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那須川天心が実感するキックとボクシングの違い、相手より自分と戦う「元神童」

那須川天心,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

「一番最初に思ったのは距離感とラウンド数」

キックボクシングからボクシングに転向した那須川天心(24=帝拳)が13日に会見し、4月8日に東京・有明アリーナでデビュー戦を行うことを発表した。

日本バンタム級4位・与那覇勇気(32=真正)とスーパーバンタム級6回戦。キックボクシングで42戦全勝(28KO)の戦績を残し「神童」と呼ばれたスターが、似て非なるボクシングでどんな戦いを見せるのか興味は尽きない。

会見ではキックボクシングとボクシングの違いについて質問が飛び、天心はこう答えた。

「一番最初に思ったのは距離感とラウンド数。キックの距離に慣れてたんで今も模索中と言うか、4月8日に完璧を見せられるかというとそうではない。ラウンド数は体の使い方だったり、簡単に言うと短距離が長距離になる。全く違うスポーツ。蹴りがなくなっただけと言われるけどそんなことはない。奥が深い」

キックボクシングは蹴りに備えて距離を取ることが多いが、両拳だけで戦うボクシングではキックの距離だとパンチが届かない。かと言って闇雲に距離を詰めると被弾するリスクも増える。だからこそフェイントを入れたり、攻防一体となった戦い方が重要になる。

また、3ラウンドで終わるキックボクシングに対し、ボクシングは世界戦なら12ラウンドの長丁場。キックと同じペースで戦い続けたらスタミナがもたない。ポイントを取られないように攻めながら休むなど、目に見えないテクニックも必要だ。

天心が言う「奥の深さ」は、それらの課題に毎日向き合っているからこそ感じているのだろう。そこにはキックボクシング時代に培った実力や人気にあぐらをかくことはなく、真摯に一からボクシングを学ぼうという姿勢が感じ取れる。

帝拳ジムの本田明彦会長は「考えられないくらいの学習能力があります。60年以上やっていますが、あんな選手は見たことがないです。スパーだけで1試合分くらい学習する」と絶賛したことが報じられている。

国内有数の名門ジムを率いる世界的プロモーターにここまで言わしめるのは珍しい。天心の呑み込みの早さは、類まれなセンスを持つことはもちろん、旺盛な向上心や謙虚な姿勢から来ることは間違いないだろう。

「ボクシングからの果たし状」の意味

天心が明かした、もうひとつのキックとボクシングの違いがメディアの扱いだ。2月9日に行われたプロテストには報道陣が集結し、デビュー前のボクサーとしては異例の扱いだった。

「(プロテストは)ニュースでも放送され、全局で放送していただいて嬉しく思いましたし、6月から試合をしてなかったので那須川天心が帰ってきたという形を見せられた。キックの時はニュースで1回も放送されなかったんで悔しさはありました」

昨年6月19日に天心と武尊が戦った「THE MATCH 2022」は、生中継を予定していたフジテレビが撤退。結果的にはABEMAで生配信され、大きな反響を呼んだが、ニュース番組で取り上げられることはなかった。

同じ格闘技でここまで扱いが違うと、キックボクシング界を引っ張ってきた天心は忸怩たる思いを抱いただろう。競技としての歴史や統括団体、メディアとの関係性など様々な事情が絡み合って、キックとボクシングに「差」が生じているのは厳然たる事実だ。

天心は会見の冒頭で開口一番こう言った。

「この試合はボクシングからの果たし状だと思ってるんで、しっかり勝って証明して、尊敬だったり、覚悟を持って、ボクシングと戦おうと思っている」

相手ではなく、ボクシングと戦う。そう語る背景には、キックボクシング界を背負ってきた矜持があるはずだ。キック時代は感じられなかった注目度の高さや、アンチからの心ない批判など、全てに打ち勝つために結果を出すしかないのだ。

「毎日楽しいし、ストレスもない」

デビュー戦の相手・与那覇勇気は「挑戦してきてくれることに敬意を込めて全力で殴り倒しにいく」とKO宣言した。与那覇にももちろんボクシングの先輩として、現役の日本ランカーとしてプライドがある。口だけではなく、本気で倒しに来るだろう。

しかし、天心は与那覇がどれだけ強気なコメントや挑発とも取れる言葉を口にしても、一切動じることはなく、表情ひとつ変えなかった。なぜなら天心は与那覇ではなく、ボクシングと戦い、自分と戦っているからだ。

過去の栄光は忘れ、一から再出発する天心には驕りも迷いも全くない。「毎日楽しいし、毎日最高。ストレスもないし、本気で好きなことをやれてるっていいなと思う。そう思わせてくれるボクシング界も好きになるし、まだまだ格闘技は辞められない」と瞳を輝かせた。

デビュー前のボクサーに過度な期待は禁物だ。まだまだ「お手並み拝見」といった見方が大勢を占める。しかし、もしかしたら我々は超大物スターの進化の過程を見ているのかも知れない。天心がそういうワクワク感を持たせてくれることは確かだ。

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