渋野日向子、全英女子オープンで優勝争い
今季ルーキーとして米ツアーで戦っている渋野日向子が、8月4日から7日に開催された全英女子オープンで躍動した。3年前に同大会で優勝した時と同じ、アシュリー・ブハイと最終日最終組でプレー。3年前の再現とはならず、今回はブハイが優勝したが、今季序盤の好調から一転して最近は予選落ちが目立っていたことを考えると、今回の惜敗はポジティブにとらえられる。
しかも、林間コースで開催された3年前の大会前には「リンクスコースだったら完全に予選落ち」と語るほど、アプローチやバンカー、風の対処に自信を持てていなかった。しかし、今回の会場ミュアフィールドはスコットランドを代表する名リンクス。そこでの優勝争いは渋野の成長を感じさせる。
今回の全英女子オープンでは、渋野のスイングが大きく変わったことが現地メディアで注目されていたようだ。
渋野は、バックスイングでは低い位置にクラブが上がり、ダウンスイングでは低い位置に手元が降り、クラブヘッドが浅い角度でインパクトへ向かうスイングになった。横振り気味のスイング軌道になったのだ。
フラットなスイングプレーンのメリット
横振りのスイング軌道のことを“フラットなスイングプレーン”という。縦振りのスイング軌道は“アップライトなスイングプレーン”だ。
なぜ渋野はスイングプレーンをフラットにしたのだろうか。その理由は、フラットなプレーンのメリットと、もともと渋野が抱えていた癖がポイントに挙げられる。
フラットなスイングプレーンはダウンブローの度合いが弱まりやすくなる。ダウンブローの度合いが弱まると、バックスピン量が増えにくく安定しやすい。これは、ドライバーの飛距離ロスを減らすことや、アイアンで風に強いショットを打つことにつながる。
また、ミュアフィールドのような地面がかたいコースでは、2打目以降インパクトでクラブヘッドが地面にはね返されやすく、クラブの挙動が乱れやすいが、入射角がゆるやかであれば、かたい地面でもクラブヘッドがはねにくく、クラブの挙動が乱れにくい。
また、バックスイングをフラットなプレーンにすることで、スイング軸が傾くことなく、体を(右打ちの場合)右に回しやすくなる。バックスイングでスムーズに体を右に回せると、ダウンスイング以降スムーズに体を左に回しやすくなる。
渋野は、ダウンスイングで腰が前に出て、前傾角度が崩れてしまう癖がある。ダウンスイング以降、よりスムーズに体を左に回すことができれば、前傾角度が崩れるエラーを抑制できる。
これらの理由に加えて、渋野の体の特徴もニュースイングに影響しているのではないだろうか。渋野は腕をまっすぐ伸ばしているつもりでも、肘が外に曲がる猿腕。スイング中、肘幅を狭めやすい猿腕はフラットなプレーンと相性が良い。
フラットな軌道の注意点
渋野のようにバックスイングをフラットなプレーンにする場合、ただ単に低い位置にクラブを引けば良いわけではない。テークバックではふところ(両腕と胴体の間の空間)を保ち、体の回転とミックスさせながら、クラブがフラットな軌道を描くようにする必要がある。
手先に頼ってフラットなプレーンを描こうとすると、“クラブヘッドを過度にインサイドに引いただけ”のスイングになってしまい、メリットを生かせない。
また、フラットなプレーンは傾斜地での対応が難しくなりやすい。特に左足下がりと、つま先下がり。ボールより右側の地面が高くなる左足下がりや、ボールより体側の地面が高くなるつま先下がりでは、クラブヘッドが低いところからボールに向かうフラットなプレーンはミスヒットのリスクが高まる。
傾斜地で正確にボールをとらえるためには、アドレス時の左右の足への体重の配分やボール位置の調整などの工夫がより必要になる。
飛距離の面でも難しい面がある。バックスイングでクラブが高めの位置に上がるアップライトなプレーンであれば、ダウンスイング以降、重力を生かしてクラブヘッドを加速させやすくなるし、手元がインパクトまで移動する距離が長くなるため、遠心力を大きくしてクラブを加速させやすくなる。
しかし、クラブが低めの位置に上がり、手元の移動距離が短くなるフラットなプレーンではそれらの物理的な力は使いにくい。物理的な力を使えないとなれば、フィジカルの強さでクラブを加速させてボールに力を伝えるしかなくなる。
渋野のスイングは体の強さがあってこそ
渋野のニュースイングはプレーンがフラットなだけでなく、トップオブスイングが“超”がつくほどコンパクトになった。トップは小さくなるほど飛距離減につながりやすい。
しかし、渋野はフィジカルの強さを生かして、そのマイナス要素を打ち消している。渋野はもともとフィジカルの強さはあったが、さらにトレーニングを重ねて瞬間的に大きな力を出せるようになった。
技術的な部分では、体の特徴を生かして正確性や安定性を重視したシンプルなものを構築し、必要な飛距離はフィジカルの強さで出す。そのようなコンセプトを渋野のニュースイングからは感じる。
フィジカルに自信があるゴルファーや安定性を高めたいゴルファーは、渋野の超コンパクトかつフラットなプレーンのスイングを真似してみるのも有効かもしれない。
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