データで読みとくフロンターレの強さ
リーグ王座を奪われ、奪還に燃える川崎フロンターレが猛威を振るっている。開幕戦で引き分けた後、中断期間を経てリーグ再開から怒涛の10連勝。第12節で名古屋グランパスに敗れて今シーズン初黒星を喫したが、8月19日の第11節を終えた時点で勝ち点31、得点34、失点9と手の付けられない強さを誇った。全員が一つのイメージを共有し、パスをつないでその絵を描いていく姿は芸術的だ。
川崎フロンターレの強さを象徴する面白いデータがある。8月16日時点のデータでは、効率よくシュートを打てているかを表すシュートポイントは112、シュート数158、ボールを奪えている指標の奪取ポイントは1001、これらのデータはすべてJ1リーグ1位。さらにゴールキーパーのセーブ率を示すセーブポイントは1.4、被シュート本数は63で、これらはリーグ最低の数字だ。
さらに驚くべきは走りのデータで、これまでの試合の平均走行距離は109.427kmでリーグ17位。1位の横浜F・マリノスは120.780kmなのでその差は大きい。1人あたり1kmほども走行距離が少ないということだ。さらに平均スプリント本数は149回でリーグ15位。1位はやはり横浜F・マリノスで185回を記録している。
つまり川崎フロンターレはほとんどの試合で対戦相手より多く走ることなく、攻撃では効率よくシュートを打って終わり、数多くゴールを奪う。守備ではシュートを打たれる前にボールを奪ってゴールキーパーがセーブする機会がほぼないということになる。
「相手の逆を取る」イメージを共有
フロンターレのベースのシステムは4-1-2-3で、すべての選手たちの技術が非常に高い。第10節・北海道コンサドーレ札幌戦から第12節・名古屋グランパス戦までの3試合をチェックして目の当たりにしたのは、フロンターレの選手たちが全員、同じイメージを頭の中で描いているかのような驚異的なシーンの連続だった。
フロンターレの技術のポイントは「相手の逆」を取ることにある。相手の視野が自分に向いていない時に一気に動く。相手が陣取っているスペースを味方に使わせるために、自分が相手を引き付ける。自分の手前の相手だけではなく、奥にいる相手と味方を見る。
「相手の逆を取る」という共通意識で繋がっており、それを実現させるためのパスの精度も兼ね備えている。そこには他者不在の、自己欲求をただぶつけているような幼いフットボールはない。
最大の特徴は守備
試合を観て気付いたのは、今の川崎フロンターレの強さの秘密は、実は守備にあるということだ。フロンターレは攻撃時、選手それぞれが相手の逆を取るポジショニングでパスコースを確保し、パスをつなぎ、自分たちの時間を作って自分たちのペースで攻撃する。攻撃でのスプリント回数を抑えているため、残った力を守備に使うことができている。
守備での連動したプレッシングが試合を通して機能している。第10節・北海道コンサドーレ札幌戦の2点目が象徴的だった。中央を締めながらハイプレスをかけボールを札幌の左サイドへ誘導。中盤の守田と田中碧もサイドへ飛び出して迎撃し、中への苦し紛れのパスをカットしたのは右サイドバックの山根。そこから一気にショートカウンターで三苫が仕留めた。
このように後半から一気にギアを上げてハイプレスをかける場面が目立つ。また、プレスで前に飛び出した選手が、縦パスに対し戻って挟み込むプレスバックを果敢に行っているのも大きく、これによって相手は常に2対1の数的不利でプレッシャーを受けている状況に陥る。今シーズンの超過密日程の中、メンバーを固定できない中でもこの強度と練度を保ち続けているのは本当に恐ろしいことだ。
数少ない弱点を乗り越えた時
そんな川崎フロンターレにも弱点はある。第11節・セレッソ大阪戦ではサイドバックの位置に戸惑いが見られ、ゴールキーパーからのキックでプレッシャーを剥がされて失点。敗れた第12節・名古屋グランパス戦も低い位置にいるサイドバックに対して中盤の選手が迎撃していたが、それで生まれたスペースを狙われていた。
相手のサイドバックへの対応にズレが生じた時、ほころびが生まれている。しかし、もしこの弱点を乗り越えた時、今までになかったような凄まじいチームが誕生するかもしれない。
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