「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

【スポーツ×IT】第1回 スポーツデータとAI の新しい活用方法-①

2018 4/13 18:00藤本倫史
フェンウェイパーク
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15兆円を達成する重要なツール

スポーツを多角的な視点で語っていく本連載。新シリーズのテーマは「スポーツ×IT」。第1回はフライングボール・レボリューションやデータコンテンツなどITがメジャーリーグに与えた影響を事例とともに紹介し、日本国内のスポーツへのIT活用法を考えていく。

前回、スペシャルインタビューを実施し、現在、スポーツビジネスの世界で、ITは非常に重要なツールであることが再確認できた。

政府も経済産業省とスポーツ庁が共同でスポーツ未来開拓会議を開催し、スポーツ産業活性化について議論を行っており、一昨年の中間報告書でも、スポーツとITの重要性が明記された。新ビジネス創出の促進、人材の育成・活用、他産業との融合など、ITの新しい活用方法について言及されている。

さらに、民間でも野村総合研究所やNTTデータ経営研究所などのシンクタンクで、早くからスポーツとITの研究や実践が行われている。2025年までにスポーツ産業の市場を15兆円に拡大する目標に向け民官ともに動き出している。

このような動きや資料をもとに、スポーツとITの今後の活用方法をまとめて、いくつかの項目に分けて考えてみたい。

メジャーリーグを変えたITの活用

競技面では、データスタジアム社が行っているようなデータ分析を含め、ITをチームマネジメントに活用する動きが加速するだろう。端的に言うと、データを活用し、選手のパフォーマンスを上げ、チーム戦略に最も重要な指標を創りだすツールになるということである。

この顕著な事例が、昨年度、メジャーリーグを席巻した「フライボールレボリューション」である。昨年のメジャーリーグの本塁打は過去最高の6105本であった。それまでの記録は筋肉増強剤が頻繁に使用されていたとされる2000年の5693本である。

選手からボールが飛びすぎる(飛びやすいボールを使っているのではないか)という声もあったが、これはITを活用したデータ分析によるプレーの大きな変化であり、成果でもある。一昔前の野球の常識では、ゴロを打つ方がアウトになる確率が低いと言われてきた。フライは捕球された時点で1アウト。一方、ゴロの場合は捕って、投げて、また捕るという3つのプレーが必要である。このプレーの回数などから何十年も常識が続き、私もそのように野球を教わってきた。

しかし、実はメジャーリーグの分析専門家によると、フライを打った方がアウトになる確率が低いという分析結果が出た。
打球の速度と角度を分析すると、初速が158キロ以上、角度30度前後だと打球の8割がヒットになり、その多くがホームランになると結果が出た。これがバレルゾーン(Barrel Zone)と言われるものである。

この分析結果にいち早く気づきチームの打撃力に反映させたのが、ヒューストン・アストロズである。昨年、メジャーリーグ1位の得点数と2位の本塁打数を誇った。また、昨年、彗星のごとく現れ、52本塁打を打ち、ホームラン王を獲得したニューヨークヤンキースのアーロン・ジャッジもフライボール・レボリューションの申し子である。

成功を収めているメジャーリーグが設立した企業

このような変化は2015年にメジャーリーグの全球場に配備されたスタットキャストの存在が大きい。これはカメラやレーダーを使用し、高精度に選手やボールの動きを分析する。

この導入を進めたのが、リーグが設立したMLBアドバンスドメディアである。MLBアドバンスドメディアは、インターネットの動画配信をどのスポーツリーグよりも早く事業として成立させ、多くの利益を生み出している。

MLBアドバンスドメディアはチームやメディアにデータを提供することにより、デジタル配信やテレビ放映の技術を上げ、自社運営する動画サイトのコンテンツなどを充実させる。そして、データを見ることの奥深さを伝え、結果的に自社のビジネスにも還元できるモデルを作っている。これにより自社の利益を上げるだけでなく、優秀なビジネスパートナーを創り、産業自体を拡大させることに成功している。

日本でも今年から11球団がスタッドキャストと同様なシステムであるトラックマンを導入する。しかし、この導入はリーグではなく、各球団に任せられ、千差万別の運用となるだろう。

リーグやビジネスの構造が違うので致し方ないが、システムはあくまでツールである。導入することが目的ではなく、効果的に運用し、競技力向上につなげなければ意味がない。これらをはき違えないように、ITの活用方法を日本リーグやチームは考えなければならない。

プロスポーツだけではないIT活用方法

プロスポーツだけでなく、学校体育や趣味で行うスポーツでも活用できるだろう。特に子どものスポーツ離れが言われて久しいが、ITの活用を促進する必要があるだろう。

すでにアメリカなどでは、子どもの体力測定や健康状態などでITツールを活用し、管理や増強を図っているが、日本でも少しずつ事例が出てきている。

私が居住する広島県から近い愛媛県では、教育委員会が「えひめ子どもスポーツITスタジアム」という取り組みを行い、WEBサイトで体力増進や現状などを記録させ、体力の向上とスポーツへの参加意識の高揚を図っている。

ただ、このような自治体単独での取り組みはまだ十分とは言えず、高いエンターテイメント性を持たせ、子どもの興味関心を惹きつけるまでには至っていない。民間企業との連携を強め、毎日の利用を促す仕組みを作り上げることが、今後の課題ではないだろうか。

スペシャルインタビューでも金島氏が提案していたが、スポーツデータを活用した数学や統計の教育なども1つのアイディアである。スポーツとITの連携を益々緊密に行う必要がある。

次回はこのスポーツ×ITに関して、経営面など違った角度で見ていきたい。

《ライタープロフィール》
藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 講師。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。