガとコミュニケーションをとりながら指示を出し、常にオルンガへのパスを狙っているのが見て取れる。得点以外の場面でも笑顔で話している2人は、強固なホットラインを形成しているのだ。

第15節ガンバ大阪戦からは、新システム4-3-1-2を採用。江坂がトップ下に入り、オルンガとの距離がさらに近くなった。オルンガも中央に陣取るだけではなく、サイドに流れて江坂が飛び込むスペースを作るなど攻撃のパターンが増えている。

今シーズンは新型コロナウイルスの影響を受け、過去に類を見ない過密日程となった。各チームの疲労は蓄積し、守備戦術のズレを修正する時間が少なくなっているのが現状だ。オルンガが大暴れする状況は、まだまだ続くとみていいだろう。

オルンガの抑え方

では、オルンガを抑える手段はないのだろうか。キーポイントは「分断」だと考える。

第11節大分トリニータ戦はスコアレスドローに終わった。この日の柏レイソルのシステムは、江坂が右サイドハーフに入る4-4-2。これによってオルンガとの距離が遠くなり、ほかの選手との連携もあまりうまくいかず、チーム全体の攻撃が停滞してしまった。

第9節横浜F・マリノス戦では、F・マリノスが猛烈なハイプレスをかけたため、柏レイソルの最終ラインに余裕がなくなり、前後の繋がりを断たれオルンガへ正確なボールが届けられなくなっていた。相手のミスを突いてオルンガが得点をあげたため、試合は引き分けに終わったが、かなり苦しい展開だったのは間違いない。

また、オルンガは自分のペースを乱されることを嫌う。そのため、彼にボールが入った時には距離を空けず、ハードにコンタクトするのもかなり有効だろう。

組織的な連携から「分断」する。しかしそんな状況に置かれたとき、柏レイソルとオルンガはどのような進化を遂げるのか、楽しみなサッカーファンは多い。

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