ステファン・ランビエル氏に師事
フィギュアスケート男子の2018年平昌冬季五輪銀メダリスト、宇野昌磨(トヨタ自動車)が新型コロナウイルス禍の苦境でも新境地を開拓し、5連覇が懸かる全日本選手権(12月25~27日・長野)に戻ってくる。
昨シーズンから師事を仰ぐ元世界王者のステファン・ランビエル氏の母国、スイスに練習拠点を移し、アルプスの山々に囲まれた小さな街、シャンペリーの静かな環境で鍛練を重ねる日々。これまでツイッターやインスタグラムといったSNSとは無縁だったが、8月からユーチューブで自身の公式チャンネルも開設した。
11月に予定されたグランプリ(GP)シリーズ第4戦のフランス杯は新型コロナの感染再拡大を受けて中止となったが、周囲から「努力の天才」と称され、12月17日で23歳の誕生日を迎える不屈のスケーターは、尊敬するランビエル氏の指導で「日々成長を感じている。自分が満足いくスケートをすることがファンの皆さんへの最大の恩返しになる」と心身両面を支える「師弟関係」で築きつつある新たな心境を口にした。
涙の8位から新たな一歩
昨年11月のフランス杯はGPシリーズ13戦目で初めて表彰台を逃し、8位に沈んで悔し涙を流した。主要タイトルに手が届かない自身の殻を破るべく、5歳から師事した山田満知子、樋口美穂子両コーチの下を巣立ったが、新コーチが決まらずに異例の形でシーズンに突入。得意だったトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)まで狂いが生じていた。
自身のユーチューブでは「スイスでの近況報告」として当時を振り返り「去年はあの試合のおかげで新たな一歩を踏み出せた」と説明。「皆さんの支えがあったからこそ、シーズン後半に持ち直すことができた。もし支えがなかったら、(あの時点で競技を)辞めていたかもしれない」と苦悩した思いを告白した。リンクで苦楽を分かち合えるコーチが不在で「スケートが楽しいものではなく、苦しさになっていた」とも打ち明けている。
だが試練を乗り越えて全日本4連覇へ復活を後押ししてくれた救世主が、2006年トリノ五輪銀メダリストでもあるランビエル氏だった。
平昌五輪2連覇の羽生結弦(ANA)はカナダのブライアン・オーサー・コーチの門下生を長らく続けるが、フィギュアスケート界でコーチの変更は珍しくない。平昌五輪女子銀メダルのエフゲニア・メドベージェワ(ロシア)は五輪後に師弟関係を解消したロシアのエテリ・トゥトベリゼ・コーチの指導を再び受けると発表された。
一方で昨季の主要タイトルを総なめにした「ロシア三人娘」のうち、アレクサンドラ・トルソワとアリョーナ・コストルナヤは名コーチのエテリ・トゥトベリゼ氏の下を離れ、新たに2006年トリノ冬季五輪王者のエフゲニー・プルシェンコ氏に指導を受けることになっている。
北京冬季五輪へ「楽しめるスケート」を
宇野は2022年北京五輪プレシーズンの今季のショートプログラム(SP)、フリーとも昨季の演目を継続すると発表した。
SPはシェイリン・ボーンさんが振り付けた「グレート・スピリット」、フリーはデービッド・ウィルソン氏が手掛けた「ダンシング・オン・マイ・オウン」。昨季以上に洗練されたスケート技術と成熟した表現力が期待できそうだが「全力を尽くすとかでなく、皆さんが見て楽しめるようなスケート。そういった自分を見せられたら」と新境地で挑む今季のテーマを明かしている。
最近では、拠点のスイスで練習の合間に愛犬と一緒に大型スーパーで買い物する様子もユーチューブで投稿。「無類のゲーム好き」としても知られるが、自然体で等身大の姿を公開することがストイックに追求する練習とのメリハリをつける上でも、新たな宇野の魅力を引き立てているようだ。
全日本は羽生結弦もエントリー
ランビエル氏はスイスの地元紙のインタビューで、宇野のスケーターとしての魅力を高く評価している。
「15歳の時から彼を知っているが、素晴らしい才能だ。私たちはよくつながっている。彼は私が与えたものを取り入れることができる。まだ限界は見えないし、もっと多くのことができる」
ランビエル氏は自身のインスタグラムでも教え子の宇野昌磨や島田高志郎らとの集合写真を最近公開した。フィギュアスケートの技術だけでなく、芸術性を非常に重視するスケーターでもある2人は「滑る楽しさ」を分かち合えるものがあるのかもしれない。
全日本選手権には羽生結弦もエントリーに名を連ねた。実現すれば2人の勝負からも目が離せない。
世界で猛威が続くコロナ禍で先行きは見えないが、宇野は公式サイトで「たとえ次の目標が変わっても、日々やることに変わりはないので、次回、皆さまの前で演技できる時に向けて、コツコツと毎日を大切にし頑張っていきます」とコメントしている。どん底から抜け出した強さを武器に、宇野は新境地で再び氷上に立つ。
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