池透暢のパスセンスと池崎大輔の突破力
東京パラリンピックで銅メダルを獲得した車いすラグビーは、ぶつかり合いが許された唯一のパラリンピック競技で、欧米では「マーダーボール（殺人球技）」とも呼ばれるスポーツだ。
勢い余って車いすが転倒するのは日常茶飯事で、激しい試合展開が最大の魅力。通常のラグビーと異なり、前方へのパスも可能。ボールを持ったままゴールラインの中央部を越えるとトライとなる。
日本は2016年リオデジャネイロ大会で銅メダルを獲得し、2018年の世界選手権で初優勝した。比較的障害の程度が軽い「ハイポインター」と呼ばれる選手が攻撃の軸になるのがやはり王道だ。主将の池透暢（日興アセットマネジメント）と池崎大輔（三菱商事）の強力な得点源「イケイケ・コンビ」は、世界でも一目置かれる存在でもある。
オールラウンダー型の池の持ち味は右手から放たれる正確無比なロングパスで、トライの起点を作る。エースの池崎は世界トップレベルのチェアワークとスピードが武器。ライバルを置き去りにしてトライを量産する。
池から出された正確なパスを受け、池崎が小刻みな突破力でトライ。この形は日本が得意とする典型的な得点パターンでもある。
攻撃型と守備型、イケイケ・コンビは持ち点3.0
車いすラグビーは、障害の程度によって各選手に0.5から3.5まで、0.5点刻みに持ち点が割り当てられる。点数が低いほど障害が重く、コート上の4人の合計を常に8.0点以内にする必要がある。
車いすラグビーで意外と知られていないのが男女混合で実施されているルールだ。東京パラリンピックでは参加8チームのうち4チームに１人ずつ女子選手が存在。日本の倉橋香衣（商船三井）は、大学時代にトランポリンの練習中に首の骨を折り、頸髄損傷となった。持ち点は0.5点。持ち点の低い「ローポインター」は守備的役割が中心で、倉橋も相手の行く手をふさぐ位置取りでセンスを発揮するタイプだ。
女子が入ると、上限が1人につき0.5点アップするため、障害の軽い選手を起用する余地が広がる。障害の程度を示す持ち点で日本は池、池崎らの3.0が最高。持ち点が高い「ハイポンタ－」の選手が乗る「攻撃型」の車いすは、小回りが利く丸みを帯びた形で、低い選手が使う「守備型」は、相手の進路を阻むためのバンパーが付けられている特徴がある。
パリ大会へ雪辱の金メダルを
日本は2016年の前回リオ大会では３位決定戦でカナダを52―50で下し、初の銅メダルを手にした。2018年世界選手権は、決勝でオーストラリアを1点差で破り、初優勝を飾った。しかし、金メダルを目標に掲げた東京大会は、準決勝で英国に49－55の完敗。序盤から池、池崎の二枚看板が英国のローポインターに厳しくマークされ、ミスを誘発された。
障害の程度を示す持ち点で日本は池、池崎らの3.0が最高だが、英国は3.5点が2人いた。持ち点が高いほど障害は軽く、スピードも一段上で相手の速攻を止められず、得点を重ねられた。
幼少期に手足の筋力が低下する神経系の難病を発症した池崎は、「コロナ禍で明るいニュースを届けたかった」と涙を流した。池は19歳で自動車事故に遭い、左脚を切断して全身に大やけどを負った。「悪夢であってほしい」と天を仰いだ。
３位決定戦ではオーストラリアを圧倒し、2大会連続の銅メダル。チーム最多の23トライと奮闘したエース池崎は、それでも金メダルを目標にしてきただけに「正直、自分の中では悔しい結果。パラの舞台でやられたので、借りは（次の）パラで返す」と雪辱を期した。
「自分たちのプレーを次の世代にも見せたかった。この日の日本代表のプレーは金メダルよりも輝いていたと思う」と3年後のパリ大会を見据えている。
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