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紀平梨花が羽生結弦と同じ早稲田大進学で北京五輪「金」を目指す理由

2021 1/6 06:00田村崇仁
紀平梨花Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

通信教育課程で競技と両立できる環境

フィギュアスケート女子のエースで2020年12月の全日本選手権で合計234.24点をマークして2連覇を達成した18歳の紀平梨花(トヨタ自動車)が、今春にネット通信制N高から早稲田大学の人間科学部eスクールに進学することになった。

2020年9月には同じ早大の学部を2018年平昌冬季五輪で男子2連覇の偉業を達成した羽生結弦(ANA)が卒業。早大eスクールは大半の課程をeラーニングで行う日本初の通信教育課程として2003年に始まり、世界中どこにいてもどんな時間でもネット環境さえあれば大学の講義を受講できるのが特徴だ。

最近はJリーガーなどスポーツ界から芸能人まで幅広い分野の卒業生が出ており、紀平は日本とスイスを拠点に、インターネットを通じて競技と履修の両立が可能となる環境を選択し、2022年北京五輪で金メダルを目指す。

羽生結弦を最高の手本に

2018年に進学したN高等学校(N高)もフィギュアスケートを最優先として学べる環境を求めた決断だった。

N高とは出版大手のKADOKAWAなどが設立した通信制の学校。時代のニーズに応じて中高一貫校、総合学科、単位制高校など高校も多様化する中、受講や課題提出をパソコンやスマートフォンで行うまさに「未来型」の通信制高校だ。生徒には紀平だけでなく、テニスや囲碁の女流棋聖、対戦型ゲーム「eスポーツ」で世界を目指す幅広い分野で活躍する選手もいる。

進学先の早大ではフィギュアスケートで五輪の頂点に2度立った大先輩が紀平にとっても最高のお手本となりそうだ。トップアスリートとして尊敬する羽生はカナダを拠点としながらオンライン授業などで勉強を進め、早大の卒論テーマは「フィギュアスケートにおけるモーションキャプチャー技術(人や物の動きを取り込んで3Dデータに反映させる技術)の活用と将来展望」という将来的な競技の革命を目指す題材だった。

紀平がどんな分野を探求するかは今後次第だが、毎日登校する必要がないマイペースさは、世界で戦うアスリートの環境にも適している。

エキシビションで羽生と「片手側転」披露

2連覇した全日本選手権の女子ショートプログラム(SP)で紀平は演技の最中に氷上で「片手側転」という斬新な技も披露し、国内外で反響を呼んだ。

SPでは冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を成功させるなど、安定した演技をアピール。ビールマンスピンからステップにつなぐ場面でさっと左手を氷につくと、その腕一本で体を支え、美しい側転を見せた。

競技終了後の上位選手によるエキシビション「メダリスト・オン・アイス」では5年ぶり5度目の全日本王者に輝いた羽生とも共演し、そろって「片手側転」を披露する場面もあり、会場を大いに盛り上げた。

4回転サルコーは羽生の動画も研究して初成功

代名詞のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を武器とする紀平は、全日本選手権のフリーでは国内女子選手として2003年大会の安藤美姫以来2人目となる4回転サルコーを決めた。

美しいピアノの旋律に乗ったプログラムの冒頭、無駄な動きは一切なく、軽やかな跳躍から着氷も流れるように降りた。出来栄え点(GOE)は驚異的な3.19点。安藤は当時ジュニアの選手だったため、日本女子シニアとしては初の4回転ジャンパーの誕生となった。

フィギュア全日本選手権女子最終成績


紀平にとって現在のコーチは浜田美栄氏と、スイスが拠点の宇野昌磨(トヨタ自動車)と同じステファン・ランビエル氏。コロナ禍の影響で出場を予定していた試合がキャンセルとなり、練習の成果を発揮する場を失う中で、4回転サルコーの完全習得のため黙々と筋力トレーニングに取り組んだ。これまでさほど重視してこなかった脚力の強化にも着手し「毎日筋肉痛」と悲鳴を上げながら「肉体改造」を図ってきた成果が実った形だ。

空き時間には羽生の4回転サルコーの動画も研究。「今回跳べた4回転サルコーを安定させた演技を試合でたくさんこなして、北京五輪で悔いのない、笑顔で終われるような試合を目指したい。そして、たくさんの方を笑顔にできる演技を目指して頑張りたい」。日本スケート連盟の公式ツイッターで少し照れくさそうに新年の抱負を語った。

「新たな武器」でロシア勢と勝負へ

紀平が成功させた4回転ジャンプは6種類あり、一番基礎点の低いものからトーループ(9.50)、サルコー(9.70)、ループ(10.50)、フリップ(11.00)、ルッツ(11.50)、アクセル(12.50)という構成だ。

2020年12月の全日本選手権と同時期に行われたロシア選手権では、16歳のアンナ・シェルバコワがフリーでルッツ、フリップの2種類の4回転ジャンプを決めて合計264.10点で3連覇を達成。昨季の世界ジュニア選手権女王で14歳のカミラ・ワリエワがフリーで4回転トーループを2度成功して2位。16歳のアレクサンドラ・トルソワが4回転ルッツを2度決めたフリーで3位となり、246.37点で3位となった。

「4回転時代」に突入した新時代で世界をけん引するロシアの女子スケーター勢。トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)が代名詞で昨季のグランプリ(GP)ファイナル覇者のアリョーナ・コストルナヤは直前で欠場したが、ハイレベルな戦いが繰り広げられた。

日本の「元祖」4回転ジャンパー、安藤もツイッターで「成功は今後の自信になります。ここからがスタートですね」と紀平に賛辞を贈っている。

コロナ禍でも着実に成長を遂げる紀平は五輪プレシーズンとなる3月の世界選手権(ストックホルム)への切符を手にした。代名詞のトリプルアクセルに加えた「新たな武器」を携え、打倒ロシア勢との勝負に挑む。

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