キリスト教の主要地をめぐった“巡礼”の第76回大会
自転車ロードレース大国スペイン最大のレース「ブエルタ・ア・エスパーニャ」が、8月14日から9月5日までの会期で開催された。76回目を迎えた今回、3週間に及んだ戦いを制したのは31歳のプリモシュ・ログリッチ(UAEチームエミレーツ、スロベニア)。大会史上3人目となる、個人総合3連覇を果たした。
ブエルタ・ア・エスパーニャ(以降ブエルタ)は、例年5月に開催されるジロ・デ・イタリア、同じく6月下旬から7月下旬にかけて行われるツール・ド・フランスとならび、自転車ロードレース界最高峰の大会「グランツール」として君臨する。
通過する街や山岳の美観から“世界一美しいレース”と呼ばれるジロ、大会の規模や格式から“世界最大のレース”と称されるツール、そしてブエルタは急峻な山々がハイライトとなることから“世界一過酷なレース”として世界中のファンを魅了している。
今年は建立800周年を祝うブルゴス大聖堂をスタートし、大会前半はイベリア半島を南下。スペイン南部のバレンシア州までたどり着いたところで、今度は北上。最後は11年ぶりに聖ヤコブ大祭を迎えた同国北西部のサンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂にフィニッシュ。同国におけるキリスト教の主要地を多数めぐるルート設定で、さながら“巡礼の旅”ともいえる趣きだった。
そんな今季最後のグランツールには、ジロ、ツール、さらには先の東京五輪・自転車ロードレース種目で活躍した選手たちが多数集結。シーズン最高の顔ぶれがそろったレースにあって、戦前から個人総合優勝候補筆頭に挙げられていたのがログリッチだった。
ログリッチ「予定通り」のブエルタ3連覇
今大会は例年に違わないタフな山岳コースに加えて、第1ステージ(7.1km)と大会最終日の第21ステージ(33.8km)に設けられた個人タイムトライアルが大きなポイントだった。そうした中で、山岳・タイムトライアルともに世界最高レベルにあるログリッチが最も有利であることは、これまでの実績から考えて自然な見方だった。
ログリッチは、東京五輪・個人タイムトライアルの金メダリスト。3週間の総所要時間で争う個人総合争いにおいて、彼を倒したいライバルたちからすると、第20ステージまでに十分なリードを奪っておく必要があった。多少先行している程度では、タイムトライアルに絶対の自信を持つログリッチに最後の33.8kmの戦いで簡単に逆転されてしまうからだ。
いざふたを開けてみるとログリッチの盤石さが際立った。第1ステージを勝利して滑り出しに成功すると、その後は調子を落とすことなく走り続けてライバルの追撃を許さなかった。
各ステージ終了時に個人総合で首位の選手が着用するリーダージャージ「マイヨロホ」を大会初日から手に入れ、途中の数日間手放したものの最難関の第17ステージで圧勝してジャージを奪還。最終日の個人タイムトライアルを待たずに、大会3連覇を決定づけた。個人総合2位のエンリク・マス(モビスター チーム、スペイン)との最終タイム差4分42秒は、過去24年では最大差でもあった。

ⒸTim De Waele / Photo Gomez Sport
また、史上3人目となった大会3連覇に関しても、過去の2人とは違った価値のあるものになった。トニー・ロミンゲル(スイス)が勝った1992年から1994年は、規模が似るジロと同時期開催で、有力選手が分散する傾向にあった。ロベルト・エラス(スペイン)も2003年から2005年に制覇しているが、3連覇めはドーピング疑惑によるタイトル剝奪ののちに処分が撤回。その経緯が不透明なまま、時間だけが過ぎてしまっている。
ことログリッチに関しては、開催時期やアンチ・ドーピングの取り組みが整った中での3連覇だけに、その偉業がより輝くものといえよう。
18歳の時にはノルディックスキー・ジャンプ競技の選手として、世界ジュニア選手権の団体で金メダルを獲得した異色の経歴を持つログリッチ。すっかり自転車ロードレースの顔の1人となり、数々のタイトルホルダーになっている。早くも大会4連覇への意欲を見せているほか、あと一歩届かずにいるツールの個人総合優勝へのモチベーションもさらに高まっているようだ。
若手・中堅クラスの台頭も光る、ベテラン新城は15回目のグランツール完走
このブエルタも、先のツールと同様に若手・中堅クラスの台頭が目立った大会になった。
地元スペイン勢最高の個人総合2位となった26歳のマスは、途中で落車トラブルに見舞われ痛みを抱えながらも上位をキープ。キャリアでは2回目となる総合表彰台への登壇を果たした。
かたや、28歳のジャック・ヘイグ(バーレーン・ヴィクトリアス、オーストラリア)は、グランツール初のトップ3入り。ツールでは激しいクラッシュによって複数箇所を骨折する大けがを負ったが、驚異の回復力でスペインに乗り込むと、そのまま上位戦線へ。両者とも20歳代前半から嘱望されてきた選手で、いよいよトップライダーに定着した印象だ。
平坦ステージでのスプリント(フィニッシュ前のスピード勝負)で3勝を挙げたファビオ・ヤコブセン(ドゥクーニンク・クイックステップ、オランダ)は、初のポイント賞を獲得。昨年8月にレース中の大事故で一時重体となり、その後も顔面や口腔内の修復手術を繰り返すなど、復帰へ多大な苦労を重ねてきたが、今大会で完全復活をアピール。第4ステージでの1勝目は、事情を知る選手・関係者・世界中のファンすべてが感動と喜びを共有した。
ログリッチらを差し置いて7日間にわたってマイヨロホを着続けた、オドクリスティアン・エイキング(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ、ノルウェー)というニューヒーローも生まれた。
第10ステージで、ステージ優勝こそ逃したものの個人総合上位陣に対し大差で先着すると、一気に首位へ浮上。第17ステージの山岳区間で力尽きたが、それまでトップを走り続ける快進撃。最終的に個人総合11位で終え、これまで戦力的に劣ると見られていたチームもアウトサイダーとして一目置かれる存在になった。
日本勢では、新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)が唯一参戦し、キャリア15回目のグランツールも完走。今回は総合成績がかかっていたヘイグのアシスト(サポート役)を務め、躍進に大きく貢献。ここまでシーズン25勝を挙げ絶好調のチームを下支えする貴重なベテランは、今年2回目のグランツールでもきっちりと役目をまっとうした。

ⒸCharly Lopez
シーズン終盤戦もビッグレースが目白押し
自転車ロードレースシーズンは、ブエルタ閉幕を合図に終盤戦へ。今後はワンデーレースや数日間のステージレースがメインとなる。
要注目レースとして、今年の世界王者を決めるUCIロード世界選手権が9月下旬(男子個人タイムトライアルは19日、男子ロードレースは26日)、クラシック最高権威の1つであるパリ~ルーベが10月3日、同じく高い格式を誇るイル・ロンバルディアが10月9日にそれぞれ開催される。
これらには、ブエルタで主役を争った選手たちも数多く参戦を予定。シーズン最後のビッグタイトルを賭けて、レースシーンは活性化する。
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