トーナメント数は女子の52大会に対して男子は20大会
新型コロナウイルスの影響で2020年と21年シーズンが統合された国内の男女ゴルフツアーが終了した。
女子は東京五輪の銀メダリストでもある稲見萌寧が史上最高額となる2億5519万2049円を獲得して初の賞金女王に。男子は1億2759万9803円を稼いだチャン・キムが、こちらも初となる賞金王の座に輝いた。男女いずれもタイトル争いは最終戦の最終日まで誰が「王者」となるかわからない大接戦だった。
だが獲得賞金額を比べると稲見はキムの約2倍を稼いだ。2年がかりで開催されたトーナメントの数も、女子が52大会だったのに対して男子は20大会。こうした数字を比べることでファンからは長らく続く女子の隆盛と、男子の低迷が叫ばれる。
同時に「黄金世代」「プラチナ世代」といった若い選手が続々と出てくる女子に対して、男子はスターがいないから見る気がしない、との声も良く耳にする。
だが、本当に男子は「見る気がしない」選手ばかりなのだろうか?ネットで書き込まれることの多い「態度の悪さ」は自覚の問題なので、すぐにでも改められるだろう。
男子には女子には絶対に真似できない、迫力あるプレーがある。それをもっと上手くアピールすれば、見て面白いスポーツ、あるいはコンテンツになるはずだ。
伝わりにくい男子プロの凄さ
それを感じたのは先日の「日本シリーズ」だった。
私事だが、この大会は2001年に太平洋クラブ御殿場コースで開催されたワールドカップ以来20年ぶりにギャラリーとして観戦した。会場についてまず向かったのは、豪快なドライバーショットとプロならではの2オン狙いが見られるであろう6番のパー5(541ヤード)だ。
予想(期待)通り、皆ドライバーを飛ばし、ほとんどが2打目でグリーンを狙う。しかし、現場では何ヤード飛ばして、残り何ヤードを狙っているのかがさっぱりわからないのだ。
プロのトーナメントではパー4とパー5でフロントエッジ(グリーンの一番手前の地点)まで残り200、150、100ヤードのフェアウエーに目印として直径30センチほどの黄色いペイントがされる。
さらにその日の各ホールのピン位置はフロントエッジと左右のどちらかから何ヤードと表示された紙が配布されるので、選手やキャディーはこれを基準に残り距離を判断する(目印となる場所は他にもスプリンクラーやバンカーなど多数ある)。
一般の人でこの目印の存在を知っている人はどれぐらいいるだろうか?また知っている私たちでも、ロープの外から探すには小さいので、とにかく見つけにくい。ならば、いっそのこと直径を1メートルぐらいにして、横に大きく「200」「150」といった表示をしたらどうだろう。
一般ゴルファーで200ヤードをアイアンで打ち、さらにグリーンに乗せることができる人はほとんどいない。それをたやすくやってのけるのを目の当たりにすれば、プロのすごさを実感できるはず。
最近のテレビ中継では人員削減のためか、2打目の残り距離が表示されることが少なくなってきたように思う(これをするためには人を配置して、毎回測定する必要があるため)。残り距離を示したマークが大きく表示してあれば、テレビやネット中継の画面越しにも大まかな距離がわかるようになる。
飛距離が分かる工夫を
また可能な限りのホールのティーイングエリアにトラックマンかトップトレーサーなどの測定器を配置して、選手が打ったボールの初速や飛距離などをすぐに表示するのもいい。プロ野球の試合でピッチャーが150キロの球を投げて観客がどよめくのは、スコアボードに「150キロ」と表示されるからだ。
ピッチャーの投球なら145キロより150キロ。ゴルフのドライバーショットだと280ヤードより300ヤードといった「大台」を突破することで「すごい!」となる。とはいえ普通の人はこれらの数値は見ただけではまず識別できないだろうから、ゴルフでもひと目でわかるようにすればいいのではないか。今の打球が実際に300ヤード、あるいはそれ以上飛んだことがわかれば、男子ゴルフを見る楽しさが増すはずだ。
プロのすごさを感じるのは、野球ならピッチャーが150キロの球を投げ、バッターがそれを100メートル超打ち返すこと。またバスケットボールのダンクシュートなど「絶対に同じことはできない」と思わされることだ。
一般人で100キロの球を投げられる人は少ないだろうし、バスケットのゴールの高さは体育の授業の経験から、何となくでもわかる。ところがゴルフはコース毎に距離が違う上に、プロのトーナメントを開催するコースで実際にラウンドする機会はそうないので、「基準」となる距離感がなく、「すごく見える、でもどれぐらいすごいの?」となってしまうことでプロのすごさが伝わらない。
ならば女子にはない、特に飛距離面でのすごさがわかる工夫をすればいい。ここで書き連ねたことは、実行することは難しくはないはずだ。
優勝者や賞金ランク上位の顔ぶれを見ると金谷拓実や星野陸也。アマチュアの中島啓太など20代で今後が楽しみな選手も目立つだけに、やり方次第で世間の目を向けさせることは可能なはずだ。
《ライタープロフィール》
森伊知郎(もり・いちろう)横浜市出身。1992年から2021年6月まで東京スポーツ新聞社でゴルフ、ボクシング、サッカーやバスケットボールなどを担当。ゴルフではTPI(Titleist Performance Institute)ゴルフ レベル2の資格も持つ。
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