「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

アイスダンス高橋大輔、1日4食の肉体改造で見えた北京五輪への道

2020 11/30 17:00田村崇仁
高橋大輔と村元哉中Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

村元哉中とのペアでNHK杯3位も確かな一歩

鮮やかな黄色いズボンにおしゃれなネクタイとサスペンダーを身につけ、かつての世界王者がリンクに笑顔で戻ってきた。

陽気なテンポでコミカルな動き。半数程度の3000人に抑えられた会場が大きな拍手に包まれる中、フィギュアスケートの2010年バンクーバー冬季五輪男子銅メダリスト、高橋大輔は村元哉中(ともに関大KFSC)とペアを組んで「氷上の社交ダンス」と呼ばれるアイスダンスで華やかにデビューを飾った。

「1日4食」に増やした食事と筋力トレーニングで肉体改造に取り組み、新境地で2022年北京冬季五輪を目指す新たな挑戦。競技から一度引退した34歳の“ルーキー”の表情は、多少のミスがあっても明るかった。

グランプリ(GP)シリーズ最終戦、NHK杯は11月28日、大阪府門真市の東和薬品ラクタブドームで行われ、初日のリズムダンス(RD)で2位につけた高橋、村元組はフリーで93.10点の3位となり、合計157.25点で3組中3位。世界を制したシングル以上に表現力や芸術性が問われ、2人で滑って調和させる課題もデビュー戦で突きつけられたが、目標の北京五輪へ注目のコンビが確かな一歩を刻んだ。

NHK杯アイスダンス成績

パワーアップの成果!課題のリフトは最高難度

コメディー映画「マスク」の曲に乗せたRDは64.15点をマークし、「満点」といえる滑り出しだった。

世界一とも評される軽やかなステップとエッジワークは今も健在。新型コロナウイルス感染症の再拡大で翻弄される中、米国を拠点に練習を積んできたコンビで息の合った演技を披露し、映画で俳優のジム・キャリーが演じた主人公をイメージしたコミカルな世界観を作り出した。

シングルの技との大きな違いは、相手を持ち上げて滑るリフト。プロテインも摂取して肉体のパワーアップを図るのもそのためだ。最後のリフトは村元の脚を持ち損ねながら何とか耐え、最高難度のレベル4を獲得した。

靴のエッジは短く、3回転、4回転を競う派手なジャンプもない。これまでとは全く違う世界で戸惑いはまだ残るものの、演技を終えると、互いに背中をぽんぽんとたたいてうなずき合った。

リンクを端から端まで使う「ミッドラインステップ」では9.47点の高得点をマーク。2人で一定の距離を保ちながら息を合わせて氷上をターンする「ツイズル」でも見せ場を演出した。

フリーはツイズルで手を突くミスも構成点は2位

NHK杯はシングル選手として優勝5回。慣れ親しんだ舞台とはいえ、クラシックバレエを演じたフリーダンス(FD)のプログラムでは想定外のミスが出た。

中盤、片足ターンで村元と合わせるツイズルでつまずき、氷上に手をつく手痛いミスは転倒扱いで減点1。技のつなぎの滑りでは2人の靴の刃が重なり、距離感や技の間のタイミングも微妙にずれた。

古代インドの舞姫(バヤデール)と戦士ソロルの恋を描いたクラシックバレエ「ラ・バヤデール」のしっとりとした音楽。コンビネーションスピンからストレートラインリフト、そしてロテーショナルリフトへと着実に進み、えんじの衣装をまとって情感豊かに滑ったものの、練習では経験のない緊張感が足元の感覚を狂わせたのか細かいミスを生んだ。

それでもこれが正真正銘のスタートライン。スケーティング技術などを評価するプログラム構成点は、優勝カップルに次ぐ43.92点を出した。

デビュー戦からパーフェクトな演技とはいかなかったが、男性がいかに女性を美しく引き立てるかというアイスダンスの重要なポイントでも、高橋は優雅さを漂わせながら自然とサポート役に回ってリードした。課題のリフトやステップの表現力でも持てる力を発揮し、最後まで滑り切った。

次は全日本選手権、日本でもブーム到来?

カップル結成から、まだ10カ月。2人が本格的にアイスダンスの練習を開始したのは2月に渡米してからだ。コロナ禍で試行錯誤しながら、五輪チャンピオンを育てたマリナ・ズエワ氏の指導を基礎から受け、アイスダンス特有の足先まで意識した美しさを磨いて「世界に新しい風」を起こそうとしている。

次戦は12月25日開幕の全日本選手権(長野市ビッグハット)。欧米で人気のあるアイスダンスだが、日本でも空前のブームが到来する可能性も出てきている。

1976年インスブルック大会から五輪の正式種目になって、日本勢の最高位は2006年トリノ五輪の渡辺心、木戸章之組と、2018年平昌の村元哉中、クリス・リード組の15位。メダルを獲得したペアはいない。

アイスダンスはペアと違い、これまで男子の頭の位置より上に女子を持ち上げることは禁止されていたが、最近のルール改正で男子の腕が曲がった状態ならOKにもなった。

シングルで世界トップまで上り詰めた高橋でも転向後のスケートはまさに別次元。「知らない世界」へと挑む探究心と高揚感を胸に秘め、北京五輪への大きな夢は広がっている。

【関連記事】
高橋大輔が古典バレエの名曲でいよいよアイスダンスデビュー
高橋大輔、アイスダンス転向で2年後の北京五輪へ新たな旅立ち
高橋大輔、羽生結弦らが巣立ったフィギュア強国の原点は「野辺山合宿」