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大阪の聖火リレー「中止」、トラブル続出で高まる五輪危機

2021 4/6 06:00田村崇仁
聖火ランナーⒸゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

大阪市は公道以外で走る「代替措置」も

東京五輪の聖火リレーは3月25日に福島県からスタートしたが、変異株による新型コロナウイルス感染再拡大で大きく揺れている。

大阪府の吉村洋文知事は4月2日、新型コロナ対策の緊急事態宣言に準じた対応が可能になる「まん延防止等重点措置」を適用する期間中に大阪市内で開催予定の聖火リレーを中止する方針を表明。市内で感染が急拡大する中、見物客が公道で「密集」しやすいリレーを安全に実施するのは困難と判断した。

一方、公道以外でランナーが走ることができるよう、代替措置を実施する考えも示してドタバタの対応に追われている。変異株は大阪だけでなく、全国的な広がりを見せており、関係者からは五輪開催の可否にも波及する危機感を抱く声も出ている。

大阪府内のリレーは4月13~14日の予定。14日に大阪市内で実施予定の聖火到着を祝うイベント「セレブレーション」は無観客で開催する方針だ。

兵庫県や宮城県、島根の乱にも波及?

政府は4月1日、大阪、兵庫、宮城3府県を対象に「まん延防止等重点措置」の初適用を決定。沖縄や山形、愛媛、奈良、京都、愛知の各府県の状況も注視していると説明しており、今後も予断を許さない状況だ。

関西で同じく重点措置の対象となる神戸市などを通る兵庫県内のリレーは、措置の対象期間外の5月23~24日を予定。現時点では実施する方針だが、状況を見て判断する予定だ。

聖火リレーを巡っては島根県の丸山達也知事が2月、政府や東京都などに対して感染防止対策の改善を要求。「島根の乱」と呼ばれて一躍注目されたが、改善されなければ4月末までに中止するかどうか最終判断する意向だ。丸山知事は聖火リレーに関する大阪府知事の対応に「自然な考え方」と述べた上で「私は現在の状況では五輪本体の開催を問題だとしている」などと地元メディアに語っている。

1964年東京大会は台風で「幻のランナー」も

1964年の聖火リレーでは兵庫県―大阪府を中高生ら700人近くが走る予定だったが、九州に上陸した台風20号で風雨が強まり、前日に中止となった苦い過去がある。結局、聖火は自動車によって大阪府庁に運ばれた。

「幻の聖火ランナー」になったメンバーは2017年に「56年目のファーストランの会」を結成。2度目の東京五輪開催が決まり、今度こそと晴れ舞台を心待ちにするが、コロナ変異株の拡大で事態は揺れ動く。

聖火の炎が消えるトラブルも相次ぐ

聖火リレーは初日の3月25日からトーチの炎が消えるトラブルも相次ぎ、波紋が広がった。

台風並みの風雨でも「絶対に消えない聖火」との触れ込みだった全長71センチ、重さ1.2キロの桜色トーチ。組織委によると、トーチの炎が消えたり、炎の勢いが弱くなったりするトラブルはリレー初日の3月25日に2件、2日目の26日に1件発生。このトーチの構造に自信を持っていた組織委は「トーチに内蔵されているガスボンベのねじ込み不足が原因」との見方を示し、人為的なミスで点火が不安定になったようだ。聖火を持ち運ぶランタンの火が消えるトラブルが起きていたことも明らかにした。

組織委は不測の事態に備え、ギリシャで採火した聖火を複数のランタンに種火として補完。消えたときは種火で再点火する。聖火が消えたことは過去にもあり、1998年の長野冬季五輪ではトーチの構造に問題があって火が消えるアクシデントが相次いだ。

2008年4月に長野県内で北京五輪の聖火リレーが行われた際は、競泳男子の北島康介へ受け渡すときに火が消えて再点火された。2014年ソチ冬季五輪のリレーでは、男性走者のトーチの火が消え、近くにいた治安当局者がライターで再点火するトラブルもあった。

愛知県では「女人禁制」区間に批判も

愛知県で4月6日に実施される聖火リレーを巡っては、半田市を船で通行する一部コースが「男性限定」となっていることで批判の声も上がった。

このコースは半田運河を「ちんとろ舟」で渡る約200メートルの区間。ちんとろ舟は江戸時代から続く「ちんとろ祭り」で使われ、女人禁制のため乗船できるのは男性だけと決まっていたという。

聖火リレーでも、祭りを再現する計画だったが、男女平等をうたう五輪の精神に反するとの指摘が寄せられ、女性も参加できるよう方針転換を決めたとしている。

沿道で「密集」発生ならスキップも

コロナ禍で静粛な応援を呼び掛ける聖火リレーは、スポンサー企業の車列が先導し、盛り上げ役を果たしている。だが主催者側が「密集・密接を避けて」と呼び掛けても、沿道で静かに見守るのは簡単でない。

聖火リレーがスタートしてから最初の週末を迎えた3月28日には栃木県の沿道で観客の「密状態」が発生。大会組織委も初めて「密集」を認めた。

3月30、31日に群馬を通過した聖火リレーでも、マスク姿の観客が沿道で「密集」。人が集まりやすい著名人ランナーについて、組織委は密集回避策として観客を制限できる場所を走ってもらうことにしているが、人混みはなかなか収まらないのが実情だ。

組織委は密集を「肩が触れあう程度」などと規定しており、悪化した場合は中断して次の地点に「スキップ」すると説明していたが、まだそのケースは出ていない。今後さらに「密」が起こる可能性は十分にあり、感染対策と盛り上げイベントの間で予断を許さない事態は続きそうだ。

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