鹿島がまさかの開幕4連敗スタート
「王者」「試合巧者」
鹿島アントラーズほどこれらの称号が似合うJリーグクラブもないだろう。J1リーグ優勝8回、Jリーグカップ(現YBCルヴァンカップ)優勝6回、天皇杯優勝5回、合計19冠はJクラブ最多。J1リーグ3連覇を果たした唯一のクラブだ。
2016年にはクラブワールドカップ決勝に進出し、ヨーロッパ王者レアルマドリーをあと一歩のところまで追いつめた。2018年にAFCアジアチャンピオンズリーグを制しアジアの頂点にも立っている。2019年には日本のIT企業、株式会社メルカリが筆頭株主となり、スポーツビジネスの面でも日本をけん引する存在となった。
そんな彼らが今シーズン、なんとJ1開幕から4戦全敗、1得点8失点と信じられないような苦戦を強いられている。Jの王者として長年君臨してきた鹿島アントラーズがここまで苦しんでいるのは、Jリーグファンからすればかなり衝撃的だ。
しかしデータを見ると、その苦戦の意外な実情が浮かび上がる。J1チーム別スタッツを見ると、シュート数48はリーグ3位タイであり、コーナーキック数30はリーグ1位タイ。守備のデータを見ると、被シュート数28はリーグで2番目に少ない。
また、第2節の川崎フロンターレ戦以外の3試合では、アタッキングサードプレー数で対戦相手を圧倒しており、川崎戦も相手より2本多い14本のシュートを放った。つまり、守備でほとんど相手にチャンスをつくらせず、攻撃ではアタッキングサードに入ってプレーしシュートもたくさん打っているのに、負け続けているということになる。
チャンスつくるもシュート精度に課題
筆者は直近2試合(第3節・北海道コンサドーレ札幌戦、第4節・浦和レッズ戦)をチェックした。
札幌戦では、ボールホルダーにプレッシャーがかけられていないのにディフェンスラインを上げすぎ、相手フォワードの飛び出しに付いていけずゴールを献上。だが、守備から攻撃への切り替えでは優位に立ち、ショートカウンターでチャンスは多く作れていた。ただ、ボールを保持して敵陣に入った時に前線の動きが止まって待つ場面が多く、後半から修正したものの追いつけなかった。
浦和戦では縦に放り込み、そのクリアボールを拾って二次攻撃するゲーゲンプレス的な場面があった。サイドハーフやフォワードが中から外へ走り相手サイドバックの裏を取る「チャンネルラン」や「パラレラ」といわれる効果的な攻撃を見せ、クロスを22本も打ち込んだ。
しかし2試合とも無得点に終わってしまった。理由は明解。シュートがことごとく枠に飛んでいないのだ。各試合での鹿島の枠内シュート数を見ると、第1節・サンフレッチェ広島戦は19本中2本、第2節・川崎戦は14本中4本、第3節・札幌戦は20本中6本、そして第4節・浦和戦は7本中0本だった。
試合ごとにチームのパフォーマンスはよくなっているので、フィニッシュを枠に飛ばすことができれば結果はついてくるだろう。
ザーゴ監督のもと新スタイル完成なるか
鹿島アントラーズはテクニカルディレクターであるジーコの働きかけで、今シーズンからザーゴ新監督を招聘した。彼がブラジル2部のCAブラガンチーノを1部に昇格させた功績を評価した形だ。
CAブラガンチーノは2019年4月からオーストリアの大手企業レッドブルと提携を開始し、2020シーズンからはチーム名も「レッドブル・ブラガンチーノ」に変わった。レッドブルが経営するサッカークラブは、ドイツ人指導者ラルフ・ラングニックのサッカー哲学を共有している。
守備で激しくプレスをかけ、攻撃ではどんどん縦にパスを送り、それを後方の味方が追い越していく。スプリントの質と量がカギになるサッカーだ。ザーゴ監督はラングニックの教科書をもとにブラジル流のスタイルを確立し、結果を出した。
しかし、鹿島アントラーズはレッドブルグループの傘下ではない。さらに、ザーゴ監督は古巣ブラガンチーノとの契約解除について、訴訟問題に発展する可能性も浮上している。ブラジルから腹心のコーチを3人獲得したものの、間接的な師であるラングニックのアドバイスを乞うことは不可能だろう。
初めて日本での指導にあたる新指揮官と、今までにないハイテンポなサッカーを要求される選手たち。ブラジル流でもレッドブル流でもなく、Jで鹿島流を見つけるしかない。今は苦戦しているが、本来の王者の戦いぶりとザーゴのエッセンスが噛み合った時、今までにないスタイルのチームがJリーグに誕生するかもしれない。
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