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【ゴルフ】アマチュア規定が大幅改定、スポンサー契約も可能に スコア至上主義加速の懸念

2022 2/23 06:00akira yasu
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ⒸRepina Valeriya/Shutterstock.com

2022年アマチュア規定改定

今年からアマチュア規定が大幅に改定された。そのうちの一つがスポンサー契約に関するもの。これまでは、アマチュアゴルファーが企業などとスポンサー契約を結んで金銭的な報酬を受け取ることはできなかったが、今年から可能になった。

10歳の須藤弥勒(みろく)がゴルフ5などを運営するアルペンと、「プロのシード選手並み」の10年に及ぶ超大型契約を結んだ。須藤は2017年と2018年に世界ジュニアゴルフ選手権を連覇。2019年にもジュニアの世界大会を制した。そして昨年の7月31日から開催されたキッズ世界選手権を制し、世界大会4勝。この世代で圧倒的な実績を残している。

元々アルペンからは、所有するゴルフ場で自由に練習できる環境の提供を受けており、プロ転向を見据えてマネージメント契約も締結。「2032年のブリスベン五輪で金メダル獲得」を目標に掲げる須藤と、日本女子ツアーで大会を主催するなどゴルフに深くかかわってきたアルペンが、どのような歩みを見せるのか要注目となった。

スコア至上主義加速の懸念

スポンサー契約が可能になったことで、有望なジュニアや大学生などアマチュアの可能性が広がる。海外での活動など費用がかかるために二の足を踏みやすいアクションも、とりやすくなっただろう。

その一方で、スコア至上主義の加速も懸念される。企業がスポンサー契約のオファーを出す選手を決める際、選手の成績は判断材料の一つとなる。ゴルフはスコアで成績が決まるため、オファーを受けたい選手はスコアを最優先にせざるをえなくなるからだ。

元々ジュニアゴルフ界では、スコア至上主義が問題視されていた。大会では、悪いスコアで親から叱責されるのを恐れて、親の顔色をうかがいながら参加しているジュニアもいる。そういったスコア至上主義の蔓延は、ゴルフを通じた健全な心身の発達を害する上、「スコア改ざん」という事件にもつながりかねない。

また、ポテンシャルを持った選手への悪影響も懸念される。スコア最優先になると、球の曲がりを恐れて強くボールをヒットしなくなったり、トラブルになることを恐れてピンから遠い地点を狙ったりすることが増えるだろう。それでは、大きな飛躍は望めず、大きな可能性を持った選手のポテンシャルをつぶしてしまいかねない。

例えば、活躍が目立つ黄金世代の中でも、ひと際輝きを放つ渋野日向子と原英莉花だが、ジュニアの実績はさほど目立ったものはなかった。高校最後の日本ジュニアでも渋野は50位タイ、原は55位タイに終わっている。だが、体格やフィジカルを生かして小さくまとまらなかったことがその後の大きな飛躍につながった。今回の改定は、こういった若い芽をつぶしてしまう危険性もあるだろう。

アマ野球でも勝利至上主義が問題に

野球界では、勝利至上主義に疑問を呈するアクションが活発化している。元メジャーリーガーの長谷川滋利氏は、「高校野球の監督に就任したら、どういうトレーニングをしてどんなチームを作りたいか?」という質問に対して「甲子園を目指さないチーム」と結論付けた。

「『選手の教育、育成と将来』と『甲子園出場、あるいは勝利』は、決して天秤にかけてはいけないもの。何よりも前者が重く、後者は前者のおまけ程度についてくるもの、という認識ぐらいでちょうどいいと僕は思う」と長谷川氏は述べている。

コツコツ当てて相手のミスを誘って1点を取るためよりも、強い球を打つ練習。勝つために一つのポジションを極めようとするのではなく、野球の総合力を上げるために複数ポジションの練習。こういったものを取り組むべきものとして挙げている。

ちなみにこれらは学校の部活動の意義としてだけでなく、プロの選手を輩出することも考えての回答だ。

現役メジャーリーガーの筒香嘉智も少年野球や中学高校の部活動において、勝利至上主義に否定的な意見を持っている。勝利よりも、純粋に野球を楽しんだり技術を磨くことを最優先にするべきだと強く発信している。今年に入って、そのような理想の野球環境を具現化するべく、地元の和歌山県に自費で野球施設を作ることが大きく報じられた。

ゴルフで「結果(スコア)を出すことが成長につながる」という意見もあるだろう。しかし、これから経験や知識を積み重ねていく世代の選手は、萎縮せずにのびのびとプレーできる環境が大切だ。スコア以外のものを優先することが、将来の好スコアや大きな飛躍につながるのではないだろうか。

今回のゴルフアマチュア規定改定がスコア至上主義加速につながることなく、選手のより良い環境作りのためにプラスに働いて欲しい。選手の能力が開花する契約が、一つでも多く結ばれることを願うばかりだ。

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