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フィギュア界を変える?羽生結弦が研究分野で描くもう一つの夢

2020 11/26 06:00田村崇仁
羽生結弦Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

早稲田大卒業論文で「AIによる自動採点」

フィギュアスケート男子で冬季五輪2連覇の羽生結弦(ANA)が9月に早稲田大学人間科学部の通信教育課程(eスクール)を卒業した。

今季は新型コロナウイルス感染症の影響でグランプリ(GP)シリーズの欠場を発表。そんな中、10月下旬に早大広報誌「CAMPUS NOW」の巻頭インタビューに登場し、卒業研究が「フィギュアスケートにおけるモーションキャプチャ技術(人や物の動きを取り込んで3Dデータに反映させる技術)の活用と将来展望」だったことも紹介した。

史上初の4回転アクセルを目指す金メダリストは将来的に「競技だけでなく、研究という領域でも突破口を開きたかった。自分にしかできないテーマ。選手の技術向上やAIによる自動採点など、フィギュアスケート界の発展に役立てたい」とコメントし、もう一つの夢を膨らませている。

競技と学問両立の集大成

12月7日で26歳となる羽生は2013年春に宮城・東北高を卒業し、早大に入学。カナダを練習拠点に競技活動と両立し、オンライン授業などで研究を進めてきた。

早大在学中の2014年ソチ、2018年平昌両冬季五輪では金メダルを獲得する快挙を成し遂げ、個人で最年少、スケート界からは初めてとなる国民栄誉賞を受賞した。

同誌によると、羽生は「目まぐるしく進化する情報という分野から、フィギュアスケートだけでなく、人間というものを見つめてみたい。そんな思いから人間情報科学科を専攻した」と説明。人間の動きをデジタル化して記録・解析する装具のモーションキャプチャを自身に着け、陸上でトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を跳んで動作を研究してきた。

もともと「数値やデータで表された自分を見てみたいという思いがあった」という。「数値は感覚の裏付けなので競技にも役立っている」という集大成の「卒論」になったようだ。

2022年北京五輪へ今季はGP欠場

今季は新型コロナウイルスの感染拡大で健康面を考慮し、2022年北京五輪プレシーズンとなる10月からのグランプリ(GP)シリーズを欠場すると発表。ぜんそくの持病がある羽生は、日本スケート連盟を通じ「呼吸器系基礎疾患を有する者が罹患した場合、重症化しやすいとの情報もあるので、可能な限り慎重に行動したい」と理由を説明した。

羽生がけが以外でGPシリーズを欠場するのは初めてのことだ。

オーサーコーチはフィジカル強化を明言

コロナ禍で先行きが不透明な中、羽生を指導するブライアン・オーサー氏は五輪チャンネルの公式インタビューで、北京五輪へ「フィジカル強化」の必要性を明言した。

史上初の4回転アクセル成功には「今以上の高さが必要になり、もっと全体的なパワーをつけなくてはいけない」と指摘。コロナ禍でのメリットをあえて挙げるとすれば「身体を鍛えるための時間が与えられた」とも明かしている。

飛行機でレポートを書き、空港で提出

前人未到の五輪3連覇へ羽生を突き動かす原動力は、早大広報誌でも明かした「学びを無駄にしたくない」という一貫した姿勢だろう。

早大在学中は時間をやり繰りしてオフの日にまとめて授業をオンデマンド受講。遠征の移動中の飛行機でレポートを書き、到着した空港で提出するという日々を繰り返してきたという。そんな探究心と情熱は、客観的な視点で分析と検証が必要なフィギュアの競技にも当然つながってくる。

羽生が自身の動作をデジタルデータ化した画期的なアプローチは、選手の技術向上やAIによる自動採点といった研究の領域でも新たな突破口となり得るのか。フィギュアスケート界の歴史を変える日が来るかもしれない。

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