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「真の女王」は古江彩佳?賞金ランキングとメルセデス・ランキングの違い

2021 11/30 11:00森伊知郎
稲見萌寧と古江彩佳,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

稲見萌寧が賞金女王もメルセデス・ランキング1位は古江彩佳

最終戦の「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」までもつれた国内女子ゴルフの「賞金女王」争いは稲見萌寧が初のタイトルを獲得した。一方で試合ごとの獲得ポイントで争う「メルセデス・ランキング」で1位となったのは、惜しくも賞金女王レースで敗れた古江彩佳だった。

来シーズンからはシード権などは獲得賞金ではなく、この「メルセデス・ランキング」のみで争われることになるので、今シーズンの真の「女王」は古江だったという見方もできる。

2020年と21年が統合された日本の女子ゴルフツアーでは今シーズン、二つのランキングで争われた。一つめは「賞金ランキング」で、文字通り大会ごとの獲得賞金額をトータルしたもの。白熱した「賞金女王」レースの記事を連日、目にした人も多いだろう。

もうひとつは「メルセデス・ランキング」。これは大会によって賞金額が異なることによる不公平をなくし、シーズンを通じての総合的な活躍度を評価するものだ。

2020~21年シーズンで賞金総額が最高だったのは「アース・モンダミンカップ」の3億円で、最低は6000万円というのが数大会あった。

優勝賞金の額は「アース」の5400万円に対して、総額6000万円の大会だと1080万円。これは「アース」の7位(1050万円)とほぼ同じ。このトータルで争うと、勝った(あるいはいい成績を収めた)大会の賞金額による運不運があるので、選手の実力を正しく評価できているのか、という問題がでてくる。

これに対して「メルセデス・ランキング」は決勝ラウンドに進出した全選手(予選カットがない試合では出場全選手)に対して優勝200ポイント。2位は120ポイントといった具合に配分される。

さらに4日間競技の大会ではポイントが1.5倍。公式競技(日本女子プロ、日本女子オープンとリコーカップ)では2倍に。米女子ツアーの大会も、メジャーは4倍のポイントが加算される。

3日間の大会よりも4日間の大会で勝つ方が、体力を含めた総合的な実力が要求される。日本女子プロゴルフ強化協会(JLPGA)が「公式競技」と位置付ける重要な3大会。さらに格上の米メジャーと4段階に分け、そこでの成績を公平に評価し、ランク付けするシステムだ。

来季からメルセデス・ランキングでのみシード権決定

米の男女ツアーは、すでにポイントランキングでのみ年間王者やシード権を決定するルールになっている。

最終戦に臨む時点で賞金ランク1位の稲見と2位の古江の差は約1700万円あり、古江が逆転で女王となるためには優勝か単独2位になることが最低条件だった。

メディアでの報道はほぼ「賞金女王」争いにフォーカスされていたが、一方で「メルセデス・ランキング」の差は79.24点。古江は単独8位以上で逆転の可能性があり、賞金女王よりはハードルが低かった。実際に3位タイだった古江が9位タイだった稲見を3.56ポイント差で逆転して、このタイトルを得ている。

「メルセデス・ランキング」が制定されたのは2012年。これまではあまりなじみがなかった部門だが、来シーズンからはシード権についてはこれまでの賞金ランキングではなく「メルセデス・ランキング」によってのみ決定される。

今シーズンは「移行期間」ということで賞金とメルセデスのどちらかで50位以内に入れば2022年シーズンのシード権が得られた。

大会の賞金額によって大きく左右されるランキングではなく、公平なポイントランキングで評価するとツアーが決めた最初のシーズンで1位となった古江の成績は「真の女王」と評価されてもいいはずだ。

ただこれはツアーでの成績。稲見のオリンピック銀メダル獲得という大快挙は加味されていない上でのものだ。

2019年メルセデス・ランキング1位は渋野日向子

いずれにしても、「メルセデス・ランキング」でシーズン1位となった古江は3年シードを獲得することができた。これは今週からの予選会(QT)を通過して米ツアー挑戦ができるようになった場合のプラス効果は大きい。

もし日本ツアーの単年シードしか持っていない場合、翌年以降も日本での職場=シード権を確保したければ、日米両ツアーの出場スケジュールを慎重に決めた上で、両方で確実にポイントを稼ぐことが求められる。

理想は夏場までに米のシード権を確定させて、秋以降は日本で稼ぐこと。だが、米ツアーで思うように成績を残せないと、見切りをつけるタイミングが難しくなる。今年でいうと河本結が5月で米ツアーから撤退して主戦場を日本ツアーに戻したものの、以降は7位が最高で予選落ちと棄権が計8回。シード権を獲得できず、QTに回ることになった。

仮定の話としては恐縮だが、もし来年古江が米女子ツアーにフル参戦してシードを獲得できなくても、翌年の日本ツアーでの出場資格は保証されている。これは非常に大きなことだ。

ちなみに2019年の「メルセデス・ランキング」1位は、この年の「全英女子オープン」を制した渋野日向子だった(賞金ランクは2位)。

この二人で臨む米女子ツアーのQTは揃って通過して、来年はともに活躍してほしいものだ。

《ライタープロフィール》
森伊知郎(もり・いちろう)横浜市出身。1992年から2021年6月まで東京スポーツ新聞社でゴルフ、ボクシング、サッカーやバスケットボールなどを担当。ゴルフではTPI(Titleist Performance Institute)ゴルフ レベル2の資格も持つ。

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