ファンが描いた夢のような一戦へ、登録馬揃う
アーモンドアイの参戦表明で史上空前の豪華メンバーとなった第64回有馬記念。ダービー馬レイデオロ、ジャパンカップを勝ったシュヴァルグラン、GⅠ3勝の名牝リスグラシュー、個性派牝馬のアエロリット、引退するクロコスミア、皐月賞馬サートゥルナーリアや菊花賞馬ワールドプレミアといった3歳タイトルホースと目移りしてしまうほどだ。
こんなレースが観たいとファンが描いた夢のような一戦へ、まさにドラマチック有馬にふさわしい登録馬が揃った。
つまりそれは各路線の戦力分析に、より重要度が増すことを意味する。そこで、GⅠレースを中心に前走を振り返る。
カギは王道路線
注目は4頭出走する前走天皇賞(秋)組。過去10年で【1-1-0-10】と好走例が少ない点は気になるが、超A級メンバーが揃ったレースだっただけに入念に振り返りたい。アエロリットが演出した流れは前半1000m通過59秒0と馬場を考慮してもスローペースだったが、早めのスパートで後半800mのタフなレースに持ち込んだ。残り800~200mは11秒3-11秒1-11秒3で33秒7。3、4角中間地点からのスパートに瞬時に反応できた組だけが勝負に参加できた形。後半1000mは57秒2と前半より1秒8も速く瞬発力勝負であればこの組が最上位としたい。
スタート直後にサートゥルナーリアにポジションを奪われたアーモンドアイはインコースから最後の直線でダノンプレミアムとサートゥルナーリア、アエロリットが並ぶ壁に阻まれる。この地点は先述したように11秒1ともっとも厳しいラップだった。一瞬の迷いが命取りになる場面で冷静にアエロリットとラチ沿いへ飛び込んだルメール騎手とアーモンドアイ、人馬ともにその性能を見せつける結果だった。自力勝負に持ち込んだ3着アエロリットは距離延長でも自分の形である早めにロングスパートができるかどうかだろう。サートゥルナーリアは究極のスパートに対応できなかった印象で経験の浅さを露呈した形。やや東京コースが苦手なようで中山替わりの一変に期待したい。
前走ジャパンカップ組は今年4頭が登録。過去10年【3-4-7-47】、出走頭数が多い組だけに近年の傾向としては物足りない。ただ、今年のジャパンカップは16年ぶりに重馬場で行われた点がポイント。1000m通過60秒3は馬場を考慮すれば厳しかった。後半に11秒台が記録されない持久力戦で、天皇賞(秋)とは異なる適性が求められ、同レース7着だったスワーヴリチャードが久々に積極的なレース運びで快勝した。晩成型のハーツクライ産駒らしい覚醒が苦手とされる右回りでどうなるのか注目だ。
また昨年の有馬記念(やや重)のような上がりがかかるタフな流れになれば、天皇賞(秋)組を上回る可能性がある。逆にジャパンカップで凡走したエタリオウ、シュヴァルグラン、レイデオロは馬場に泣いた部分もあるので、これら3頭は良馬場での巻き返しもあるやもしれぬ。特にシュヴァルグランは2年連続3着と有馬記念への適性も見込める。
牝馬路線、海外組にも警戒
エリザベス女王杯組は過去10年【0-2-0-13】と目立たないが、2017年8番人気2着クイーンズリングは記憶に新しく、今年のエリザベス女王杯2着のクロコスミアは侮れない。クロコスミアがほぼ勝っていた競馬で、スローペースとはいえ、後半800mは11秒6-11秒5-11秒4と絶妙に加速し、最後の200mは11秒7と決して止まっていない。ラッキーライラックとスミヨンにしてやられた形であり、自身は理想的な走りができた。もっとも有馬記念では、アエロリットという似たようなレース運びを理想とする馬がいるので、エリザベス女王杯と同じレースができるかは微妙だが、逆に共存する可能性もある。自力でレースを演出できる牝馬2頭はどちらも引退レース、特にクロコスミアはステイゴールド産駒で有馬記念に強い血統だ。
牝馬といえば、GⅠ3勝のリスグラシューは春秋グランプリ制覇がかかる。ダミアン・レーン騎手を呼び寄せる盤石な体制だ。こちらも引退レースで、ドラマチック有馬を飾るにふさわしい。
リスグラシューと同じく前走海外組では過去10年【1-0-1-2】の凱旋門賞組にも注目。キセキとフィエールマンどちらも凱旋門賞では好走できなかったが、2013年オルフェーヴルが有馬記念で1着、2014年ゴールドシップが3着と複勝率は50%。10月初旬の凱旋門賞は王道ローテーションよりも間隔は十分であり、有馬記念を目標に立て直しが成功していれば好走も可能だろう。
注目すべきは3歳勢
昨年のブラストワンピースを含め、前走菊花賞組は過去10年【4-1-1-5】と前走レース別成績では最多の1着4頭を輩出。今や有馬記念においては菊花賞組の評価が的中への近道といっていい。今年はワールドプレミアとヴェロックスの2頭がエントリー。菊花賞では1、3着であり、有力候補だ。
菊花賞は道中で13秒台がない淀みないレース。1000mごとに区切ると、62秒4-62秒9-60秒7。前半より中盤が緩み、後半で加速するのはよくある菊花賞のラップ構成だが、中盤の落ち込みが少ない点から先行馬には厳しいレースだった。ワールドプレミアはヴェロックスをマークしながら勝負所の4角でインを抜ける武豊騎手らしい好プレーが光った。追われる立場だったヴェロックスは道中4番手をキープ、4角は外を回る形で3着死守は強さの証明でワールドプレミアとの力差は着順と比例しない。
春のクラシック未出走のワールドプレミアに対し、クラシック3冠レース皆勤のヴェロックス。前者はこの1年の消耗が少なく、後者はこの1年で経験値を積んだ。どちらも甲乙つけがたく、サートゥルナーリアと合わせた3歳馬3頭はいずれも有力馬である。
主なローテーションを中心にここまで秋のGⅠ戦線を振り返った。それぞれのレースには好走する適性へのヒントが隠されている。それら適性が有馬記念でどう生きるのか。なにせ舞台は最難関の中山芝2500mだ。展開がレース結果に左右しやすいコースであり、今年は強い先行型が揃ってエントリーした。流れを読むこと、流れから適性を導き出すことはさらに重要になるだろう。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて「築地と競馬と」でグランプリ受賞。中山競馬場のパドックに出没。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』にて記事を執筆。