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フェラーリ、12年ぶりの王座へ 2020年は現体制2年目の重要な一年

2020 2/9 11:00河村大志
フェラーリのルクレール(左)とベッテル
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Ⓒゲッティイメージズ

躍進した新人ルクレールと苦しんだ4度の世界王者ベッテル

2019年もルイス・ハミルトン、メルセデスのパッケージは強さを見せ、文句なしの世界チャンピオン獲得となった。しかし彼らが一番速かったわけではない。速いマシンを持っていたのはおそらくフェラーリだった。しかし判断ミスやドライビングエラーが重なり、速さを活かしきれなかったフェラーリはメルセデスの独走をアシストしてしまった印象だ。

特に苦しんだのはセバスチャン・ベッテル。今年のフェラーリのマシン「SF90」はダウンフォースが少なく、ストレートスピードが速いマシンだった。しかしベッテルが4度世界王者になった時に乗っていたのはダウンフォースが多く、中高速コーナーが速かったレッドブルのマシン。ダウンフォース強めのマシンで活躍したベッテルにとって、SF90は相性がよくなかったのかもしれない。

バーレーンでは風の影響でスピン、イギリスではレッドブルのマックス・フェルスタッペンをパスしようとするもフロントのダウンフォースが抜けて追突するなど、ドラッグが少ないことが要因で起こるミスが多く見られた。

さらに精神的に苦しんだであろう要因の一つに、今年からチームメイトになったシャルル・ルクレールの存在があったと想像できる。直線スピードが速く、ダウンフォースが少ないマシンを活かしたルクレールはポイント、優勝回数、表彰台回数、ポールポジション、総合ランキング全てでベッテルを上回ったのだ。一方のベッテルはシンガポールで1勝をあげたものの、焦りからかイタリアではスピン後に誤った合流で他車と接触するなど精彩を欠いた。

逆に、ルクレールはフェラーリにとって明るい希望と言える。開幕から結果が出なかった中でも、ベッテル相手に速さを見せたルクレールは、マシントラブルで優勝を逃すもバーレーンで初の表彰台を獲得。オーストリアでは終盤フェルスタッペンに抜かれるも2位を獲得し、優勝まであと一歩のところまできていた。そして、高速コースであるスパ・フランコルシャンとモンツァでは、直線が速いフェラーリの特性を最大限に活かし連勝した。

特にフェラーリの地元モンツァでは、メルセデス勢相手に一歩も引かないバトルを展開。絶対王者ハミルトンの猛攻を凌いでの優勝は、大いなる可能性を印象付けた。表彰台の中央でイタリア語でファンに挨拶したルクレールは、チームもファンも味方につけたと言っていい。若く才能溢れるドライバーがフェラーリでモンツァを制し母語であるイタリア語で挨拶する、ティフォシ(イタリア語で熱狂的なファンのこと)は心をガッチリ掴まれたことだろう。

ミスが多かった2019年のフェラーリは今年改善できるのか

フェラーリはエースとセカンドを明確に分け、徹底するチームであるが、それ故に昨年はメルセデスとの距離が空いてしまった印象だ。2019開幕当初、ベッテルがエース、ルクレールがセカンドという立場で始まったフェラーリ。ベッテルよりルクレールの方がペースが良くても、エースであるベッテルを優先してしまったがために、チャンスを消してしまうレースがシーズン通して多く見られた。

中盤以降はフラットな立場にして戦わせたものの、お互い意地を張り過ぎて同士討ちやチャンスを潰し合ってしまうなどうまくいかなかった。結局フェラーリにチームオーダーが必要であることは変わりないのだが、どちらを優先させるかはレース毎にドライバー2人の調子を見て判断する方が良いかもしれない。シーズン通してエース、セカンドを固定してしまうと昨年のような失敗を繰り返してしまうだろう。

2019年はフェラーリにとって新体制初年度でもあった。長年フェラーリで活躍したベテラン、キミ・ライコネンが抜けルクレールが加入、スポーティングディレクターとしてFIA国際自動車連盟のセキュリティ・ディレクターを務めていたローラン・メキーズを起用、そして新たにチーム代表としてマッティア・ビノットが昇格するなど大きな変化があったのだ。

チーム代表のビノットはシーズン終了後に敗因は経験だったと分析した。これまでエース、セカンドはベテランのライコネンがベッテルに譲り献身的なサポートをしていたため問題がなかったが、ルクレールという若いドライバーではそうはいかない。さらに重要な役職に変更があったことも作戦、戦略ミスが目立った理由の一つではないだろうか。

しかし今年は2年目で言い訳はできない。メルセデスを倒すには去年同様速いマシンを用意したうえで、失敗を活かし、ミスを減らすことが絶対条件となる。