桜花賞までに乗り越えるべき壁
断然の1番人気メイケイエールは、2歳時から折り合い難という弱点を露呈させてきた。チューリップ賞の1番枠は、我々馬券を買う側以上に陣営にとって頭を抱えるほどの難題だっただろう。チューリップ賞は桜花賞を見据えて、作戦も含め中間試験といったところか。その意味でも1番枠は試験の難易度をさらに上げた。
桜花賞を意識する以上はマイル戦に適応しなければいけない。折り合えないなら逃げ馬にしてしまうという選択肢は、マイルをこなすためには選びにくい。相手が全て1勝馬のチューリップ賞ならば、最初から飛ばしてもギリギリしのげるかもしれないが、ソダシやサトノレイナスなど強敵相手では厳しい。
だからこそ武豊騎手は発馬直後からまずは抑えにいった。だが、相手は全て1勝馬、前走逃げた馬が不在とあって、先手を奪ったストゥーティの前半600mは12.9-11.6-11.8で36.3。メイケイエールはパニック状態に陥った。
反応が大きかったのは、ストゥーティがハナを切り内へ寄ったとき、そしてシャーレイポピーが2番手を取りにいった際だった。陣営のコメント通り、メイケイエールは、前にいる馬を追い抜かしたいという純粋な思いを封じられない。前に2頭を置き、馬群に入る形になり、あふれる闘争心の制御が難しくなった。
これ以上はと武豊騎手が4角手前で抑えずに行かせる道に切り替えた。この判断が1着同着を導いたといっていい。2番手にいたシャーレイポピーの福永祐一騎手も危険を察知したのか、スペースが生まれ、ハナに立つ形になった。一転して走りはスムーズ、全てを追い抜けばメイケイエールは心の安定を取り戻す。
前半に消耗、途中からスピードを上げたにもかかわらず、後続と比較しても手応えは抜群。さすがに追いだされても再加速はできず、最後はインからエリザベスタワーに並ばれ、前に出られる。だが、前に馬がいれば、メイケイエールの心は燃える。同着に持ち込んだ闘争心とマイル戦で止まらなかった点は評価したい。
ただ、後続も同じ脚色になったようにあくまで相手に恵まれた。馬の後ろに入れられない弱点を抱えたままでは枠順に左右されるなど桜花賞への不安は大きい。しかしメイケイエールの長所やスケールは示した。桜花賞まであと一カ月。陣営と武豊騎手が練る次の戦略に注目したい。
ポイントは最後の600m34.8
1着同着のエリザベスタワーは、弥生賞のシュネルマイスターと合わせて戦前、話題になったキングマン産駒。父はジャック・ル・マロワ賞などマイルGⅠ4勝の欧州屈指のマイラー。キングマンの父は現役時代スプリンターだったインヴィンシブルスピリット。キングマンのほかにモーリス・ド・ゲスト賞3連覇、ムーラン・ド・ロンシャン賞とジャック・ル・マロワ賞を勝ったムーンライトクラウド、2014年ムーラン・ド・ロンシャン賞を勝ったチャームスピリットなどマイル以下に強い産駒を送る。
その血統はグリーンデザートからダンチヒへさかのぼる。日本でグリーンデザートといえば、シンコウフォレストやメジロダーリング。短距離色の濃い血を持つインヴィンシブルスピリットだが、産駒はマイル戦にも強い。その産駒キングマンを父に持つエリザベスタワーも、メイケイエールほど行儀悪くなかったが、決してスムーズに回ってきたわけではない。パフォーマンス上昇の余地はあり、血統面の魅力も合わせ、本番で楽しみはある。
3着は先手を奪ったストゥーティ。途中でメイケイエールにハナを奪われたとはいえ、前後半800m47.7-46.1の緩いペースを流れ込んだ。4着タガノディアーナとの着差(ハナ差)を考えても、展開に恵まれての好走で、強調しづらい。
桜花賞を展望する上で、チューリップ賞の評価はやはりカギを握る。勝ち時計1分33秒8は4週目であること(例年は2週目)を考慮すれば、悪くはない。外回り戦らしい前半が緩く、我慢比べになったこともメイケイエールも含め、本番を想定した予行練習になった。
しかし最後の600mの34.8は桜花賞では足りない。阪神JFは前後半800m46.8-46.3、最後の600mは34.4だった。ソダシやサトノレイナス、ユーバーレーベンがおらず、メイケイエールと1勝クラス馬といったメンバー構成も含め、今年に限ってチューリップ賞組はやや物足りない。

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ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。
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