「不適切な表現」と謝罪、発言も撤回
東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などと時代錯誤で女性蔑視とも取れる発言をし、国内外で批判が拡大する異例の事態に発展した。
もともと首相時代から不穏当な発言が物議を醸す機会は多かったとはいえ、新型コロナウイルス禍で世論が五輪開催に厳しい中、男女平等を推進する国際オリンピック委員会(IOC)やスポーツ界に逆行する最悪なタイミングでの不規則発言。
翌4日に記者会見し「五輪・パラリンピックの精神に反する不適切な表現だった。深く反省したい」と謝罪して発言も撤回したが、海外メディアにも大きな波紋が広がり、五輪へさらなる逆風となりそうだ。
NYタイムズ「新たな怒りに直面」
コロナ禍で開催可否を巡る議論が過熱する中、五輪組織委のトップ自ら7月の開催に向け「一番大きな問題は世論」と持論を展開してきた中、なぜこのような発言をしてしまったのか―。組織委関係者は「コロナ対策だけでも土俵際まで追いつめられているのに、全く信じられない事態。いったいどうしたのか」と頭を抱える。
森氏はJOCが掲げる女性理事を増やすという組織改革に関連し「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね」「女性を増やす場合は発言の時間もある程度は規制しておかないと、なかなか終わらないので困る」などと発言したという。
発言に女性蔑視の意図はなかったというが、このご時世でこうした釈明がなかなか通用しないのも事実。米紙ニューヨーク・タイムズは「会議で女性の発言時間の制限を示唆」と題してリポートし、既に大会コスト増と世論の反対に苦戦する東京五輪の組織委員会が「新たな怒り」に直面することになったと速報した。
「森氏の時代遅れの態度こそが本当の問題だ」とSNSで広がる批判の声を取り上げ、ネット上で辞任を求める声が強まっていることも指摘。「会議の中で誰も異論を唱えなかったことに不快感を示す人もいた」とも紹介している。
日本は「男女平等の点で時代遅れ」
JOCは国が定めた組織運営指針「ガバナンスコード」に従い、女性理事の割合を40%まで増やす目標を掲げて規定を改定。現在は約20%だが、フランスのAFP通信は森氏の発言を「日本は男女平等の点では時代に遅れている」などと厳しく指摘した。
ロイター通信は「東京五輪責任者の森氏が女性差別発言」と速報。米ワシントン・ポスト紙も「東京五輪トップの森氏、会議で女性が話しすぎると発言」と題した記事を掲載し、首相経験のある森氏が過去にスキャンダルや問題発言を繰り返してきたと取り上げた。
過去には浅田真央さん「必ず転ぶ」と問題発言
元首相で日本ラグビー協会会長や日本スポーツ協会(当時は日本体育協会)会長も歴任した森氏は、過去にも問題発言でたびたび世間を騒がせてきた。
2014年ソチ冬季五輪のフィギュアスケート女子ショートプログラム(SP)で浅田真央さんが転倒した時には「あの子、大事な時には必ず転ぶ」と発言。2015年にはザハ・ハディド氏が手がけた新国立競技場の建設計画に触れ、そのデザインを「もともとあのスタイルは嫌だった。生牡蠣がドロっとたれたみたいで」と酷評した。
2020年東京五輪・パラリンピックの日本選手団が着用するオフィシャルスポーツウエアの発表会に出席した際には、新型コロナ感染が拡大する中、マスクを着用する関係者や報道陣を見渡して「私はマスクをしないで最後まで頑張ろうと思っている」と話したことも。
それでも今回の「女性発言」には「東京五輪のコンセプトは多様性と調和。国際的な男女参画の動きを考えると、簡単に逆風が収まらないだろう」と指摘する関係者も少なくない。
田村淳さん、聖火リレー辞退も
お笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳さんは2月3日、動画投稿サイト「ユーチューブ」の公式チャンネルで、東京五輪の聖火リレーのランナーを辞退すると発表。愛知県犬山市を走る予定だったが、辞退の理由として森会長が「東京五輪は新型コロナウイルスがどんな形でも開催するんだ」という理解不能な発言をされ、タレントは人が集まるからと田んぼで走ることを推奨するような意見も紹介したことも同意しかねるなどと説明した。
IOCは近年、男女平等への取り組みを強化し、五輪参加者の男女比率を同等にする目標を設定。東京五輪は女子の参加比率が48.8%に達し、2024年パリ五輪では史上初めて男女同数となる予定だ。
3月25日からは福島県で聖火リレーも始まるが、事態は予断を許さない。大会に参加する選手ら関係者のルールを定めた五輪初の「ゲームブック」(規則集)初版を公表し、コロナ再拡大で前例のない対策に追われる中、東京五輪はトップの「失言」でさらなる正念場を迎えている。
【関連記事】
・コロナ対策の「バブル方式」とは?安全開催探る東京五輪のリスクと課題
・東京五輪開催へ強気のIOCバッハ会長が警戒するボイコットの乱
・FIFA公認カメラマンの渾身ルポ、クラブW杯開催のカタールで完全隔離生活