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15歳ワリエワがドーピング陽性、波乱の結末で北京五輪後に失格も

2022 2/18 11:27田村崇仁
カミラ・ワリエワ,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

薬物陽性でも出場容認、フリーはミス連発で涙の大乱調

世界に衝撃が走ったドーピング・スキャンダルで北京冬季五輪の話題は1人の天才少女が独占した。フィギュアスケート女子で15歳にして世界最高得点を連発し、他の選手の心を折るほどの圧倒的な強さから「絶望」の異名を持つカミラ・ワリエワだ。

周囲を取り巻くエテリ・トゥトベリゼ・コーチやチームドクター、理学療法士の調査も始まり、国ぐるみのドーピング問題で制裁を受けているロシアの闇はさらに深まるばかり。スポーツ仲裁裁判所(CAS)の異例の裁定で五輪参加継続を認められたが、肝心のドーピング違反かどうかの判断はしておらず、今後処分が確定すれば五輪後に「成績抹消」や「失格」となる可能性も残されている。

そんな世界が注視する異様な状況下で平常心を保てるほど人間はやはり強くない。調査継続中のため今大会の成績は「暫定」扱いになるという前代未聞の事態。最終滑走となったフリーに登場したワリエワは表情も硬く、正確無比だった4回転ジャンプやトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)で目を覆うような転倒や着氷の乱れが相次ぎ、演技後はショートプログラム(SP)首位からまさかの暫定4位に転落する波乱の結末となった。

両手を上げる美しい4回転ジャンプ、体操やバレエで培った柔軟性を生かした表現力は群を抜き、2月7日の団体戦ではエースとしてSPに続いてフリーも滑り、圧巻の演技でロシア・オリンピック委員会(ROC)の金メダルに貢献した。

ところが翌日8日になって栄光の人生が暗転。フィギュア大国ロシアの新星に2021年12月25日のドーピング検査で狭心症や虚血性心疾患の治療に使われる禁止薬物「トリメタジジン」に陽性反応を示したことが発覚し、今回の大騒動を引き起こすことになった。

16歳未満「要保護者」考慮、IOCは敗訴

なぜ12月の検査結果が今ごろ?なぜ15歳の選手から心臓病の治療薬?

数々の疑念は尽きないが、通常、ドーピングで陽性となれば資格停止処分で大会に出られない。だが出場可否の判断を委ねられたCASは、世界反ドーピング機関(WADA)の規定で16歳未満は処分の軽減など柔軟に対応する「要保護者」とされている点を踏まえ「例外的な状況」を考慮。ドーピング処分が未確定の段階で「五輪出場を妨げれば、彼女が受ける損害は回復することができない」とし、ワリエワの参加を認めた。

昨年12月のロシア選手権で採取した検体の分析結果の報告に6週間も要した点も「深刻な問題」と指摘し「彼女の責任ではない」と強調した。国際オリンピック委員会(IOC)や国際スケート連盟(ISU)は「敗訴」した形だ。

原因はクリスマスに心臓病を抱える祖父と同じグラス使用?

欧米のメディアは「またロシアか」と徹底的に糾弾し、ロシア側は「カミラ、頑張れ!」と悲劇のヒロインとして愛国的な報道で全面対決の様相を呈していた。

情報が錯綜する中、ワリエワから禁止薬物トリメタジジンが検出されたのは、昨年のクリスマスに心臓疾患を抱える祖父と同じワイングラスを使ったことが要因になった可能性があると、海外メディアが報じた。ワリエワの母と弁護士が主張しているという。

トリメタジジンとはロシアでは薬局で購入できる身近な薬。ただし血管拡張による血流促進効果があり、アスリートが使用すると持久力向上が期待できる。フィギュアの選手もスタミナは勝負を左右する重要な要素だ。

米メディアはトリメタジジンの他にもワリエワから心臓疾患の治療に使用される2種類の薬が検出されたと報道。新たに判明した物質は禁止薬物には指定されていない「ハイポキセン」と「L―カルニチン」の2種類だが、若いアスリートからこうした複数の薬物が検出されるのは極めて異例で、事態は混迷を深めている。

団体のメダル授与式は中止

CASはワリエワがROCの優勝に貢献した団体の結果は今回判断せず、別の手続きになると発表している。ワリエワの処分が確定してROCが失格になった場合は3位の日本が銀メダルに繰り上がる可能性がある。

神経をとがらせるIOCも前代未聞の対応として、大会期間中に団体のメダル授与式は実施しないと方針を示した。個人種目でワリエワが3位以内に入った場合も、メダル授与式を行わないとしていたが、まさかの暫定4位という展開で表彰式は開かれた。

米国オリンピック委員会(USOC)のハーシュランド最高経営責任者(CEO)は今回のCAS裁定について「公平な場で競うというアスリートの権利を否定するものだ」との声明を出し、強く非難した。

スポーツが成り立つ根幹は「公平性」や「フェアプレー精神」にある。今回の問題で、ワリエワを「15歳だから責任なし」とするのは疑問符が付く。ドーピング根絶を目指す世界の潮流は今、故意かどうかに関わらず、違反した者はそれ相応の対価を払う時代に来ているからだ。トップ選手は体内に入れるものは自分の責任で対処しなければならない。

スポーツで国威発揚を狙うロシアは、自国開催の2014年ソチ大会で国ぐるみの不正が発覚。ロシア反ドーピング機関(RUSADA)まで隠蔽やデータ改ざんに加担し、国としての五輪出場を禁じられた悪しき前例もある。

フィギュア界だけでなく、世界のスポーツ界を巻き込んだ今回の騒動。疑惑を残したままでは才能豊かなワリエワ本人も浮かばれない。「グレー決着」でなく、真相解明が待たれるところだ。

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