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日本ラグビーの「特別な日」平尾誠二さん命日に南アを撃破するためのカギ

2019 10/15 11:58田村崇仁
スコットランドを撃破した日本Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

スコットランド破り初の8強進出

ラグビーのワールドカップ(W杯)で日本が9度目の出場で初めて8強入りする歴史的な快挙を達成した。

10月13日、横浜市の日産スタジアムで行われた1次リーグA組最終戦でスコットランドを28―21で破って4連勝とし、勝ち点19でA組を1位通過。3勝1敗だった前回2015年大会では1次リーグで唯一敗れ、過去1勝10敗だった伝統国のスコットランドから松島幸太朗(サントリー)や福岡堅樹(パナソニック)の快足バックス陣らが活躍し、計4トライで雪辱した。

チーム一丸で勝利を引き寄せたのは世界も驚く日本特有のハイテンポな連続攻撃だった。20日に東京・味の素スタジアムで行われる準々決勝で、前回大会で金星を挙げたW杯2度優勝の南アフリカ(B組2位)と対戦する。

キック減らしてボール保持率55%

日本はキックを減らし、ボールを保持して攻める作戦が当たった。試合データを見ると、ボール保持率は試合巧者のスコットランドに55%で上回り、キック回数は12回と相手の28回より大幅に少なかった。台風19号の影響で開催も危ぶまれた大一番で風がまだ強かった気象条件もあり、簡単にパントキックなどで球を手放さず、スコットランドの攻めの時間を削る狙いがあった。

スコットランド戦データⒸSPAIA

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タックル数が148回で、相手の199回より大幅に少なかったのも、日本側がボールを保持していた内容を示す結果だ。相手や条件に合わせて戦術を柔軟に変えられるのも今の日本の強さといえる。

福岡が断然トップの116メートル

ボールを持ちながら走って獲得した距離はWTB福岡が116メートルで両チームの断然トップ。WTB松島が79メートル、CTBラファエレは76メートルで続き、全体の上位3位までを日本勢が占めた。

50メートル5秒8の俊足を武器にするトライゲッター、福岡は前半17分に松島の先制トライを絶妙なオフロードパスで演出し、39分にはラファエレのグラバーキックをトップスピードで走りながら片手でキャッチし、そのまま走り込んでトライ。後半開始早々には相手からボールを自ら奪い取ってターンオーバーすると、そのまま約50メートルを走ってボーナス点付きのチーム4トライ目となる貴重な独走トライを決めた。

いずれも粘り強いボールキープからスピードのあるバックスを走らせる攻撃が機能したことが数字にも表れた形だ。

稲垣の代表初トライは理想の形

前半25分、FW第1列で体を張るプロップ、稲垣の代表初トライは日本の理想的な形だった。

敵陣中央で仕掛けた波状攻撃。タックルを受けながら次々と流れるようにオフロードパスでボールをつないでいき、FWとバックスが一体となって最後は2014年11月に初キャップを獲得した縁の下の力持ちが貴重な勝ち越しトライ。パスは204回で相手の163回を上回り、タックルを受けながら上半身や腕力を生かしてつなぐオフロードパスも8回で連続攻撃を物語る数字が出た。

世界5位・南ア戦は走力勝負で勝機

さあ次は、日本が初めて挑戦する準々決勝だ。W杯優勝2度の南アフリカとは2015年W杯で「スポーツ史上最大の番狂わせ」とも呼ばれる歴史的勝利を挙げたが、9月6日のW杯壮行試合では7―41で完敗した。20日は神戸製鋼の黄金期を築き、日本代表監督を務めた平尾誠二さん(享年53)の命日でもある。

南アフリカ代表の愛称は「スプリングボクス」。同国のサバンナを駆け抜ける俊敏な動物だ。ただ持ち味は速さだけでなく、世界最高峰クラスのFW陣が強靱なパワーを前面に出して押してくるスタイル。ウイングのコルビは170センチと小柄だが、スピードと体幹の強さが持ち味である脅威のトライゲッターだ。

日本は素早いテンポの連続攻撃でクレバーに仕掛け、前回大会と同様に後半のスタミナと走力勝負に持ち込むことが勝機を探る鍵だろう。キープレーヤーは世界も驚嘆するスピードスターの福岡と突破力抜群の松島だ。

W杯個人成績ⒸSPAIA

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ハイボールと激しく体を当てるディフェンスでまともにぶつかり合えば分が悪い。相手防御が整う前に次々と仕掛けて揺さぶり、機を見て田村優(キヤノン)のスペースを突くキックと組織力で対抗できれば、相性は決して悪くないとみる。粘り強いディフェンスが継続できれば相手の攻撃も手詰まりになり、再び世界を驚かせる展開に持ち込めるだろう。

日本の世界ランキングは過去最高の7位に浮上し、南アフリカが5位。快進撃を続ける日本代表にはFB山中亮平(神戸製鋼)ら平尾さんの教え子もいる。「桜の勇者たち」がラグビー界の「特別な日」に再び新たな歴史を切り開く戦いに挑む。