NHK杯で序列覆す日本勢最高の6位
シングル時代とはイメージを一新した長髪に赤色のエクステンションをつけ、鍛え抜かれた上腕はたくましく筋肉が隆起する。
フィギュアスケートの2010年バンクーバー冬季五輪男子銅メダリスト、35歳の高橋大輔(関大KFSC)は11月13日、グランプリ(GP)シリーズ第4戦、NHK杯(東京・国立代々木競技場)で課題とされるリフトで着実な成長をアピールし、28歳の村元哉中(関大KFSC)とカップルを組む結成2年目のアイスダンスで進化を証明した。
村元、高橋組はリズムダンス(RD)で70.74点の6位につけ、フリーでも日本歴代最高の108.76点をマーク。合計得点でも歴代最高の179.50点まで伸ばし、今大会日本勢で最高の6位に入った。
北京冬季五輪の1枠を争うライバルの小松原美里、小松原尊組(倉敷FSC)は7位。これまでの序列を覆す結果を残し、北京冬季五輪へ大きな一歩を記した。
全日本選手権3連覇中の小松原組を合計で7.30点上回り、高橋は演技後のNHKインタビューで「得点以上に、すごく落ち着いて演技ができた。そっちの方がうれしかった。リフトは先シーズンかなりミスが多かったんですけど、今回うまくまとめられてすごくうれしいです」と笑顔に満足感をにじませた。
力強いリフトは最高評価のレベル4
息の合った2人の演技はこの1年で大きく変化を遂げていた。
ソーラン節や琴の音色が流れる「和」のリズムダンス(RD)。海や波、魚を表現する前半部で「どっこいしょ」の掛け声が響くタイミングで高橋が村元を持ち上げ、肩を軸にパートナーをくるくると回す姿に、足腰のぐらつきが目立った昨季の面影はない。歌舞伎、忍者、芸者など日本文化の動きで観客を魅了する後半も力強く演じ切った。
高橋と村元とのコンビで記録した国際スケート連盟(ISU)公認得点は70点超となり、日本勢のRD歴代最高得点。ライバルの小松原組の自己ベストを上回り、1枠の北京五輪代表争いでも一歩リードした形だ。
週3回の筋力トレーニングが生き、高橋は「筋力強化も生かされた部分もあるんですけど、スムーズさだったり、見栄えだったり、もっと質を上げていけると思うので、これを自信にして次につなげていきたい」と手応えを強調した。
フリーはバレエ曲、ツイズルもレベル4
フリーは昨季から引き継いだクラシックバレエの名曲「ラ・バヤデール」を演じ、序盤のスピンから会場に駆けつけた観客から拍手が湧き起こった。RDとは一転したしっとりとした音楽に合わせ、同じ動きで伸びやかな片足のターンを繰り返すツイズル、相手を持ち上げるリフトを安定感たっぷりに決め、表現力豊かにプログラムを演じ切った。
終盤のツイズルで拍手が起こると、優雅な曲調に合わせたコレオステップでも手拍子を誘った。フリーはリフトでは全てレベル4を獲得する精度の高さを発揮。シンクロナイズドツイズルもレベル4の評価を受けた。
昨季と同じバレエ曲で、1年前から15.66点上げ、表現力を示す5項目の演技構成点でも2020年の43.92点から48.12点とレベルアップ。村元が「108点台は素直にうれしいです。自分自身、滑っていて全く違うプログラムを滑っている感覚はあるので。でもストーリーとしては同じストーリーを描いているので、表現としては同じなんですけど、やっているエレメンツとか去年より進化してさらにレベルアップした」と実感を込めたように、成長を凝縮したフリーの4分間だった。
今後の課題はエッジワーク
デビューシーズンだった昨季のNHK杯より息を合わせた演技でミスを抑え、RDと合わせて5度のリフトも鮮やかに決めた。
11月18日開幕のワルシャワ杯(ポーランド)、12月の全日本選手権(埼玉)と続く、小松原組との3連戦の初戦を先勝。選考は全日本の結果をはじめ、今季の世界ランキング、ISUシーズンベストなど総合して判断されるが、GPの国際舞台での結果は大きな意義があるだろう。
直接対決で過去2戦2敗していた北京五輪切符1枚を争う小松原組に初勝利し、五輪への視界が開けた意味は大きい。それでも村元は「まだ始まったばかり。パーフェクトではない」と気を抜くそぶりは見せない。
高橋も「一つの自信になった。大まかな部分もまとまってきた。でも世界のトップの選手は細かい部分がもっとすごい」とさらなる上を目指す。
高橋は今後の課題としてリフトの質やスケーティングのエッジワークを挙げた。日本勢で過去にシングルとアイスダンスの両方で五輪に出場した選手はいない。欧米で人気のアイスダンス界を盛り上げる異例の挑戦。華のある「かなだい」カップルの成長から目が離せない。
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