「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

スキージャンプ小林陵侑、北京五輪金1号につなげた飛型点と揚力

2022 2/9 06:00田村崇仁
北京冬季五輪で金メダルに輝いた小林陵侑,Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

長野五輪の船木和喜以来24年ぶりの快挙

日本のエースが天性の感覚を注ぎ込んだ大ジャンプで北京の空に歴史を刻んだ。

2月6日、北京冬季五輪のノルディックスキー・ジャンプ男子個人ノーマルヒル(ヒルサイズ=HS106メートル)で25歳の小林陵侑(土屋ホーム)が1回目に104.5メートル、2回目に99.5メートルを飛んで合計275.0点で優勝し、今大会の日本選手団第1号の金メダルを獲得した。

ジャンプの金メダルは1972年札幌五輪70メートル級(現ノーマルヒル)の笠谷幸生、1998年長野五輪ラージヒルの船木和喜と団体に続き、通算4個目。個人種目での金は1998年長野五輪の船木以来で24年ぶりの快挙となった。

1972年札幌五輪で笠谷幸生ら「日の丸飛行隊」が表彰台を独占したのは同じ2月6日。まさに歴史的な50年目の節目に五輪王者となった。

天才的な踏み切り技術でトップの飛型点

五輪のリザルトを詳細に分析すると、数字からも今季ワールドカップ(W杯)で最多7勝を挙げた小林陵侑の強さが見えてくる。「万里の長城」に近い会場の張家口で特有の不安定な風も味方につけ、最大の勝因ポイントはジャンプでは不利となる「追い風」への対応能力の高さだった。

スキー・ジャンプの基礎ルールをおさらいすると、飛距離を得点化した「飛距離点」と、ジャンプの美しさや正確さ、着地の姿勢などを5人のジャッジが採点する「飛型点」、さらに風やスタートゲートの位置による影響を得点化したものの合計で順位を競う。

不利な追い風にW杯ランキング上位の海外のライバルたちが軒並み100メートルに届かず苦しむ展開の中、最後から2番目の49番手で登場した小林陵侑は天才的な踏み切り技術で飛距離を伸ばし、完璧なジャンプで「飛型点」でも圧倒した。

1回目は美しい飛型で距離を伸ばし、ヒルサイズまで1.5メートルに迫る104.5メートルの大ジャンプ。空中に飛び出してもフォームが乱れることなく、着地でも強力な武器である完璧なテレマークを入れた。

飛距離は全体2位、飛型点は60点満点中57.5と全体トップ。さらに不利な追い風によるポイントも加算されて合計145.4点で堂々のトップに立った。

この時点で2位のプレブツ(スロベニア)とは6.2点差。1点が0.5メートル換算のため、飛距離にすると約3メートルの差をつけた。

2回目も追い風に対応

2回目もデータ上は1回目よりさらに不利な追い風が強く吹いた。それでも冷静だった。

圧巻の安定感を示したのがやはり「飛型点」の高さだ。55.5点は2回目で2位に並ぶ高得点。飛距離も99.5メートルにまとめ、2回目の順位だけ見れば5位だが、リードを守り切って悲願の五輪チャンピオンに輝いた。

ジャンプ後半の「揚力」の増加も勝因?

理化学研究所や北翔大のチームは2月4日、スーパーコンピューター「富岳」を使い、小林陵侑のジャンプを解析した結果を発表。ジャンプ後半、空中で風を受けて体を持ち上げる「揚力」が増加し、飛距離につながっていたという興味深いデータも判明した。

解析では「モーションキャプチャー」と呼ばれる手法を活用。通常はジャンプ後半に揚力が減少して失速するが、小林陵侑は背中側の気流の乱れが少なく、後半になっても空気抵抗を抑えることができ、揚力の増加につながったと結論付けた。

空中でのスキー操作も秀逸。脚をV字に開くとスキーの裏面は体の外側を向くが、風の捉え方がうまく、揚力を逃さないようにできるだけ真下に向けて滑空する。自他ともに認める「感覚派」ながら、微細な変化でも鋭敏に感じて動きを修正できる対応力が誰よりも遠くに飛べる秘密である。

所属先の選手兼任で監督のレジェンド、葛西紀明を「師匠」と慕う。ジャンプ界の偉大な恩人に注ぎ込まれたDNAが北京の夜に花開いた飛躍でもあった。

【関連記事】
北京五輪金メダル最有力、小林陵侑が総合優勝したジャンプ週間の高い価値
原田雅彦、大失敗ジャンプから涙の逆転金メダル、1998年長野五輪名場面
平野歩夢が世界初成功、スノボHPの超大技「トリプルコーク1440」とは