緊急宣言下、コロナ収束願ってトーチキス
2010年バンクーバー冬季五輪フィギュアスケート男子銅メダリストで、アイスダンスに転向して2022年北京冬季五輪を目指す35歳の高橋大輔(関大KFSC)が5月19日、地元・岡山県で開かれた東京五輪の聖火リレーに参加した。
新型コロナ感染拡大を受けて岡山にも緊急事態宣言が追加発令され、公道でのリレーは中止。華やかな祝賀ムードはなく、無観客の代替イベントが岡山市にある岡山城の敷地内で行われた。ランナーらが約3メートル間隔で1列に並び、次の人にトーチで聖火を受け渡す「トーチキス」方式で、トーチの先を互いに近づけて炎をつないだ。
先行き不透明な変異株の拡大とワクチン接種の遅れで、五輪や聖火リレーの開催可否について賛否が飛び交う中、高橋は迷いや葛藤の末に五輪経験者として「オリンピックをなくさずに続けていってもらいたい思いが強い」と地元での聖火リレー参加を決意。
出身地の倉敷市を走行することはかなわなかったが「少しでもコロナの状況が収束しますように、そしてオリンピックで少しでもみんなが元気になりますように」との願いを込め、東西冷戦下のボイコットで「幻の日本代表」に終わった1980年モスクワ五輪陸上男子400メートル障害の代表だった長尾隆史さんに聖火をつないだ。
五輪選手に育ててもらった地元に感謝も
スポーツ界の華やかな顔触れがそろった岡山県で最初のランナーを務めたのは、2012年ロンドン五輪女子マラソン代表の重友梨佐さん。元プロ野球選手で犠打の世界記録を持つ「バントの神様」川相昌弘さんも登場し、初日を締めくくったのは1984年ロサンゼルス五輪体操金メダリストの森末慎二さんだった。
一方で会場周辺は一般市民が立ち入り禁止となり、厳重な警備態勢。ランナーとして参加予定だった1992年バルセロナ、1996年アトランタ両五輪女子マラソン2大会連続のメダルを獲得した岡山県出身の有森裕子さんはコロナ感染拡大と混乱を避けて辞退した。
現役アスリートの高橋は4人兄弟の末っ子で8歳の時、家のすぐ近くにあるスケートリンクでフィギュアスケートを始めた当時を振り返り「地元でフィギュアスケートを始めていなければオリンピックに行けなかったでしょう。今回走ることはできなかったけど、つなぐことはできたので、それは非常によかった」と感謝の思いを強調。
コロナ禍でさまざまな意見が飛び交い、開催可否に揺れる厳しい現状にも「五輪をぜひ開催してほしい、という思いも込めて聖火リレーに参加させていただきました」とトーチと炎に願う思いを率直に語った。
自身の主演公演もコロナ禍で無事に終了
高橋は5月15日から3日間、横浜アリーナで開かれたアイスショー「LUXE」の主演も無事に終えたばかり。新型コロナウイルスの影響で社会が疲弊する中、アスリートとして追求するフィギュアの美しさを披露すると同時に、表現者としての新たな挑戦でもあった。
高橋は公演終了後、自身のインスタグラムで「本当大変な事も沢山ありましたが、なんとか無事に公演することが出来たことに感謝しています。最高に素敵なリュクス(LUXE=フランス語で優雅さや豪華さを凝らすという意味)な時間を皆さまにお届け出来たのはみんなが居なかったら出来なかった!本当に沢山の方々からパワーを頂きました!」などと熱い思いをつづった。
北京冬季五輪へ新たな決意も
そして地元での聖火リレー終了後、東京五輪・パラリンピックの代表選手らに「(開催は)宙ぶらりんだが、諦めず頑張って」とエールも。困難な時代で努力を続けるアスリートの思いを共有するからこそ、メッセージを届けたかったのだろう。
さらに高橋はアスリートとして新たなステージとなる来年の北京冬季五輪への決意も新たにしたようだ。五輪シーズンに向けて、カップルを組む村元哉中(関大KFSC)とともに今夏には練習拠点の米国へ渡る予定となっている。
「氷上の社交ダンス」と呼ばれるアイスダンスで華やかに全日本デビューを飾った一方、アイスダンス特有のリフトやツイズルだけでなく「課題は全て」と向上心は尽きない。最大の目標である「全日本チャンピオン」の先にある北京五輪を見据え、ダンスの完成度を高める挑戦がまた始まる。
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