W杯で江村美咲が日本勢初制覇、世界ジュニアで飯村一輝も頂点に
2021年夏の東京五輪で男子エペが団体金メダルの金字塔を打ち立てた日本のフェンシング界が今季も勢いづいている。
「中世の騎士」による剣術がルーツとされ、陸上、競泳、体操、レスリングなどと共に1896年の第1回アテネ五輪から現存する歴史を持つ伝統競技。そんなフェンシングの日本協会新会長として、競技の「メジャー化」へさらなる改革に乗り出したのが「百獣の王」のキャラで人気を集めるタレントの武井壮氏だ。陸上だけでなく多様なスポーツ経験を持ち、独自のスタンスで発信力を高めてきた哲学がある。
5月7日、チュニジアで行われた女子サーブル個人のワールドカップ(W杯)では東京五輪代表で23歳の江村美咲(立飛ホールディングス)が優勝し、同種目で日本勢初のW杯制覇を果たした。
4月17日には男子フルーレのW杯がベオグラードで行われ、飯村一輝(慶大)が3位に入った。同種目で18歳3カ月でW杯表彰台に立つのは、2008年北京大会から五輪2大会連続銀メダルを獲得した太田雄貴の18歳7カ月を抜いて日本選手最年少となった。飯村は4月にドバイで行われた世界ジュニア・カデ選手権のジュニアで頂点に立ったホープでもある。
1月には女子フルーレ団体のW杯がポーランドで行われ、上野優佳(中大)、東晟良(日体大)、辻すみれ(朝日大)の東京五輪代表と菊池小巻(セガサミー)で臨んだ日本が2大会連続の準優勝と相次いで表彰台に立っている。
太田雄貴会長からバトン、市場生み出すモデルケースに
東京五輪前の2021年6月、斬新なアイデアでさまざまな改革に着手してきた太田雄貴会長からバトンを引き継ぎ、陸上10種競技の元日本王者で芸能界に転身した武井壮氏が新会長に就いた。
あらゆる動物の弱点を突いて倒す「百獣の王」を目指す49歳はフェンシングの経験こそないが、歴史あるフェンシング界に新しい風を吹き込む決意の下、マイナースポーツに新たな市場を生み出すモデルケースを打ち出し、就任会見で「1人のアイデアマンとして尽力したい」と意気込みを語った。
国民的スポーツへフェンシングパーク構想も
日本協会の公式サイトによると、武井会長の改革の3本柱は(1)フェンシングというスポーツを国民的なメジャースポーツへと昇華(2)トップフェンサーの地位向上と生活水準の引き上げ(3)自立した経済基盤を確立し、広告効果を持つ競技へと成長させる―である。
特にタレント活動と「二刀流」に挑みながら「野球やサッカー、大相撲のような国民的なスポーツ」への思いは強い。その構想として多くのメディアに語っているのが「フェンシングパーク」構想だ。剣やウエアが必要なフェンシングは競技を始める参入へのハードルが意外と高いとされる背景を考慮し、各都道府県の地元企業と連携して無料で競技をできる場所の確保を呼びかけている。
フェンシングの競技人口は約6000人。全国に愛好家を増やすために、剣の突き合いのような遊びの延長で楽しめる大会の創設も検討しているという。選手が海外遠征費を自己負担するケースがある現状も踏まえ、お金を生み出す意識改革を促している。
全日本選手権決勝は初の屋外で実施
2021年秋の全日本選手権の決勝は六本木ヒルズアリーナで史上初の屋外で開催された。太田前会長のアイデアによる「劇場型」の室内開催から打って変わり、新型コロナ禍の状況下などを考慮した「屋外」をアピールし、約250席分のチケットが即日完売。都心の風景で頂上決戦が行われ、新たな風を印象付けた。
今後、武井会長の改革でどんなフェンシングの新たな可能性を見いだし、競技の活性化と国民的スポーツへの普及につなげられるのか。「百獣の王」の手腕が注目されそうだ。
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