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【七夕賞】明暗を分けたのは道悪適性だけか? 進化したトーラスジェミニの将来性とは?

2021 7/12 11:23勝木淳
2021年七夕賞のレース結果,ⒸSPAIA

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福島名物、七夕賞とスコール

福島競馬場がある福島市は磐梯山、安達太良山、霊山など山々に囲まれた小さい平野、つまり盆地にある。だからこそ競馬観戦の帰りに温泉を満喫できるありがたい立地ではあるが、夏は盆地特有のスコールに見舞われることも多い。

開催終わりの混雑するバスを避け、徒歩で福島駅へ向かうと、高い確率で雨に降られ、弱り目に祟り目なんてことも……。残念ながら、今年も無観客開催。雨に遭うことこそなかったが、福島名物のスコールがレースの明暗を分けた。

9レース織姫賞は天候発表以上の雨、ダートの10R天の川Sの前に止み、メイン七夕賞は再び雨。芝のレースのときに降った雨は短時間だったが、馬場に与える影響は大きかった。同条件だった前日のメイン阿武隈S(3勝クラス)は前後半1000m60.0-61.2の2分1秒2、七夕賞はこれより遅い60.8-61.4の2分2秒2。前半が遅い分、後半、ペースアップするはずだった。

ところが、先行馬の後ろに控えた組が、湿った重い馬場に苦戦、後半で追い上げられなかった。最後の600mは12.1-12.2-12.8。勝ったトーラスジェミニと2着ロザムールが直線に向くまでにうまくラップをまとめた。つまり待機策を選択した人気馬は3、4コーナーでこの記録を凌ぐ脚を使えなかった。連覇を目指したクレッシェンドラヴやヴァンケドミンゴなど福島巧者は、力のいる馬場を苦にしないはずで、これは完敗といっていい。

久々の牝馬好走、2着ロザムール

ポイントは発馬直後の先行争い。内枠に逃げ候補がまとまり、逃げ争いが激化、ペースが速くなるという読みもあったが、複数の馬が先行するときには案外ペースはあがらないもの。今回も内枠にそろった先行馬は、ロザムールもトーラスジェミニもブラックマジックもショウナンバルディもみんな、けん制するかのごとく抑え気味、鞍上がお互い見合うような形でレースははじまった。

枠順の差でハナに立つことになったロザムールはマイペースで進め、最後まで粘って2着。「夏は牝馬」とはいうが、七夕賞の牝馬は不振。馬券に絡んだのは11年イタリアンレッド以来。この年は中山施行。福島の七夕賞でいうと、10年2着アルコセニョーラまでさかのぼる。

ロザムールは不良馬場だった中山牝馬S2着やこのレースを含め、良馬場以外の芝で【1-3-2-0】。ローズキングダム産駒は芝良馬場【17-19-28-259】勝率5.3%、複勝率19.8%、良以外は【8-9-5-76】勝率8.2%、複勝率22.4%。18年種牡馬を引退、産駒数は決して多くはないが、道悪で見かけたら注意してみたい。

雨を味方につければ、さらに上でも

ロザムールを捕らえたトーラスジェミニは28戦目で待望の重賞初勝利。同馬も芝の良馬場以外は通算【2-0-1-1】の道悪巧者。強気な逃げ戦法を得意にしていたが、ここ3戦は番手で控える競馬を試み、イメージチェンジ。安田記念では一旦抜け出す場面をつくり、13番人気5着。充実度ではナンバー1だった。4コーナー出口からロザムールに併せず、内側を避けて馬場の真ん中に持ち出し、抜け出した。戸崎圭太騎手の馬場読みも冴えた。2000mで我慢の効いた走りができたことで、選択肢はさらに広がる。道悪という条件がつくが、裏を返せば雨さえ降れば、格上相手でも十分戦えるということだ。

3着は9番人気ショウナンバルディ。前走は鳴尾記念2着。七夕賞は6月のGⅢに出走した馬が穴馬になるという傾向通りの結果だった。鳴尾記念といえば、宝塚記念2着ユニコーンライオンが勝ったレース。早めにペースアップする自力勝負を逃げ切った競馬で、番手から2着に粘り込んだのがショウナンバルディだった。先行勢がそろい、展開面で不利だと判断されたためか9番人気だったものの、鳴尾記念のレース内容やユニコーンライオンの宝塚記念激走を考えれば評価すべきだった。なにより中団のインコースで揉まれながらも最後まで脚を使えたのは収穫。鳴尾記念も含め、決して単調な馬ではない。

七夕賞は7という数字に縁があるレースで、7番人気は昨年までの10年間で【1-2-2-5】と半数が馬券に絡んだ。今年も2着ロザムールが最終的に7番人気、昨年2着ブラヴァスに続き、2年連続で2着。エビデンスがあるデータではないが、頭の片隅にでも覚えておいて損はない。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。

2021年七夕賞のレース展開図,ⒸSPAIA



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