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K-1史上初の3階級王者・武尊インタビュー「大晦日は毎年変わらず登山の予定です」

2018 12/29 15:00高須基一朗
武尊,Ⓒ松本頼
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Ⓒ松本頼

12月8日、皇治との死闘制す

2018年12月8日に行われた、K-1 WORLD GPスーパー・フェザー級タイトルマッチで、皇治との死闘を制して初防衛に成功した武尊が、SPAIAのインタビューに応じた。試合を振り返った感想や、ファンが熱望し続けている那須川天心選手との夢の対決への思いなどを明かしてくれた。

――まずは大阪での完全アウェーでの勝利おめでとうございます。

武尊:
ありがとうございます。

――壮絶な殴り合いの末の勝利でしたが怪我の具合は?

武尊:
いやあ、今回の試合でたくさん怪我しました(笑)。会場であれだけ盛り上げてくれているお客さんを前にして恥ずかしい戦い方はできないですからね。

――翌日の一夜明け会見でも痛々しい拳の状態はわかりましたが、状態はどうなんでしょうか?

武尊:
そうですね。拳にヒビが入っちゃって。手術とかの必要は無いので大丈夫ですよ。

――会見時に拳を保護する小さな湿布のようなものを張っていたと思うのですが、あれは拳専用の応急処置や回復を促すものなんですか?

武尊:
いや、あの日に固定しなきゃいけなくて。会見前までは、実は包帯でとりあえず応急処置的に巻いている状態でした。勝ったのに痛々しい感じで出ていけないですからね。 ぎりぎりで包帯を取って会見に挑んだだけで、特別な処置を施したものではないですよ。

――拳の怪我は、これまでも何度も経験していると思うのですが…。

武尊:
本当にそうなんですよ。毎回、試合のたびに同じところを怪我していた。ボクサーナックルですよ。毎回、拳を守る巻き方でバンテージも巻いてもらっているんですが、それでも折れちゃうんですよね。拳の当たり所もあると思うんですけどね。顎をパンチで打ち抜いてるときとかは折れないんですが、頭とか殴ってしまうと骨が固いので拳のほうが折れてしまいますね。職業病ですよ。

――試合中に折れると躊躇しますか?

武尊:
しないです。試合中は折れてもいいと思って殴っています。なんで試合前にバンテージ巻くときも、あんまり厚く巻きすぎると相手へのダメージが軽減してしまうので。 厚く巻けばクッションになって拳は守れるけど、折れてもいいんで厚く巻かないでくださいっていつも頼んでます。 で、今回もその注文をしたら折れちゃったっていう(笑)。 折れたところで躊躇は全くないですね。 拳が折れても相手が倒れてくれるならば、それでいいです。

皇治戦で「選手として成長できた」

――「平成最後のK-1名勝負」となった皇治選手とのタイトルマッチでは、試合開始直後は相手が苦しむボディーへの必要以上の攻撃を多用していたように思えますが、それはどうですか?

武尊:
あったかもしれないですね(笑)。ただ、試合が進むにつれて、途中からファイトスタイルが変わりましたよね。最初は蹴り使って上下に打ち分けていたのに、途中からパンチしか打ってないです。

――前半は相手を削る戦いでしたよね? ボディーへの膝、ローキックと…壊す、潰すって気持ちが前面に出ていた気がします。

武尊:
確かにそうですね。それが、あれだけ気持ちをぶつけてくれると、「壊す」「削る」「潰す」では無くて、自分も「倒す」ってっ気持ちだけになりましたね。

昔は、そういった試合しかしたくなかったんですけど、今って背負うものがあるので勝たないとって気持ちも出る時があるんですよね。でも皇治選手との試合の時はリスクもあるんですけど、ポイント取っていたらあんな戦い方しないんですけど、 昔の気持ちをもう一度感じさせてもらえて、思いっきり楽しんで殴り合えた感覚ですね。

――この試合は、後世に10年たっても語り継がれる名勝負の一つになったと思うのですが、その周囲の反響ついてはどうですか?

武尊:
そんなに!?って正直な気持ちですけど…、K-1ファンが評価してくれていることなので盛り上がってくれているし、感動したって声もたくさんもらえたので素直に嬉しいですよね。

過去に魔裟斗選手とKID選手の対決もそうですけど、お互いに負けられない状態を最大限に高めて挑んでいる試合なんで盛り上がるし、負けたら失うものがすごく大きいので、観ている人たちに伝わるんだなってあらためて思いましたね。

それにお互いに、それだけの思いを持って挑んでいるから、簡単に倒れないし、最後の1秒まで倒しに行くし、気持ちと気持ちの戦いが出来たので、また選手として成長できましたね。

――成長というキーワードが出たので、武尊選手の1年で更に磨きがかかったなと思うのは、試合前と試合後のインタビューなどの受け答えに夢がある発言や格闘技を純粋に盛り上げたい気持ちの伝わる発言が多いと感じています。 この点についてはどうですか?

武尊:
嬉しいですね、そういってもらえるのは。発言のことを考えているわけではないんですけど、自分の試合のことだけじゃなくて、お客さんのこと、K-1全体のこと、こうしたら盛り上がるんじゃないかって起きている間はずっと考えていて、そうすると自然と、思いって言葉で出てきますね~。自分の中で思いがあふれているので、公の場でその時に浮かんだ言葉を発していますね。

――皇治選手との対戦終了後にも、いい言葉の数々が出ましたよね? ファンが望んでいる選手との対戦についてコメントした際も、相手選手を挑発するような罵る言葉ではなく、歩み寄って実現に向けて動くと宣言されたことにも大きな評価を得たと思うんですが、このあたりについてはどうでしょうか?

武尊:
現段階ではリング上で話したこと以外に、動きは無いですけど、実現に向けてなんでもしたいと思っています。

――今年(2018年)は年間で3大会が試合、そのうち1大会は1DAYトーナメント3試合の合計5試合を戦って、どうでしょうか…満足いく1年間でしたか?

武尊:
年間5試合って考えると、今年はいっぱい試合が出来たなって思えますね。 どこかしら怪我があって、試合感覚が空いちゃったりが続いていたので、その中でも上手く調整して戦えたんじゃないかなって思いますね。

あとは怪我が多くなった分、やはりケアする時間も増えたので、治療も本格的に取り入れたりしていますね。

ケビン山崎氏のバックアップで「動き出し変わった」

――ケアの話が出たので、日ハムの中田翔選手やソフトバンクの柳田選手など名だたるプロ野球選手の肉体改造とケアに協力しているトレーナーのケビン山崎氏が、試合前の武尊選手を全面バックアップしてくれていますよね?

武尊:
はい、体作るタイミングと試合直前の選手控室でのケアをやってもらっていますね。 可動域も変わるし、パッと動けるっていうんですかね、最初の動き出しが変わります。 ある程度、上げた後だと体って瞬時に動けるようになっているんですけど、それが試合開始にすぐに動ける。

トーナメントで説明すると分かりやすいと思うのですけど、初戦→準決勝→決勝って、どんどん試合を重ねるごとに体が温まってきて動きが良くなっていくんですね。 同時に可動域も瞬発力も上がっていくんですけど、それを早めに作ってもらってベストな状態にしてもらっていますね。

――差し支えなければ、その調整方法の具体的な内容を聞いても大丈夫ならば知りたいのですが…。

武尊:
僕は全然、気にしないので大丈夫ですよ。レッドコードっていう体を天井から吊るして運動エネルギーをうまく伝達できるように調整していますね。

――皇治選手とのタイトルマッチで、ファイトマネーもドカッと稼がれたのではと思うのですが…非常に聞きにくいところではありますがお金の使い道は?

武尊:
ジムのみんなで旅行とか、ジムの後輩と食事に行ったりと、そういったところでは思いっきり使いますけど…それ以外だと毎日練習していて使うところが無いので。 今回も試合終わってから1週間も経過しているのに、結局ずっと仕事で一度も休みないんですよ!! まだお金を使う機会すらもらえていないですね(笑)

年明けからアメリカへ出稽古

――さて、年内はいつまで仕事なんでしょうか?

武尊:
年内は27日の記者会見まで仕事です。実は年明け1月初旬からアメリカL.Aの新しい格闘技ジムへ出稽古に行きます。ファイターズ・ハウスで共同生活です。朝から晩まで格闘技漬けの毎日を過ごせますね。二段ベッドで上の段に僕が寝て、下にコーチが寝ていてみたいな生活ですね。

――過酷な環境ですね。

武尊:
いや、その環境が良いですね。好きなことだけに没頭できるんで最高ですよ。 前回、アメリカのコロラド州のデンバーの格闘技ジムへ行った際には、朝7時ぐらいには起きて朝食を作って、みんなで走って、ジムへ行って時間によってクラスが違うんですが、全部のクラス(キック・柔術・タックル・寝技・フィジカル)の授業に出て、夜20時ぐらいに練習は終わって、ファイターズ・ハウスに戻って庭でバーベキューして夕食を食べて、洗濯して寝るっていう毎日(笑)。

――それを毎日継続するって考えると好きでないと続かないですね。

武尊:
全然つらくないですよ、楽しいです。新しい技術とかいっぱいあるし、総合格闘技の選手が多かったので打撃の打ち方とか、キックボクシングでも使えるちょっとしたフェイントだったり、スイッチの動きを取り入れたりするのが良いですね。

(キックボクサーは)やらない動きなんで、この前の皇治選手との対戦で獲ったダウンもそうなんですけど、右のパンチを打つ時って右足が後ろで踏ん張ってなんですけど、サウスポーに構えて右足を下したタイミングで右パンチを打つっていう、アメリカのジムのラドウィックさんに教えてもらった技術で。すごい頻繁にスイッチするんですけど、そうやって相手の死角に入って打つっていうのも勉強になりましたね。

向こうで練習相手に現UFC世界バンタム級王者のTJ・ディラショーがいたんで、キックの練習でクリンチや足をかけられて倒されてマウント・ポジション(馬乗り)を取られていたりして、総合ルールだったらやられているって思っちゃうんですよね。 やられて分かるっていうんですかね。打撃でも効いたときに、ここ効くんだってわかるのと一緒で、やられないと分からないことが多いんで、 それもいい勉強になりましたね。 アメリカへ行くと、毎日新しい技術と出合えるんで、それが楽しいですね。

「1億円より1億人に観てほしい」

――年明けに渡米ということになると、大晦日は日本にいますよね。そうなると大晦日はRIZINの会場へ足を運んで那須川天心選手の試合を観戦なんてことはあり得ますか?

武尊:
毎年恒例のことなんですけど、大晦日は山登りするので、今年も大晦日から元旦にかけては山登りですね。

――来年は、夢のカードが実現となるとファイトマネーもこれまでとは違う金額が用意されて動くかと思うのですが、そのあたりはどうですか?

武尊:
1億円もらえるよりも、1億人に観てもらえる選手として格闘技を盛り上げられたら、かっこよくないですか?

ここまでそういった気持ちでK-1や格闘技を盛り上げてきたし、もしかしたら来年はK-1の地上波放送を通じて1億人の人が見てくれる試合が出来るかもしれない。 そのチャンスは是非、実現したいと思っています。 そっちのほうが財産ですね。