ブラジル出身のサッカー愛する熱血漢
「ピース!(平和を)」
国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドルー・パーソンズ会長は3月4日、北京冬季パラリンピックの開会式でロシアがウクライナに軍事侵攻したことを念頭に異例とも言える「平和のメッセージ」を訴えた。
「世界で起こっていることに衝撃と恐怖を感じている。21世紀は戦争や憎しみの時代ではない。対話と外交の時代だ」と訴え掛け、最後は両拳を握りしめて「ピース!」と声を張り上げる歴史に残る名演説だった。
素顔はブラジル・リオデジャネイロ出身の45歳。サッカーを愛し、ちょっぴり涙もろい熱血漢だ。
あいさつは五輪開幕の7日前からパラリンピック閉幕の7日後まで武力紛争を控えるよう呼び掛ける国連の「五輪休戦決議」にも触れ「違反することなく、順守されなくてはならない」と強調。
障害者スポーツの国際統括団体として「IPCは差別、憎しみ、争いとは無縁の紛争のない世界を目指している。ここ北京に、46カ国・地域から集まったアスリートは反目し合うのではなく、競い合う。パラリンピアンは対戦相手が敵ではないこと、そして団結すればもっともっと多くのことを成し遂げられることを知っている。世界は分かち合う場であるべきで、分断されてはならない」と宣言した。
締めくくりでは中国語、英語、母国語のポルトガル語の3カ国語で「ありがとう」と述べ、最後に「ピース」と絶叫すると会場は大きな拍手に包まれた。
第3代会長、母国でジャーナリズムを研究
パラリンピック発展の礎を築いた車いすバスケの元選手、フィリップ・クレーブン前会長(英国)からバトンを引き継ぎ、若くして2017年にIPCの第3代会長に就任した。
母国ブラジルの大学でジャーナリズムを学び、インターンで経験したブラジル・パラリンピック委員会の仕事に「これが人生の使命だ」と直感。自らは健常者だが、以来、一貫して障害者スポーツの普及と発展に注力し、南米初開催の2016年リオデジャネイロ大会では財政的な危機も乗り越えて大会を成功に導いた。
ボイコット危機に徹夜で対応
北京大会でIPCは大きな試練に直面した。ロシアとベラルーシの参加を一度は条件付きで「中立」の立場で認めたが、多くの参加国・地域や選手が反発してボイコットの意思が示され、一転して開幕前日に排除を決定した。
「想定外の反応」に徹夜で対応に追われたパーソンズ会長は「私たちには運営する大会があった。選手村は一触即発ムードに包まれ、危機的状況だった。もちろん決断に後悔はないし、正しい判断だった」と打ち明けた。
一方でスポーツやパラが持つ連帯と団結の精神を踏まえ「簡単ではなく、バランスを取る必要があった。選手の出場を認めない決断をすれば、不幸な人間は出る。誰も幸せにはなれない」と苦渋の決断だったことも明かした。
「パラリンピックは世界で唯一、障害者に光を当てる大会だ」とその発信力を信じる。開会式で「ピース!(平和を)」と声を張り上げた場面は、リハーサルなしで「魂の叫び」だったと説明している。
障害者スポーツの祭典、パラリンピックは本来、違いを認め合う「多様性」や「共生」を理念に掲げるが、今大会は「戦時下での大会で重要なメッセージは平和」と語った。今後、ロシア勢の訴えで裁判になる可能性もあるが、戦火のパラは反戦と平和を訴えるウクライナ勢が不屈の精神でメダルを量産。歴史的な大会になったことは間違いない。
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