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【スポーツ×IT】第2回 スポーツとIT の可能性と課題-①

2018 4/27 18:06藤本倫史
アンダーアーマー,ロゴ
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スポーツ用品メーカーとIT

前シリーズでは、主に競技と経営の側面からスポーツ×ITを見てきた。今回は、そこから派生する新たな可能性について探っていきたい。

まず、健康分野である。この分野で思い浮かぶのが、スポーツジムや健康教室ではないか。現在、健康ブームであり、スポーツジムなどに通う人たちは年々増加している。スポーツジムの在り方も、パーソナルトレーニングや女性専用のジムなど多様化している。

健康食品もブームである。アスリートや芸能人が連携し、商品が開発されている。国でも医療費削減のために、スポーツ振興を進めており、「健康的な体づくりをしたい」と思う人たちは増えていくだろう。それに伴い、この市場が拡大していくのは間違いない。

その中で、これらの分野の重要なカギとなるのが、ITである。画一的なサービスは衰退し、個人でITを活用して、健康的な暮らしを手に入れる時代になる。その前にスポーツ関連企業も、何かの手を打たなければならない。皆さんに馴染みの深いスポーツ用品メーカーを事例に分析したい。

アンダーアーマーの成功と低迷

スポーツ用品の分野では、長らくナイキとアディダスが市場を牛耳っていたが、それを脅かす存在が現れた。新興ブランドのアンダーアーマーである。1996年に創業し、アンダードックスピリットというブランドコンセプトを掲げ、スポーツシーンと普段着で着る人たちをターゲットとした「アスレジャー」市場をがっちりと掴み、10代の若者や20代の女性から支持を得て急成長した。

従来のスポーツ用品メーカーは、トップアスリートやメガスポーツイベント(オリンピックやワールドカップ)のスポンサーとなり購買層の認知度を上げ消費につなげる戦略を取ってきた。

一方、アンダーアーマーは早くからITに投資し、フィットネスアプリやカロリー計算のアプリを開発。さらに、開発だけでなく、利用者のコミュニティを作るために、プラットフォームとなるサイトを積極的に活用する施策も考え出した。

ヨーロッパなどのフィットネスアプリ開発会社の買収も行っている。また、SNSの活用も積極的で、フェイスブックやTwitterのフォロワー数は非常に多い。

IT活用はグローバルスタンダードに

このまま一気に老舗ブランドの牙城を崩すかに見えたが、メインターゲットとしている10代20代の流行の移り変わりについていけず、売り上げが低迷。2桁成長していた成長率が2017年第2四半期の北米での売り上げで0.3%増にとどまり、株価も下落した。スポーツ用品メーカーとしての地位も完全に確立できておらず、現在ナイキやアディダスの猛追にあっている。

特にアディダスはランニングやアウトドア関連のオンラインショップ事業に力を入れ、売り上げが落ち込んでいた北米市場の売上を回復している。老舗メーカーがIT分野に力を注ぎ反撃に出た形だ。販売戦略へのIT活用はいまやグローバルスタンダードとなっている。

ここからさらにIT活用が進めば、スポーツクラブ、スポーツジム、食品企業などと連携し、多角的なビジネス展開も可能となるだろう。例えば、選手と双方向にSNSでやりとりをしながら、同じトレーニングやフィットネス、栄養管理をオンラインで一緒にできるファンコミュニティを共同開発するなど夢が広がる。

そのためには、主とするビジネスを大切にしながら、いかにITとの融合を図るのか将来的なビジネス展開のビジョンが必要だ。

次回は将来のビジョンを描くうえでスポーツ×ITの課題となるものについて見ていきたい。

《ライタープロフィール》
藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。