「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

弾道や体の動きをデータ分析 選手の力を引き出す科学の力とは【ゴルフハウツー】

2021 6/7 06:00akira yasu
イメージ画像ⒸInked Pixels/Shutterstock.com
このエントリーをはてなブックマークに追加

ⒸInked Pixels/Shutterstock.com

弾道測定器やスイング解析システムがゴルフ界で普及

ゴルフ界では、トラックマンやフライトスコープ、GC2といった弾道測定器や、体の動きや重心、足圧の変動を測定するギアーズやスイングカタリストといったモーションキャプチャが普及。これにより、「結果」だけでなく「その結果となった原因」を探り当てやすくなった。

弾道測定器を使えば、正確な飛距離・ボールの回転数・打ち出し角度といったボールデータや、ヘッド軌道・ヘッド入射角・クラブフェースの向きなどインパクト時のクラブデータを確認できる。

また、ギアーズなどのスイング解析システム(※)では、「スイング中の軌跡」や「肩や背骨や腰の角度」などがチェックできる。アドレスからフィニッシュまで、体の各部位とクラブの動きを数値で可視化することができるようになったのだ。

さらに、スイングカタリストなどを使用すれば、重心の移動方向やタイミング、足圧の変動を測定することもできる。このように、計測器や解析システムの進化によって、スイングの”全容に近い情報”を得ることが可能となった。

※クラブの動きとフォームを3次元で360度方向から計測・解析するシステム

プロ初優勝を飾った山下美夢有はトラックマンを活用

今季(2020-2021)プロデビューした山下美夢有(2001年生まれ)が、4月16日~18日開催のバンテリンレディスオープンで初優勝した。

山下は身長が150センチと小柄で、飛距離が出る方ではない。そこで、距離の打ち分けを含めたショットの精度向上が勝負と考え、昨年8月にトラックマンを購入。その結果、「5ヤード単位で打ち分けられるようになった。3ヤード単位が目標」と言えるほど、感覚と実際の飛距離の差を埋めることに成功した。

今季の開幕戦は昨年6月。山下は開幕から3戦連続で予選落ちしており、プロとして初の予選通過が9月に開催されたゴルフ5レディスだった。ということは、獲得賞金が0だった頃にトラックマンを購入したことになる。この先行投資は、それだけトラックマンに備わっている最高水準の精度に惹かれたということだろう。そして、見事リターンを獲得したと言える活躍を見せた。

データの活用がマスターズ優勝につながった

山下のように距離感を磨くために弾道測定器を活用するパターンもあれば、スイング改良のために活用するパターンもある。先日マスターズで優勝した松山英樹の場合は、今年から契約した目澤秀憲コーチの存在も大きかったようだ。

目澤は雑誌の取材で「様々な測定器を取り入れ、データ分析を始めました」と語っている通り、あらゆるデータ分析に精通している。松山の練習中にフライトスコープを設置し、パッティングでもデータ分析を行うなど、データ収集に余念がない。これらデータの裏付けがあることで、提案にも説得力が生まれるはずだ。

ただ、目澤コーチの指導を受けている有村智恵は、彼のコーチングについて次のように語っている。

「自分がやりたいことに対して『こういうアイデアがある』と指導してくれる。『こうした方がいい』と言われたことは一度もない」

感覚やイメージとデータに乖離があった場合には、直接的に感覚とデータを一致させる指導はしてこなかったということだろう。松山の指導に当たっても、彼の体を知り尽くしている飯田トレーナーとも意見を交わしながら、松山のイメージとデータの乖離を無理なく埋められる提案を、目澤コーチは行なってきたと思われる。

そういったデータと知識と経験の融合による目澤コーチの指導だからこそ、「頑固」と自分を評する松山も意見を受け入れ、提案を実践してきたのだろう。データ分析がなければ、マスターズ優勝はなかったかもしれない。それほどデータ分析は大きな力を持つものなのだ。

感覚と事実をすり合わせる

感覚と実際起こっていることの乖離が大きいほど、正しい取り組みが難しくなる。そこで、データ分析が力を発揮する。実際に起こっていることが数値で可視化されることで、理想に近づけるために持つべきイメージにたどり着きやすくなるからだ。

ただし、データ分析を取り入れるにも注意が必要だ。小手先の調整をしてもあまり意味がない。例えば、「弾道(ボールデータ)がスライス」→「ヘッド軌道(クラブデータ)がアウトサイドイン」とデータでわかったからといって、やみくもにインサイドアウトに振ろうとしても効果は薄い。一時的にデータが変わることはあるかもしれないが、再現性は高まらないからだ。アドレスの微妙な体重配分やグリップ圧など、より根本的な部分までつなげようとする姿勢が重要だろう。

山下や松山が取り入れた世界最高水準の測定機によるデータ測定は、現在ではまだ一般的とは言えない。しかし、一般ゴルファーにも少しずつ身近な存在になりつつある。測定する機会があれば、是非データと向き合って上達につなげたいところだ。

【関連記事】
【男子ゴルフ】飛距離で大学生アマチュアがプロを凌駕する理由
練習ドリルとしても効果に期待 ベースボールグリップの優位性とは【ゴルフハウツー】
石川遼20代最後のシーズン 米ツアー復帰に向けた明るい兆候