ミス恐れず、自己ベストで2大会連続表彰台
別れと出会いを経験した4年間。失敗のリスクを恐れず、攻めてつかんだ銅メダルだった。フィギュアスケート男子の前回平昌冬季五輪銀メダリスト、24歳の宇野昌磨(トヨタ自動車)は「どん底」の時期を乗り越え、北京冬季五輪で2大会連続の表彰台に立った。
2月8日のショートプログラム(SP)は自己ベストの105.90点で3位発進。2月10日のフリーはバレエの名曲「ボレロ」に乗せ、フリップ、ループ、サルコー、トウループの4種類の4回転ジャンプを5本跳ぶ高難度のプログラム構成で挑んだ。
4回転フリップの転倒などジャンプでミスが出たものの、立て直して187.10点をマークして5位。SPの「貯金」を生かし、自己ベストの合計293.00点で銅メダルをたぐり寄せた。
見据えた目標は「世界一」。フリーは思い描いた演技ではなくても、前回のメダルと色は違っても、価値ある銅メダルに届いたのは成長の歩みを止めなかったからだろう。
宇野は演技後のNHKインタビューで「演技はミスがいろんなところで出てしまったけど、次につながる課題が見つかった。今はまず、この4年間いろんなことがあった中で、ちゃんとオリンピックに出場することができ、3位という成績が出せたことをすごくうれしく思う」と素直な心境を語った。
そして金メダルに輝いたネイサン・チェン(米国)に挑戦する決意を込めてこう続けた。「この構成、この練習を数年続けていけば、もっともっとレベルがあがって、今のネイサンのような位置で戦える存在になることも可能なんじゃないかと思う。今できていることに満足せずに、もっと新たな挑戦というのも、していきたいとも思っている」と覚悟を示した。
五輪は「通過点」、3月の世界選手権へ再始動
4年に一度、世界が注目する五輪でさえも「通過点」と位置付けられるようになったことが今の宇野の強さでもある。
2月20日の閉会式当日のエキシビションが控える北京では3月の世界選手権(フランス・モンペリエ)に向けて早くも再始動。指導を受けるステファン・ランビエル氏が振り付けてくれたフリー「ボレロ」の完成度をさらに高めるべく、新たな挑戦をスタートさせた。
フランス杯惨敗から恩師ランビエル氏と頂点へ
浮き沈みのある4年間で心技体の成長を遂げたことは間違いない。平昌大会後、5歳の幼少期から指導を受けてきた樋口美穂子、山田満知子両コーチから“卒業”。戦う気持ちを目覚めさせ、金メダルを取るための「荒療治」でもあった。
しかし思わぬ不振に陥り、コーチ不在のグランプリ(GP)シリーズ・フランス杯では8位と惨敗。1人で座ったキス・アンド・クライで涙に暮れた。
暗中模索の中で手を差し伸べてくれたのが元世界王者の2006年トリノ大会銀メダリストで現在のコーチ、ランビエル氏だった。スイスに練習拠点を移し、新たな環境で成長を求めてきた。
そして再びリンクで取り戻したスケートを楽しむ喜び。だからこそ、銅メダルでも本人の表情に暗さはない。「まだまだ自分が成長できる」という手応えがあるからだろう。ジャンプの確率や精度、表現力と引き上げる完成度のレベルは高い。
北京五輪のSPではオーボエの優しい音色に合わせて跳んだ最初の4回転フリップ、演技後半のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は、ともに3点以上の高い出来栄え加点(GOE)を引き出した。スピンとステップは最高難度のレベル4をそろえた。
フリーでは冒頭の4回転ループで3.45点の加点を引き出し、持ち味の表現力を示す演技構成点では5項目すべて9点台をそろえた。
新たな五輪王者に就いたチェンとの差は痛感している。北京五輪では18歳の鍵山優真(オリエンタルバイオ・星槎)が銀メダルに輝き、後輩の躍進も背中を押す。恩師ランビエル氏と新たに目指す「世界一」への挑戦。北京からの道は未来へと続いていく。
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