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頭脳戦ボッチャ、エース杉村英孝が金メダルを取れた理由

2021 9/3 06:00田村崇仁
ボッチャ個人戦で金メダルを獲得した杉村英孝,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

得意技は「スギムライジング」

ボッチャはイタリア語でボールの意味。重度の脳性まひや四肢の重度機能障害者のために欧州で考案され、ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、赤と青の球を交互に6球ずつ投げていかに近づけるかを競うスポーツだ。戦略性が高く、一発逆転もある頭脳戦で「地上のカーリング」とも呼ばれる。

タイを筆頭にアジア勢が強く、日本代表「火ノ玉ジャパン」は2016年リオデジャネイロ大会で銀メダルを獲得。東京大会では個人戦(脳性まひBC2)の決勝で、エース杉村英孝(伊豆介護センター)が二手三手先を読む戦術眼と正確無比のコントロールを連発。投げた球が密集する球に乗り上げる得意技「スギムライジング」も繰り出した。前回覇者のワッチャラポン(タイ)に完勝し、日本勢として悲願の金メダルに輝いた。

パラリンピックは1984年から正式競技

試合はシングルス戦、ペア戦、チーム戦を実施。すべて同じサイズのコートを使用し、選手が投球する位置は細かく決められている。球を手で投げられない選手は、介助者のサポートを受けながら「ランプ」と呼ばれる滑り台状の投球補助具を使ったり、ボールを蹴ったりもできる。

同じ赤青のボールでも微妙に違う色をしており、硬さや材質が違うことも必見。ボールにはそれぞれ特性があり、選手は障がいの特性やプレースタイルによってボールを使い分けている。パラリンピックでは1984年大会から正式競技になった。

近年では障害の有無に関わらず、老若男女、誰でも楽しむことができるスポーツとして注目されている。ただトップレベルのアスリートともなると、何手も先を読んだ戦略、それを実行する針の穴を通すような投球で観戦するものを魅了する。

「ビッタビタ!」が話題に

テレビ中継の解説では、東京五輪で話題となった名言が再び飛び出し、盛り上がりに一役買った。「ビッタビタですよ!」。白いジャックボール(目標球)に杉村が球をぴったり寄せる様子を、解説を務めた日本ボッチャ協会の新井大基さんはこう表現し、会員制交流サイト(SNS)上でも大いに話題となった。

ビッタビタは、東京五輪でスケートボードを解説した瀬尻稜さんが、技や着地がきっちり決まる際に使った言葉。独特の言い回しと分かりやすい解説がボッチャでも注目された。

革新的な「ボチ・トレ」の成果も

日本代表の主将も務める杉村は1ミリもずれないスーパーショットを追い求めた。初出場で個人17位に終わった2012年ロンドン・パラリンピック後、手足にまひがある選手としては革新的だった筋トレで強化。日本のボッチャを世界レベルに引き上げたこの手法は「ボチ・トレ」と呼ばれる。

内容は寝返り動作や、あおむけで両腕を交互に上げるといった動きが中心。難しい寝返り動作や両腕の上下運動を繰り返して体幹を鍛え、投球時にぶれない体をつくった。こうした医学の常識を覆す強化と投球練習の反復で体に動きを覚えさせ、繊細な投球術を磨いた成果がリオ大会に続く2大会連続のメダルという成果につながった。

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