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ラグビーW杯直前の南ア戦が日本を覚醒させた 決勝トーナメントで雪辱を

2019 10/17 18:34藤井一
リーチマイケルらラグビー日本代表Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

先制されても全くあわてない。それが今大会の日本の強さ

スコットランドは立ち上がりの6分、テンポのいい攻撃でSOフィン・ラッセルが先制のトライ。ゴールも決まって7-0とリードしたが、今大会、日本は先制されたぐらいであわてるようなヤワなチームではない。

ディフェンスを整備し、17分、WTB福岡堅樹からWTB松島幸太朗への絶妙のオフロードパスにより目にも鮮やかなトライシーンが現出され、同点に追いついてからは、もうスコットランドがリードすることはなかった。

もっと言うと立ち上がりの7-0のまま終わっても日本にボーナスポイント1点が入るため、「決勝トーナメント進出」だけを考えた場合、この試合中、一度もスコットランドがその条件を満たした時間帯はない。スコア以上に日本は勝っていたのだ。

PR稲垣啓太の勝ち越しトライも、CTBラファエレ ティモシーのグラバーキックをしっかり獲ってトライに結びつけた39分の福岡の快走も、後半開始早々の福岡の独走トライも、すべて感涙なしには語れないほどすばらしい。

さらに付け加えるなら福岡の2トライは主将FLのリーチ マイケルが「トランディションの速さは世界一にならなければいけない」と言い続け、練習を積み重ね、それがチームの武器になっていることも証明した形で奪ったものだ。

追撃のスコットランドは矢尽き刀折れた

追い詰められたスコットランドは49分PRウイレム・ネル、さらに5人の選手交代を敢行し、リズムを変え、途中出場したばかりのPRサンダー・フェーガーソンが54分にもトライし、必死の追い上げを図る。

まだ25分ほど残っていたから多少の緊張感は走ったが、日本のリードは7点。スコットランドはここから2トライ2ゴールで逆転しても7点しかリードできないから決勝トーナメントには進出できない。トライかPGなりDGなりの追加点が必要なのだが、強靭なフィットネスに支えられた「史上最強の日本代表」相手にこれがいかに至難の業であるかを彼らはここから知ることになる。

日本はリロードを繰り返しダブルタックルを見舞い続けた。そのディフェンスは見事の一語に尽きる。そして、NO8姫野和樹の68分の「ジャッカル」が今大会の日本の強さの象徴だ。

スコットランドのCTBクリス・ハリスがノットリリースザボールの反則を取られ、このプレーに絡んだFLジェイミー・リッチーがエキサイトしたシーンは、日本の速いディフェンスに「なぜ僕らの思ったようにプレーさせてくれないんだ」と駄々をこねて暴れている少年のようにさえ見えた。

まだ時間は残っていたが、このとき、日本はほぼ勝利を確定させたと言っても過言ではない。 「トランディション」と「フィットネス」、この2つのキーワードを軸に世界から賞賛されるチームとなった日本代表にはありがとうの言葉しか思い浮かばない。

文句のつけようのないベスト8進出を心から祝福したい。

南アフリカ戦での日本のアドバンテージ

ついに夢の実現、決勝トーナメントである。

今にして思えば9月6日の南アフリカとのW杯壮行試合は、極めて大きな意味を持っていた。

7-41と完敗したことで、主将のリーチは「この試合で出た課題を修正すればいい」と言っていたが、まず明らかにSO田村優が変わった。W杯本番では、それまで散見されていた不用意なキックはほとんどない。スコットランド戦のタッチキックで、距離は稼いだがタッチラインぎりぎりだったがためにクイックスローインされ、トライに結びつけられたプレーもあったが、もう2度とこんなキックは蹴らないだろう。

田村はゴールキックによる得点ばかりがクローズアップされるが、冷静なゲームコントロールこそが、SOにとって最も重要な役割。田村の修正されたプレー選択の数々こそがここまでの日本の躍進を支えているのだ。

また、ノックオンやスローフォワードなどのアンフォーストエラーも激減した。そして、日本の強力な武器の一つであるスクラムは南アフリカ戦では「ここ一番」で押されたのだが、アイルランド戦でもスコットランド戦でもその失敗を糧とし、逆に「ここ一番」のスクラムで相手の反則を誘っている。こうして振り返ると、9月6日、南アフリカは、本当に日本に大きなプレゼントをしてくれたのだ。

4年前のリベンジに燃えていた南アフリカはベストメンバーで日本と戦った。驚愕プレー連発のWTB170cmのコルビも逆サイドの超速WTBマピンピも本気で日本のディフェンスラインを切り裂く走りを見せた。

つまりほとんどすべてをさらけ出した。戦力分析の大いなる材料だ。一方の日本は、福岡が開始早々に故障で離脱。彼らは福岡のプレーを映像でこそ確認しているだろうが、まだそのすごさを肌で知らない。意図したものではもちろんないが、これも日本の大きなアドバンテージになりうる。

10月20日の準々決勝、日本にはぜひ9月6日の“恩返し”をしてもらいたいものだ。それは、決して夢物語ではない。