「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

【スポーツ×IT】第1回 スポーツデータとAI の新しい活用方法-②

2018 4/20 18:00藤本倫史
リーバイススタジアム,スーパーボウル
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スマートスタジアムとは

今回は経営面に大きく関わる要素をハードとソフトに分けて紹介していく。ハードとはスタジアムやアリーナのことであり、情報サービス提供などを含めたICT化事業を推進しているスタジアムのことを総称して、「スマートスタジアム」と言う。

Jリーグの大宮アルディージャが、スポンサーであるNTTグループと共同で、本拠地NACK5スタジアム大宮のスマートスタジアム化を進めている。インターネットが普及する現在、スポーツに限らず、公共スペースのWi-Fiサービスが必要となっている。

特に今後、観光立国を推進しようとする日本では、Wi-Fiサービスの整備は必須だ。NACK5スタジアム大宮では、インターネットの接続環境が良いのはもちろん、スマートフォン向けのアプリを開発し、選手情報が見られるサービスを行っている。さらに、会場では自分がGKになったかのような、VRを生かしたイベントなども行っている。

スタジアム内だけではなく、近くにある商店街とも連携し、お店紹介のアプリやクーポン情報なども提供しており、まちの活性化にも一役買っているのだ。

シリコンバレーにあるスマートスタジアム

アメリカのスタジアムでは、日本よりも先進的な取り組みを行っている。それが、NFLサンフランシスコ・49ersの本拠地であるリーバイススタジアムだ。このスタジアムは前回のスポーツ未来会開拓会議でスマートスタジアムとして取り上げられた。

リーバイススタジアムはカリフォルニア州サンタクララにあり、シリコンバレーのど真ん中に位置している。ITの最新技術を取り入れやすい場所にあり、スポンサーもIT企業が多い。スタジアムのインターネット環境は、Wi-Fiのアクセススポットが1000以上あり、伝送速度も40Gビットある。

2016年のスーパーボールの会場となった場所であり、試合中に公式アプリでリアルタイムな情報を獲得でき、リプレーをその場でみることもできた。それだけに留まらず、スタジアム内の飲食のオーダーもスマホで行えるのだ。

スポンサー獲得が上手いのもリーバイススタジアム特徴で、場内だけでなく、各ゲートやデジタルサイネージを利用し、広告料を通常のスタジアムよりも多く獲得している。

昨年度、私が所属している大学でアメリカスポーツビジネス研修を行ったが、提携校である大学職員も「リーバイススタジアムの快適性は非常に高い」と言っていた。この他にもアメリカで人気ナンバーワンのプロスポーツであるNFLのスタジアムは、ファンの注目度も高く、IT化を推し進めている。

メジャーリーグではとうなのか?

NFLだけでなくメジャーリーグでも、スマートスタジアムを目指している。私が見学したドジャースタジアムでは、球場内にソーシャルメディアセンターを配置し、ツイッターやフェイスブックでの写真投稿を球場のビジョンやHPと連動させ、ファンを楽しませる演出を行っていた。

ロサンゼルス・ドジャースは現在、ヤンキースを凌ぐ、メジャーリーグナンバーワンの観客動員数を誇っている。このようにITを活用したサービスを差別化していくのも観客動員数を上げていく重要な戦略となる。

ドジャースの本拠地から近いロサンゼルス・エンジェルスやサンディエゴ・パドレスもドジャースとは違うスタジアム戦略を行っており、ITの活用は重要なツールとなっている。これらのスタジアム戦略については、改めて次回以降に詳しく述べるが、確実にどのスポーツリーグもスマートスタジアムへ進化していくだろう。

観るスポーツのIT化

ソフト(コンテンツ)に関しては、ドジャースタジアムのようにソーシャルメディアと連動するのが基本だが、最も大切なものは、マス・メディアとの連携だろう。前回のスペシャルインタビューでも出てきた課題だが、いかにファンの階層別に楽しんでもらえるサービスを提供できるかが鍵となる。

コア層には、セイバーメトリックスを駆使したデータ提供やマニアックな解説などが必要となる。フライボールレボリューションの波が日本に入り選手が試行し始めれば、新たなビジネスチャンスも広がる。さらに、コアなファンがSNS上で議論を行い、球団やスポーツビジネス企業に対して提案を行い、新たなITサービスなどが生まれるだろう。

ライト層には、野球やサッカーファンの視点で、スポーツ中継を流すのではなく、他のエンターテイメントの視点、例えばアイドルやアニメなどの業界と連携し、視聴者に対して選択を与える必要がある。この「選択を与える」ことこそが、スポーツビジネスのキーワードになってくると私は考える。


これからスポーツにITを活用する取り組みはますます増えていくだろう。しかし、ITはあくまでツールであり、ツールは上手く使用して始めて活きてくる。この点を忘れず、スポーツとITの可能性を次回、違う視点で見ていきたい。

《ライタープロフィール》
藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。