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走らない、走らせない、セレッソ大阪のディフェンス改革

2020 8/1 06:00KENTA
セレッソ大阪の柿谷曜一朗らⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ロティーナ監督流の特異な堅守

J1セレッソ大阪が今年も手堅い。昨シーズン勝ち点59を積み重ね5位でリーグを終えたチームは、今シーズンも第7節を終えた時点で4勝2分け1敗の勝ち点14を獲得。暫定5位につけている。

昨シーズンから指揮を執るのはスペイン人のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督。ロティーナ監督のサッカーの特徴はディフェンスにある。2019シーズンの総失点25は、2008年に大分トリニータが記録した総失点24に次ぐJリーグ史上2番目の少なさだった。2020シーズンも第7節終了時点の失点数5はリーグで2番目に少ない。

選手がよく走り、よく戦う。ピッチの広い範囲をカバーする。相手より多く走って守り勝つ。しかしデータと試合を読み解くと、こんな日本の「堅守」のイメージとは全く違う実態が、セレッソにはあった。なぜこれほどまでに堅い守備を構築することができるのだろうか?

データでわかるセレッソ大阪の守備

驚きのデータがある。JLEAGUE.jpの記録によると、セレッソ大阪のスプリント回数の1試合平均127回はJ1リーグで18位だった。17位の名古屋が152回であり、J1トップの湘南は190回に上るため、圧倒的にスプリントしていないことがわかる。

スプリントとは時速24km以上のスピードで走ることなので、セレッソ大阪の堅守の実情は、選手がピッチ全体を走り回りハードワークをこなすものとは大きくかけ離れていることになる。ただし、「選手が移動していない」わけではなく、チーム別の走行距離1試合平均は113.70kmでリーグ9位だ。

また、被攻撃回数は95.1とリーグで一番少ないが、被チャンス構築率は13.5%でリーグ15位。ただし被シュート成功率4.4%はリーグで1番少ない数字だ。つまり、攻撃を受ける回数は少ないが、少ない攻撃でシュートを打たれる確率は高い。ただし、そのシュートはコースが限定されていてキーパーに止められているか、枠を外させられている、ということになる。PKとセットプレーで3失点しているが、流れの中で崩されての失点は2つしかない。

「位置」を守って待ち構える

ロティーナ監督のサッカーは「オールコートゾーン」と呼ばれており、ピッチの全体をゾーンディフェンスで守るというものだ。相手に対して強くあたるのではなく、ボールがある位置によって選手が陣取るポジションを決めていく。守備時に選手それぞれが担当する陣地(ゾーン)が細かく決められているのだ。

筆者は第4節~7節までのセレッソの直近4試合をチェックした。セレッソのフォーメーションは4-4-2で、ハイプレスをかけることはあまりなく、ブロックを組んで待ち構える守備をする。

特徴的なのはセンターバック2人とボランチ2人がほとんど中央から動かないことだ。シュートが失点につながりやすい位置はやはりペナルティエリア内の中央なので、そこからのフリーでのシュートと、そこへの直線的な攻撃をまず防ぐことを優先的に考え、ボランチやセンターバックはサイドに相手を迎撃に出ることはほとんどなく中央に陣取る。結局はそこに相手もボールを入れようとするからだ。

おそらくセンターバックとボランチは、ほとんどスプリントしていないだろう。マテイ・ヨニッチとレアンドロ・デサバトがフル出場を続けられているのも、疲労の蓄積が比較的少ないからだと考えられる。

「走らないセレッソ」が走るとき

では数少ないスプリントをいつ、どのように行っているのか?セレッソはスプリントをするタイミングがおおまかに3種類に決められていて、それに呼応してチーム全体が連動する。

1つ目は斜めの飛び出し。サイドハーフが外から中へインナーラップしたり、センターフォワードが相手サイドバックの裏に抜けたり。サイドから中央へ、中央からサイドへといった斜めの飛び出しを、セレッソは攻撃時に多く繰り出す。

2つ目は、センターフォワードがボランチの前を消すとき。セレッソはボランチとセンターバックを中央に陣取らせるために、センターフォワードを中央の守備組織に組み込み縦パスを遮断する。そのため、センターフォワードは素早く自分の担当するポジションに付かなければならない。

そして、もう1つが失点後のハイプレス。セレッソは相手に先制を許したとき、これまでのように引いてブロックを組んでいた状態から一変してハイプレスをかける。その際連動して全員がスプリンターとなる。サイドとセンターフォワードのスプリント数が増える構造になっているわけだ。

また面白いのは、セレッソの攻撃を見ているとすごく「のらりくらり」しているのだ。速攻をガンガン仕掛けるのではなく、自分たちのペースで遅攻する。守備組織のことを考えながら攻撃できるため、カウンター返しのような形で失点することを防げるのだ。

そうすると、相手のスプリント数も自然と減っていく、という現象が起こる。走力とアグレッシブさを武器に闘うファイター型のチームが、セレッソと戦うときにリズムを失うのはそういった理由だろう。

能動的にスプリントする。受動的に走らされる回数を減らすことで、自分たちのペースに引き込む。頑張らない、走らないで堅い守備を作る。この先、より一層の酷暑に突入する日本でサッカーと関わっていく私たちにとって、ロティーナ・セレッソを読み解くことは大きな意味がありそうだ。

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