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フェンシング日本代表が世界選手権最多メダル、合宿騒動はね返し「大国」へ第一歩

2022 7/28 11:00田村崇仁
江村美咲,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

エペ、サーブルで4個のメダルは1大会最多

フェンシングの日本代表が7月23日までエジプト・カイロで開かれた世界選手権でエペ男子の個人と団体、サーブル女子の個人と団体を合わせ、1大会歴代最多となる計4個のメダルを獲得し、新たな歴史を刻んだ。

これまでのメダルは日本が一点集中主義で強化を推進してきたフルーレのみだったが、3種目で唯一全身どこでも突けば得点になるエペ、上半身の突きに加えて切ることもできるサーブルで初めて表彰台に立った価値は大きく、外国人コーチを招へいして強化の幅を広げた戦略が結実した形だ。

大会直前の6月には男女エペの沖縄合宿がレジャー中心だったと週刊文春に報じられ、世間を騒がせた。日本協会が参加者にヒアリングした結果、合宿内容自体は「不適切ではなかった」としたものの、コーチや選手の一部が家族と同部屋で滞在していたことが判明し、助成金の申請を見送る一騒動に発展。そんな「逆風」をはね返し、目標に掲げる「フェンシング大国」への大きな一歩を刻む快進撃となった。

35歳のベテラン見延和靖がエペ個人で「銀」

騒動の渦中にいたエペは35歳のベテラン見延和靖(ネクサス)が熟練の技と戦術眼を発揮し、元世界ランキング1位の底力を示した。

自らのインスタで「今シーズンは何度も1本勝負を経験し、1本勝負に泣き、笑うシーズンとなりましたが、最後は表彰台に立ち、笑って締めくくることができました」と報告した通り、個人戦は3回戦で山田優(山一商事)、準々決勝では加納虹輝(JAL)と東京五輪団体の金メダルメンバーを最後の「1本勝負」で撃破。

世界で競技人口が多く「キング・オブ・フェンシング」とも呼ばれるエペで決勝まで駆け上がり、最後は東京五輪金メダルのロマン・カノヌ(フランス)に12―15で敗れたものの、史上初の銀メダルに輝いた。

団体でも最年長のリーダー格らしく、チームを背中で引っ張った。準決勝で難敵イタリアに敗れても立て直し、3位決定戦でハンガリーを倒して銅メダルを手にした。

急成長の江村美咲がサーブル史上初の「金」

女子サーブル個人では日本フェンシング界初のプロ選手、23歳の江村美咲(立飛ホールディングス)が170cmという長身を生かしたリーチのある攻撃を生かし、金メダルを獲得した。日本女子にとっても、サーブル陣にとっても、悲願の世界選手権制覇。五輪を通じても初の快挙であり、世界選手権では2015年モスクワ大会で男子フルーレを制した太田雄貴以来、日本勢2人目の優勝となった。

急成長する江村は自身のインスタで「過去最高のシーズンの締めくくりとなりました。数年前の自分には想像もできなかったと思います。みんなで勝ち取ったメダル、本当に嬉しいです」と喜びを報告。昨夏の東京五輪は3回戦で敗退と力を発揮できなかったが、今季は新任のフランス人コーチ、ジェローム・グース氏の指導で急成長し、従来の攻撃力に加えて柔軟性も兼ね備えた戦術の幅が広がった。

決勝では世界ランキング1位のアンナ・バシタ(アゼルバイジャン)を15―10で撃破。大会後は世界ランキング2位に浮上し、最高の形で今季を締めくくった。

江村は団体でも大車輪の活躍で得点を量産し、銅メダル獲得に大きく貢献。日本協会の武井壮会長は自身のツイッターで、江村の金や見延の銀メダルという快挙を受け「素晴らしい努力と鍛錬の賜物だ。彼らの努力を知っているからこそ、彼らを信じます。その努力を疑うような声に負けないでほしい。みんな頑張れ」とコメント。

さらに「史上初のメダルが多く生まれた過去最高の大会になりました。スポンサーの皆様、ご寄付、応援してくださる皆様のサポートのおかげでパリ五輪に向けて大きな飛躍となりました」と選手の奮闘をたたえた。

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