SNS普及で被害急増
女性アスリートを狙った盗撮や性的画像拡散の被害が、スポーツ界に根深く残る問題として取り沙汰されている。
最近はスマートフォンの普及で盗撮行為だけでなく、SNS上で画像や動画が売買の対象になり、手口も巧妙化して被害が急増。女性蔑視発言で森喜朗前会長が辞任した東京五輪・パラリンピック組織委員会も橋本聖子新会長に代わり、3月に競技会場での「禁止行為」に「性的ハラスメント目的の疑いがある選手の写真や映像の撮影」を新たに追加した。
主催者から撮影画像の確認を求められた場合は、応じることも入場者の「順守行為」に盛り込まれた。
スポーツ7団体が被害撲滅へ共同声明
女性アスリートの性的画像問題は20年以上前から続き、近年は中高生にも拡大する中、2020年8月に陸上の女子トップ選手が卑わいな画像をみだらな文章とともに拡散されたとして日本陸連のアスリート委員会に相談して問題が表面化。3カ月後の11月に日本オリンピック委員会(JOC)や日本スポーツ協会などスポーツ7団体が「アスリートの盗撮、写真・動画の悪用、悪質なSNS投稿は卑劣な行為」として被害撲滅に取り組む共同声明を発表した。
この流れが東京五輪も波及した形だ。アーティスティックスイミングの五輪銅メダリストで、大会組織委の「ジェンダー平等推進チーム」をまとめる小谷実可子スポーツディレクターは「私も選手時代はハラスメントに不安を持って競技していたこともあった。(禁止行為に)明記されたことは非常に大きな一歩」と強調した。
五輪も画像加工や偽動画拡散に警戒
東京五輪でもこうした問題に神経をとがらせるのは、テレビの独占放送権などを理由に、聖火リレーなど公道で撮影した動画でも規制の対象とする国際オリンピック委員会(IOC)の独自ルールが背景にある。
さらに最近はSNSを通じてアスリートに卑劣な言葉が直接送られてきたり、加工した写真を性的な意図で流布されたりなど、嫌がらせの実態が深刻化。人工知能(AI)技術を使って女性芸能人のわいせつ動画を無断で制作する「ディープフェイク」と呼ばれる偽動画が、名誉毀損と著作権法違反の罪で起訴された事例も出ているが、アイコラ(アイドルなど有名人の写真を加工する合成画像)も含めて野放しにされているのが実情だ。
国内の「盗撮行為」は刑法で規定されておらず、都道府県ごとに迷惑防止条例で取り締まっているため、規制の網から漏れる被害は数知れない。五輪組織委が新たな禁止行為に加えたのは、こうした深刻な実情もあるだろう。
「盗撮罪」創設を、取り締まりは限界も
JOCによると、対策の一環で設置された情報提供窓口には2月上旬時点で786件の情報がもたらされたという。
だがこの問題の難しさは取り締まりだ。球場やスタジアムで専門の警備員を配置しても、不審者を見つけるのは容易でない。家族やファンによる撮影もあり、線引きは難しく、全面禁止はなかなか踏み切れない実情がある。
一方で写真がネットオークションで販売される行為が多発したフィギュアスケートは2005~06年シーズンから撮影を全面禁止に。観客の撮影を許可していた体操は、一部雑誌やネットで選手の望まない画像や動画が掲載・配信される被害が相次ぎ、2004年からは観客による撮影の原則禁止を定めた。
被害は多岐にわたり、SNSで中傷被害を受けたとしても、ネット上の投稿全てに対して、選手が煩雑な削除要請の手続きを行うのは時間と労力、コスト面でも限界がある。まさに「いたちごっこ」といわれる状況だ。
スポーツ界からは被害撲滅へ法整備が不可欠として「盗撮罪」創設を求める声も上がっている。法務省の性犯罪に関する刑事法を見直す検討会では「盗撮罪」の創設が議論の一つ。五輪を契機に今後はこうした連携も焦点となりそうだ。
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